「アベノミクス」は、ハーメルンの笛吹
- 2014年 8月 28日
- 交流の広場
- 熊王信之
日本の国家財政の危機が喧伝されて久しいのですが、幸いにも今日まで危機の顕現を目前にすること無く推移して来ました。 しかしそれがために箍(たが)が外れたのか、国債発行額が年々増大し、今日また、「アベノミクス」なる幻想を基礎にした際限の無い国債の日銀引受が合理化されているのが現実です。
日本の財政は、以下の財務省の資料に依れば、歳出中に税収が占める比率が年々減少し、今日では、半分に過ぎません。 即ち、平成26年度当初予算では、52.1%です。 これは、多少なりとも財政学の基本を学んだ者なら絶句するしか無い事態です。 家計に例えて考えて観ても、この比率が真面では無いのは分かる筈でしょう。
その昔、私の財政学の基本書著者である神野直彦先生が金子勝先生と共著で「財政崩壊を食い止める―債務管理型国家の構想」を著されたことがありますが、それから、既に十数年が経過し累積した国債発行額がついに一千兆円を突破したところです。 しかしながら、債務の管理どころか財政ファイナンスと化した「異次元の緩和」で国の借金には弾みがつくばかりです。
「アベノミクス」なる幻想に未だに惑わされていては、その企みの本質を観ることが出来ません。 全てが幻想なのですが、一例を挙げれば、為替の円安転換です。 国際通貨研究所の主要通貨購買力平価(PPP)の統計を観れば分かるとおり、行き過ぎた円高傾向にあった実勢相場が、ユーロ危機が一段落したことを契機に円安に振れただけで、実勢相場に日本政府が何らかの影響を与えたことはありません。 従って円安が行き過ぎれば、円高に回帰するだけです。
また、「デフレ脱却」のために「異次元緩和」で遮二無二にインフレを目指す黒田日銀
の真の目的は、実質的な日銀に依る国債引き受けであり、財政ファイナンスなのですが、現在の所謂「デフレ」とは、国際的な物価の標準化過程であり、一国の政策で左右可能なものではありません。 その点は差し置いて、現在若干のインフレ傾向にあるのは、東北大震災以降のエネルギー輸入等で生じた輸入インフレであり、加えて消費税値上げによるもので「デフレ」を修正した「アベノミクス」効果に依るものでは無いのです。 そもそも金融政策だけで「デフレ脱却」は不可能です。
金融政策だけで「デフレ脱却」はできない 池尾和人・慶応義塾大学教授に聞く 2013年04月07日 東洋経済Online
様々な脚色に依り本質を誤魔化している「アベノミクス」ですが、その本質は、安倍政権が狙う軍拡です。 「聞け! 是清の警告 アベノミクスが学ぶべき「出口」の教訓」の著者久保田博幸氏は、「現在の日銀による国債の大量購入は日本の財政上の問題から生まれたわけではない。国債は日銀の異次元緩和がなくても安定消化されていた。しかし、このようなスキームを作った本人が、「強力な軍隊を持って」と発言したとすれば、アベノミクスとは何を目的としていたのかをあらためて問う必要がある、その結果次第では日銀の異次元緩和による国債の大量購入は早期に停止すべきものと考える。」と厳しく指摘されています。
アベノミクスは軍備拡張が目的なのか 牛さん熊さんブログ 2014-02-22 11:44
ともあれ、2014年度政府予算で、新規国債の発行額は約41兆円のところ、黒田日銀は、年間約50兆円のペースで国債を買い進めています。 その結果、「財政規律」の弛緩に対して警告を発するという市場が持つ健全な機能も失われつつあるとの指摘も多い他、漸く懸念を示される識者の声をマスコミも取り上げるようになって来ました。
他方、安倍政権は、為替・株式の市場動向が政権の支持に関連性が高いことから神経を尖らせ公的資金で株価を買い支える気配です。 日本株は、外国勢の円安傾向を背景にした日本買いに依り急激に値上がりした後に暴落し調整局面となり、現在は、15000円台のレンジ相場の状況ですが、既に割安を解消したものと思われ、微細な値動きで売買を重ねています。 このような状況下で、何としても政権支持の動機が欲しいのでしょう。 他には何も無いのですから。
焦点:国債市場で強まる「日銀支配」、物価目標優先に疑問の声も ロイター 2014年 08月 19日 11:58 JST
焦点:株価PKOは今後本格化も、カギはGPIF改革の時間軸 ロイター 2014年 08月 20日 13:19 JST
さて、我々国民としては、やがて破綻する「アベノミクス」の後遺症が心配になります。 その一番は、財政出動のための国債発行額を積み上げた揚句の国債バブルの破綻です。 表徴的には、竹中正治龍谷大学教授が指摘されたように、ユーロ危機がそのシナリオを示していることでしょう。 教授は、こう指摘されています。 「ユーロ圏で起こっていることは、ユーロ圏外への資本逃避というよりも(それもある程度はあるが)、「国債価格の下落→金融機関の大規模損失・自己資本の毀損→信用収縮→株と債券の同時下落」という悪循環である。
このまま財政膨張に歯止めがかからなかった場合に起こり得る日本や米国の危機シナリオを、ユーロ圏が先行して見せてくれている気がする。」
ギリシャと日本は違う、どころか、やがて我が目で観る悪夢であったのです。
その帳尻合わせは、一般国民に押し付けられ、年金給付始め各種給付の削減を始めとして、社会保障関連給付の削減から各級租税負担と保険料等の増額、更には、各種行政サービスの切り捨てと行政関連手数料の値上げ、加えて、公務員給料と一時金の減額若しくは支給停止と定員の削減が為されるでしょう。 民間企業に至っては、公務関連以上のものと為るのは間違いがありません。 例外は、富裕層で、彼等は今でも、資産の一部を外貨建てにして保有していて財政危機にあっても資産の増加がある人々も出現することでしょう。
政府債務膨張の先にある近未来の姿は? たけなか まさはる 2011/12/6(火) 午前 11:42
どうやら、昭和20年の夏を再現することになりそうです。 私は、そんな悪夢を見ること無く死にたいと思うものの何時悪夢を見るのかが予測出来ないので仕方がありません。 安倍首相には、ハーメルンの笛吹のように国民を引き連れて行進する企みを中止されて、御自分だけで崖まで行進して頂きたいものです。
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。