体のいいロシアのプロパガンダサイト
- 2022年 5月 17日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
昼ごろ起きてPCの電源を入れてメールを開くと、受信箱がウクライナ関係のニュースレターで溢れかえっている。ウクライナからはもちろん、アメリカからもあればイギリスやドイツからもフランスからもあるし、イスラエルやカタールに香港からもインドからもある。同じようなことを伝えてきていることも多いから、読みやすい記事を読んで残りは捨ててしまう。日本語のニュースもいくつかあるが、ほとんど外信を端折って日本語にしただけのような気がする。世界のことを知ろうとすれば、どうしても英語までは出ていかざるをえない。
どのメディアやニュースサイトにもバイアスはつきもので、伝えられる記事がどこまで事実なのか分からない。バイアスを多少なりともキャンセルできないかと、あっちこちのニュースサイトを見るようにしている。
ただ、どう見ていったところで、西側のプロパガンダに引きずられるのを避けられない。なにかないかと思いながら、毒を以て毒を制すってのもありかと、ロシアのプロパガンダサイトを探した。
使い慣れたMedia Bias/Fact CheckでRUSSIAN PROPAGANDAと入力して検索したら、ずらっとリストがでてきた。聞き慣れたTASSもあれば、何度か目にしたRussia InsiderやSputnikもある。
Media Bias/Fact Checkは世界中の英語のニュースメディアの信頼性を評価するサイトで、何これと思うサイトに出くわすたびに便利に使っている。
下記urlから入って、右上のSEARCHウィンドウにサイト名を入力して「enter」キーを押せば、評価が表示される。
https://mediabiasfactcheck.com/
ウィンドウにRUSSIAN PROPAGANDAと入力して検索した結果が下記urlに表示されている。
https://mediabiasfactcheck.com/?s=russian+propaganda+
先に進む前に、拾い物じゃないかと思うものが一つでてきた。もしかしたら、下記のサイトには一読の価値のあるニュースがあるかもしれない。
Russian Media Monitor
http://www.russialies.com
Russia Insiderはカビ臭くて薄気味悪い。RTもドイツならと見てみたがTASSと似たようなものだった。どちらも官製報道の見本のような記事で、読んでいる時間がもったいない。素人が探したところで、気の利いたサイトなんか見つかりっこないよなと思っていたら、なにこれという三面記事の余白のようなサイトがでてきた。
注)なんでRTアメリカではなく、RTドイツなのと思われる人もいるかもしれない。残念ながら、RTアメリカはウクライナへの侵攻の五日後の三月一日に閉鎖している。
「ロシア・ビヨンド」、よっぽどマイナーなサイトなのか、Media Bias/Fact Checkにはひっかからない。
JB Pressが日本語でも楽しめる、ロシアの面白サイトとしてロシア・ビヨンド(RUSSIA BEYOND)を紹介している。
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63696
記事は街で拾うフリーペーパーに政治の染みがついたものでしかない。真正面から状況を伝える記事に疲れたときの息抜きには、ちょうどいいという人もいるらしいが、そんな気晴らしのサイトならいくらである。なにも貧乏長屋のどぶ板外してまで、覗き込むまでのこともない。
どういでも記事しかないが、夜郎自大の見本のような記事があった。
「ロシア初の飛行機」
https://jp.rbth.com/science/86150-roshia-hatsu-hikouki?utm_source=Newsletter&utm_medium=Email&utm_campaign=Email
表題は「ロシア初の」になっているが、ライト兄弟の初飛行の向こうを張って「世界初の」と主張している。日本ではアメリカのライト兄弟が人類初の飛行をしたことを常識と思っている。
記事を読んでいて、ずいぶん前になるがアメリカ人の同僚が何かのときに言っていたことを思い出した。ソ連の小学校ではソ連のなんとかいうヤツがライト兄弟より先に飛行していると習ってるんだ。なんでもソ連が一番じゃないと気が済まないヤツらだからと小ばかにしていた。
記事を読むと、小ばかにしたくなる気持ちも分かる。
スケッチを見る限り、機械屋崩れの常識では、飛行機というよりグライダーにもならないとしか思えない。ダビンチのヘリコプータの概念図の方がよっぽどいい。
ロシア・ビヨンドの記事によれば、「1884年、ロシア初の飛行機が完成した。モジャイスキーはスラヴ民話のキャラクターに因んでこれを『ジャール・プチーツァ』(火の鳥)と名付けた」
ジャール・プチーツァの仕様は、「1トン近い重量のあった飛行機の全長は15㍍、翼幅は24㍍だった。動力は英国のアーベッカー・ハムケンス社製の2基の蒸気エンジン(10馬力と20馬力)だった」
一方ライト兄弟のライトフライヤー号(Wright Flyer)の仕様は、ウィキペディアによると下記になっている。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E5%8F%B7
重量:空虚274 kg(605 lb)、最大離陸338 kg(745 lb)
初飛行: 1903年12月17日?
翼面荷重: 7.1 kg/m2(1.4 lb/ft2)
エンジン: 水冷直列4気筒(4,000 cc)× 1
翼面積: 47.4m2(510 ft2)
エンジン 水冷直列4気筒(4,000 cc) × 1
出力 12hp(9 kW)
下記サイトによると、搭載したエンジンの重量は「おそらくエンジン本体は69kg(152ポンド)で、ラジエーターと配管(水なし)を含めて79㎏(174ポンド)程度が正しい数値だと思われる」
http://fnorio.com/0112Wright_Flyer_engine0/Wright_Flyer_engine0.html
機体の正味重量が274 kg、エンジンの重量が79 kg、エンジンの重量が機体全体の重量の79/274=約30%を占めている。
出力荷重比(一馬力当たりの機体重量:パワーウエイトレシオ)は、274/12=22.3 kg/hpにもなる。
今街で走っている軽自動車のパワーウェイトレシオは13 kg/hpを下回っている。
機体は軽くしたいが、飛行に耐える強度はゆずれないから軽くするのにも限界がある。そこで出力の大きなエンジンをと思っても、大きなエンジンは重すぎて搭載できない。当時の技術とライト兄弟の飛行訓練の末にやっと飛べたのが12馬力のエンジンを搭載した機体重量は274 kgのライトフライヤーだった。
ロシアが世界初の飛行に成功したという「ジャール・プチーツァ」は、機体重量1トンに30馬力のエンジン。
出力荷重比(一馬力当たりの機体重量:パワーウエイトレシオ)は、1,000/30=33.3 kg/hpにもなる。
このパワーウエイトレシオで飛べるとは到底思えない。助走しているときに凸凹の地面のおかげで跳ね上がるのせいぜいだろう。
それにしても、なんで出力効率のいいガソリンエンジンではなく蒸気エンジンなんだろう。
笑いを誘うというより失笑をかうだけの記事にみえる。
ことのついでに面白サイトをいくつか。
2022/3/26
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12037:220517〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。