青山森人の東チモールだより…導者たちは国民を守れ!
- 2018年 12月 30日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
青山森人の東チモールだより 第384号(2018年12月29日)
指導者たちは国民を守れ!
殺伐としたゴミの山
政府は、首都デリ(ディリ、Dili)にたまるゴミに危機感を抱くべきです。
首都をほっつき歩くと、このままだと住民がゴミの山に埋もれてしまうのではないかと大袈裟にいえば心配になってきます。ゴミの山の近くに住む人々はつまり、ゴミが蚊を呼び寄せ、その蚊を媒介としてデング熱やマラリアにかかってしまうという高い危険性と隣り合わせに暮らしていることになります。指導者たちは自分や自分の家族を含めて国民の生命を守るべく、人の住む所・人の行き交う所から放置されるゴミを一刻も早く取り払うべきです。
12月22日(土)に国会を通過した2019年度国家一般予算案は(結局、総額21億3200万ドルに膨れあがった)はたしてルオロ大統領に承認されるか拒否権にかけられるか、大統領と政府の政治的袋小路はいつまで続くのか、これらが指導者たちの関心の的になっていますが、指導者たちは首都の町々・区々に散在するゴミの山を適切に処理することにまずもって心血を注いだほうがよいとわたしは固く信じるしだいです。
一見するときれいに片付いている町の空間もたしかに多くみられます。しかしきれいに片付いているのはそこのゴミが他の場所にゴッソリと移されそこがゴミの山となってしまっているからです。つまりそれはゴミが適切に処理されていない行政の不備、政府の怠慢を意味します。
コノコフィリップス社とシェル社の保有する権益をそれぞれ350万ドルと300万ドルで買うとか買わないとかいう「グレーターサンライズ」開発の景気のいい(?)話で盛り上がるのもけっこうですが、指導者たちは足元を見てほしい。家庭ごみをまともに処理できない状態でパイプラインをひっぱって天然資源の処理工場を建てた暁には其処で発生するゴミ問題がどんなに悲惨になるのかを想像してみてほしい。
ゴミがゴミ集積所にあふれ歩道を塞ぎ、あるいはゴミが不適切な場所に山積みに放置されるのを見るだけでも嘆かわしいのですが、もしかしたらゴミのなかに赤ちゃんが捨てられているかもしれないという疑いの目を凝らしてしまう気持ちにさせる“事件”が今年断続的に起こったからして、嘆かわしさも尚更です。
「デリ教区の司教、政治状況に疑念を抱き、両親の非道に嘆く」。『チモールポスト』(2018年12月27日)より。デリ教区のビルジリオ司教はクリスマス前夜、ゴミと一緒に赤ちゃんが捨てられることを大聖堂で悲しむ。なお右下の小さな記事は、2019年度国家一般予算案をルオロ大統領は発布するであろうという、大学の先生の楽観意見を紹介している。
「エメリタさん、ゴミから一人の赤ちゃんを救う」。『チモールポスト』(2018年12月28日)より。
12月27日深夜2時ごろ、タイベシ市場のゴミ捨て場に捨てられている赤ちゃんの鳴き声を聞いて、エメリタさんがその男の子を救ったという記事だ。
道路に沿ってゴミの道ができている。周辺には二階建ての立派な家々が建つが、住民は病気の温床と隣り合わせだ。 2018年12月23日、ベコラとクルフンの境目あたり。ⒸAoyama Morito
圧倒的な中国経済
一般庶民が日常的に利用する町角の店々の大半が中国人経営のものになってから久しく、中国人の店で働く東チモール人とそこで買い物をする東チモール人消費者の姿はこの社会に定着してしまいました。そしてこの傾向は、アメリカと中国の貿易摩擦なんて何処吹く風、とどまる所を知らない勢いがあります。このままではいつの間にか東チモール人が肩に担ぐ棒の両端にぶら下げて売る農産物が中国産にとって代わられる時もすぐそこに来ていると懸念せざるをえません。
一方、12月タウル=マタン=ルアク首相のイザベル夫人は中国を訪問し、IT企業のアリババグループに足を伸ばし、ジャック=マー代表を東チモールに招待しています(本人は不在)。中国は東チモール人指導層に巧みに接近していることが窺われます。
コノコフィリップス社とシェル社がそれぞれ保有する「グレーターサンライズ」田の権益を東チモールに売ってしまった後の、残る同田の共同開発事業社であるウッドサイド社と大阪ガスの動向が注目されますが、両社は東チモールにひかれるパイプライン事業とは距離をおく形で開発事業に関わるであろうといわれ、その場合に備えて東チモールはすでに中国と韓国の企業に接触しているともいわれています。中国と韓国の影響力を東チモールで見比べてみると、大魔神と大魔神に踏み潰される無垢な農民程の差があるように思われ、弱そうな韓国(失礼!)をつい応援したい心情をわたしは抑え切れません。もし中国が「タシマネ計画」に参加しないとしたら、その方が驚きに値します。
中国人ブローカーが暗躍か
中国の経済力は一方で東チモールに闇社会もつくり出しそうです。このクリスマスの季節、2019年度一般予算案の他に報道を賑わしたのは、中国に不法に渡った東チモール人女性たちのニュースです。中国で不法就労しようとしていた東チモール人女性7名が中国で拘束され、東チモールに送還(12月26日)、中国人のもとで働き彼女たちを中国に連れていった東チモール人男性一名が中国で取調べを受けている、彼女たちは家事手伝い・子守の仕事に就くといわれた等々と報道されています。
PNTL(東チモール国家警察)のオルナイ長官は、東チモール人男性が中国人とともに東チモール人女性を中国で不法就労させようとリクルートしたと疑われると、12月27日、ルオロ大統領との会見後に記者団に語りました。東チモールに送還された7名の女性たちは11月に中国に渡り、結局は仕事に就かないままに帰国し、他に20名の同じ境遇の東チモール人女性が中国にいると報道されています。
大きな経済力は裏社会の形成を含め様々な副産物を生むものです。その毒牙にかからないように自国民を守らなければ何のために多大な犠牲を払って民族解放闘争をしたのやら…と東チモール人指導者たちは自問自答してほしいものです。
~次号に続く~
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion8264:181230〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。