今日の「朝日新聞」(朝刊)の4面に「養子案棚上げ不自然」と題したつぎのような小さな記事があった。
安定的な皇位継承に関する与野党協議をめぐり、自民党の麻生太郎最高顧問は5日、皇族数確保策として戦後に皇籍離脱した旧11宮家の男系男子を養子に迎える案について「多くの党が支持している養子縁組案を棚に上げ、取りまとめが行われることは不自然で、まかりならない」と訴えた。都内で開かれた麻生派の非公開の会合後、事務局長の井上信治衆院議員が記者団に明かした。養子案には自民、日本維新の会、公明党、国民民主党が賛同。一方で立憲民主党は慎重姿勢だった。立憲の野田佳彦代表は麻生氏との水面下の交渉で、養子案を時限付きで容認する意向も示したが、合意には至っていない。
「皇族数確保策として戦後に皇籍離脱した旧11宮家の男系男子を養子に迎える案」に自民、日本維新の会、公明党、国民民主党が賛同しているにもかかわらず、養子縁組案を棚に上げ、取りまとめが行われることは不自然で、まかりならない、と麻生元首相が自らの派閥の会合で訴えたというのだ。
「養子縁組案」に賛同している政党の議員たちが、本気でこの案に賛成しているのだろうか。戦後80年も経った現在、「戦後に皇籍離脱した旧11宮家の男系男子を養子に迎え」てまで、男系男子の天皇家を維持するというのだから時代錯誤も甚だしいと言わざるを得ない。立憲の野田代表も、水面下の交渉で時限付きで養子縁組案を容認する意向も示したというから情けない。
さらに、女性皇族が結婚後も身分を維持する案でも、配偶者と子に皇族の身分を与えることに反対する自民と賛成の立憲との隔たりもあって、今国会中の「立法府の総意」のとりまとめは見送られる方向だ、とも、6月4日の「朝日新聞」webニュースは伝える。やっぱり、今国会でも見送られる。というのも、有識者会議提案の2案自体には、かなりの無理があったのではないか。
一方、立憲の野田代表が、さきの麻生発言を、「ちゃぶ台返し」だと批判しているというのだ。これまで衆院の正副議長と麻生・野田の協議で、女性皇族が結婚後も皇族として残る案だけは今国会で成立させる意向だったのに、ということらしい(「立憲・野田代表「看過できない」 麻生氏の皇位継承めぐる発言に」「朝日新聞」webニュース2025年6月6日)
「女性皇族が結婚後も皇族として残る」ことになり、皇族数が増えたとしても、女性差別、女性皇族人権無視も著しい皇室制度の中に取り込まれることなる。いずれも皇位継承者の確保に直結する方策にはならない。そんなことは、誰にでもわかることを、大真面目に協議していること自体、ナンセンスだし、滑稽にも思えてくる。現在の大方のマス・メディアは、女性・女系天皇制導入の世論形成に必死にも思われるが、それとて、「愛子天皇」に直結するわけではない。
安定的な皇位継承策が日本の将来にどういう意味を持つのか。
こんな記事を書いているさなか、小室夫妻の第一子誕生をスクープした『女性セブン』の最新号6月19日号に「雅子さま、周囲に漂う不穏な気配 戦後80年の慰霊の旅に苛烈な抗議、全国植樹祭は直前になって体調不良でご欠席…それでもご覚悟をもって戦災の地へ」の記事があるのを知った。なにが「不穏」なのかは、雅子皇后の体調不良のことなのか、慰霊の旅の先々で抗議の声が上がっていることなのか判然としない。4月には硫黄島、6月には沖縄、広島、9月には長崎、7月にはモンゴルへと続く「慰霊の旅」について「「慰霊の旅」が各地で手放しに歓迎されているわけではない。」として、慰霊の旅によって「昭和天皇の戦争責任・戦後責任を清算する」ことは許されないという主旨での抗議活動も複数紹介している。そして、記事は「雅子さまは、これまでさまざまな壁を陛下との絆で乗り越えられてきた。32回目の結婚記念日は、その愛を再確認し、この先待ち構える、決して平坦とは言えない慰霊の旅へのリスタートとなるのだろう。」と結ばれている。いったいこの記事は何が言いたかったのか。
毎日のように、皇族たちの動静がことごとしく、華やかに報道されているのを目の当たりにすると、私は、時代の不穏な空気の只中で、かつての「翼賛メディア」を想起してしまうのである。

敷地内の池の周りにはショウブが咲き始め、コイたちは相変わらず、人影に寄って来る。
初出:「内野光子のブログ」2025.6.6より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/06/post-972fe1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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