ピアノコンサートのプログラムから「平和憲法」の文言が削除 あってはならない、杉並区の男女共同参画事業でのこと
- 2018年 1月 31日
- カルチャー
- 内野光子
1月26日の院内集会でお会いした小林緑さんから信じがたい「事件」を知らされた。小林さんは国立音大名誉教授で「小林緑&知られざる女性作曲家カンパニー」を中心に、クラシック音楽史上、埋もれた女性作曲家たちの作品を発掘、聴いて、広めようという活動に長い間、取り組んでこられた方だ。NHKの経営委員を一時期つとめられ、NHK問題についても深い関心を寄せられている関係で、お話を聞いたり、「カンパニー」のコンサートにも伺ったりしていた。毎回さまざまな工夫を凝らしたコンサートは、私などの素人にも、わかりやすく、いつも楽しませていただいている。
昨秋、東京ウィメンズプラザフォーラムの「音を紡ぐ女たち」の講演会では、11月に開催の杉並区男女共同参画都市宣言20周年記念「トークとピアノコンサート」の案内も配られていた。私は出かけることはできなかったが、そのコンサートのプログラムをめぐってとんでもない問題が起きていたのだ。
『週刊金曜日』では、すでに「杉並区<憲法>文言の削除要請 平和憲法を女性たちの音楽から見直すのは政治的?」として報じられていた(2018年1月12日号)。プログラムの中で、演奏される女性作曲家たちの曲目の紹介の末尾に、小林さんによる数行の解説「なぜ彼女たち?なぜこのような音楽を?」がある。今回、選んだ作曲家と曲目の趣旨を語っているのだが、当初の原稿は、つぎのように記していたそうだ。
「(前略)(選んだ)5人はみなピアノのン名手にして作曲家ですが、抽象的なソナタより表題付きのわかりやすい小品を、さらに一人だけで目立つのでなく、連弾やトリオなど、息を合わせバランスを保つ形の作品を多く残しました。平和憲法さえも危機にある世界の現状を、こうした女性たちの音楽から見直すためにも・・・」
ところが、区の担当者から下線の部分が「政治的だ。記録に残るから直せ」との要請があり、その場で抗議をしたが、印刷の前日でもあったので、つぎのように修正にしたということだった。
「こうした女性たちの肩肘張らぬ音楽に耳を傾け、世界が平和に、男女が等しく、自然体で命を紡ぎ続けられるよう・・・」
その後、再度抗議したところ、区の男女共同参画担当課長は「政治的だからでも検閲でもない。これは男女共同参画事業なのだとわかりやすく伝えたかっただけ」と答えたそうだ。
まさに、杉並区職員の「忖度」による「自己規制」の結果でもある。共謀罪の成立、安倍首相はじめ政府の言動から、国の官僚から自治体職員までが、自らの意思で、政府の意向、上司の意向に沿う判断しかできない状況が出来上がりつつあるからだ。言論統制など、多くの場合、「刃物など要らぬ」ということで、役職や出世、嫌がらせをチラつかせ、「萎縮」させればよい。そして市民には、ときに、見せしめのように、ほんの一部の人たちに逃亡や証拠隠滅などを口実にして、不当な警察権力を行使する。沖縄の山城博治さんや森友学園元理事長籠池さん夫妻のように。
小林さんの件を知って、すぐに想起したのは、さいたま市の「9条俳句訴訟」であった。
さいたま市立三橋公民館が、憲法9条について詠んだ俳句「梅雨空に『九条』守れの女性デモ」を「公民館だより」に掲載することを拒否した件につき、憲法が保障する表現の自由の侵害に当たるとして、作者が市に句の掲載と200万円の損害賠償を求めた訴訟であった。さいたま市は、公民館は改憲の議論に絡み「世論を二分するテーマで、公民館だよりは公正中立の立場であるべきだ」などとして掲載を拒否。市は「公民館側に発行、編集の権限がある」などと棄却を求めていた。
その後の新聞報道によれば、2017年10月13日のさいたま地裁判決は「原告が掲載を期待するのは当然で、法的保護に値する人格的利益で、公民館職員らは思想や信条を理由に不公正な取り扱いをした」として、賠償2万円を認めたが、掲載は認めなかった。俳句の作者、市ともに、不服として控訴している。
こうした事態は、どこでも起こり得る環境が整い始めてしまったのだ。だからこそ、こうした事態に対応する場合には、市民一人一人が毅然とした態度で立ち向かわねばならない。個人にしろメディアにしろ、表現の自由は与えられるものではなく、一人一人が獲得していかねばならないとあらためて思うのだった。
初出:「内野光子のブログ」2018.01.29より許可を得て転載
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