自信はないですよ-教訓:「汝自身を知れ」
- 2014年 8月 27日
- 交流の広場
- 藤澤豊
成功報酬という目先の欲を見過ぎるだらしのないヘッドハンターから電話があった。ドイツのというより世界のと言った方があっている巨大なエンジニアリング会社のAutomotive parts事業のマネージャーのポジションだと言う。ヘッドハンターに信頼関係を求める野暮を言う気はないが、こっちがコンサルしてやろうにもしようのない出来の悪いヘッドハンター、できれば付き合いたくない。Automotive partは専門外だし、ヘッドハンターがああだのこうだの煩いし、そのエンジニアリング会社は好きになれないので会いたくないと言って電話を切った。
フツーならこれで終わる。何日かして同じ要件でまた電話をかけてきたときにはちょっとムッとした。この間、その話は断ったろう。嫌いだから会いたくないって言っておけと言ったら、クライアントが是非会いたいって言っているという。どうせ口からでまかせの世辞でしかないが、そこまで言うのなら会ってやってもいいと答えていた。答えている自分を後ろで見ていたもう一人の自分が言う。「馬鹿、だらしのないヘッドハンターの顔を立ててやって、会いたくもないのに会うのか?間違っても仕事を受ける気がないのに時間の無駄だろうが、何考えてんだ。」言い訳がましく、「まあ、いいじゃないの。たまには気分転換と市場調査を兼ねて。何でもやってるヤツらだけど、Automotive partsまで手を出していたとは知らなかった。冷やかし半分で事情聴取も。。。いいじゃないか。」
そのエンジニアリング会社、知っている限りでは絵に描いたような腐れ外資特有の民僚組織。それも大河の河口のように水が流れているんだか流れ得ないのか分からない、時間の感覚を失いかねない緩さ。営業部隊に至っては、まるでお嬢様ラグビーしかできない。汗水たらすこともなければ泥だらけになるようなこともなくい。ただただ恙無い日々がある人たち。そんなところに行ったら頭も体も鈍って現役引退になりかねない。間違って行ったとしても一、二年の内に療養生活に見切りをつけて戦場復帰しなかったら使いものにならなくなる。まだまだ現役の傭兵のつもりでいるのが冗談じゃない。
前の晩にホームページでAutomotive part事業のページを見たが、悲しいかな専門外、ピンとこない。何の実感もなくエンジニアリング会社に面接に行って驚いた。話が違う。兼任の立場でドイツ本社から出張で来ていた四十半ばに見えるドイツ人が面接官だった。馬鹿ヘッドハンターには呆れた。Automotive parts事業ではない。エンジニアリング会社が求めていたのは、日本の自動車メーカと部品メーカの海外生産拠点に向けてエンジニアリング会社のいくつもある関係事業体を統括してビジネス展開してゆく重責を担える人材だった。
職務について若干の説明を受けて何が求められるのかを確認していった。たいした時間はかからない。日本の自動車や部品サプライヤー向けのビジネスの実体験が乏しいのだろう、話のなかに机上の空気が多すぎる。詳細を話せないのは社の機密の問題ではなく戦場を知らない将校にすぎないからでしかない。こんなのに率いられる兵はたまったもんじゃない。命がいくつあっても足りない。
だらしのないヘッドハンターのおかげで得た一期一会の出会い。雇われようと思っていないから相手に好印象を与えようなどと気にもしない。知りたいこと気になることを尋ねて、言いたいこと、相手が知っておいた方がいいだろうということ話した。
任務の全体像の説明を受けて説明し始めたが、白板の前に二人で立ってまるでコンサルもどきのディスカッションになるのに時間はかからなかった。「四つの点で非常に難しい任務で十中八九失敗するChallengeの典型例だ。」と具体的な例を上げなら四つの課題を解説していった。「その任務を一人でできる人は誰もない。そのくらいのことは分かっているのだろう。」、「あまりにも性格の違ういくつもの製品事業部と渡り合わなければならない。社内ですらまとめる能力のある人がいるのか?」、「海外生産拠点というが、北米もあれば南米もある、中国もインドもヨーロッパも、あげくはロシアまで、」、「長年付き合ってきたヨーロッパのパートナーと安値受注も厭わない日本の装置メーカとの兼ね合いはどうするつもりだ。」白板から机に戻ってはPCにメモを入力して、また白板に戻っての繰り返しをニ時間近く。
「もし、この仕事受けろというのなら受けてもいいが、自信はあるのかと聞かれたら自信はないと答える。チャレンジしてみる価値はある。」、「こっちの心配よりそっちには機能するように支援する責任があるが支援する自信はあるのか?」、「ないのなら能力のある人材を雇っちゃ失礼だろう。適当な人材を雇って茶番もどきで収めて置いた方がいいんじゃないか。」、「もし、やれる自信があると答える候補がでてきたら、その人は任務を遂行するために必要とする経験と知識がなんなのか分かっていない。安易にできると思っている知識が足りない人か、ただの馬鹿だろう。注意した方がいいが、その程度の人にしておいた方がいいかもしれない。」
Job interviewというコンサルを終わって、もうこれで電話がかかってくることはないだろうと思っていたら、一月経ったころにまた会いたいと。お人好しにも出かけて行って、前回宿題のようになっていたことを報告してきた。それを聞いて、それをしたらこう言う問題が発生するだろうが、言ってみれば薬の副作用のようなものだが、この副作用放って置くわけにゆかないだろう、となるとその手は、こういう手にした方が。。。二回目のコンサルを終えてさすがにもうないだろうと思っていたら、また来てくれと。
三回目のコンサルをして、もういい加減にしてくれと思っていたら日本支社の社長に会ってくれと言ってきた。面白半分、どんなのがあの緩褌部隊の社長をしているのかに興味があって。。。さっさと引き上げるつもりでお伺いしたが二時間近く話し込んでしまった。会えてよかったと思える人に会えた。意味のある話しをお聞きして、無駄な時間ではなかった。翌日は即決で決まってしまった米国系のコングロマリットへの初出社の日だった。
拙い経験からでしかないが、自信があるように見える人にかぎって職責の重さを理解していないだけのことが多い。職責の重さを知るということは己の能力を知ることに他ならない。己の能力すら知り得ない人に職責の重さを云々しても始まらない。己の能力を多少なりとも知れば人は謙虚でしかあり得ない。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
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