学術論文、話題性?
- 2022年 10月 20日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
YouTubeでスポーツや科学に歴史番組を観ていたが、いつのまにやらウクライナや中国をはじめとする世界の政治経済番組が多くなってしまった。短いものが多いが、ついあれもこれもと一日にしてみれば二時間近くにもなる。
テレビにファイヤースティック(Amazon)を差し込んで、Echo Dot(Amazonのスマートスピーカ)も付けているから、「アレクサ広告スキップ」といえば広告をスキップできる。ところがPCにはそんなものついていないから、流れる広告をこのやろうと思いながらも放っておくしかなかった。ここにきて一つ裏技を発見した。「←」をクリックして一度前の番組に戻して「→」を押して、みたい番組に戻せば、冒頭の広告はスキップできる。一度お試しあれ。
こんなことに気づくまで、うっとうしい広告をさんざん見せられて、どうでもいい宣伝に対する耐性もできてきた。なにがでてきたところで驚きゃしないと思っていたが、Roundup(ラウンドアップ)がでてきたときには驚いた。まさかあのRoundupかと画面を停止してみたが、間違いない。見慣れたラウンドアップのボトルが大写しになっていた。
Webのおかげで遠く離れた専門外のことでも、そこそこ調べがつくようになった。昔は入門書でも読んでから専門書を探してというステップを踏まなければならかった。そこまでしても大した知識がえられるわけじゃない。なにも知らないところで右往左往を二度も三度もくりかえして、どうせ素人には無理なんだからと、端から調べようなんて気もおきなくなっていた。そんなところにインターネットがでてきて、情報漁りの常識をひっくり返してくれた。とはいえ基礎知識がないのに変りはないから、何を読んでも見ても上っ面までしかわからない。それでも似たようことをくりかえしていると、あちこちで拾った情報と情報が絡み合って、それなりのたとえ稚拙にしても知識として昇華していく。おかげで、ついつい好奇心にかられてこれなんだろうと、かかとを越えてふくらはぎあたりまでズッポリ入り込んでいることに気づいて慌てることもある。
まさかあのRoundupが誰もが手軽に使うほどポピュラーなものなっていたのかと目を疑った。もしかしてとWebでみたら、ホームセンターでふつうに並んでいる。植物工場に絡んだときに聞きかじった話から、ラウンドアップは庭やベランダで素人がほいほいと使うもんじゃないだろうと思っていた。
根拠のはっきりしない言説に右往左往はしたくないが、ラウンドアップも含めて除草剤の使用は慎重にしたほうがいいと思っている。ラウンドアップや類似品の健康への影響についてWebでちょっと見てみた。発がん性を伝える記事も多いが、それ以上にメーカや公的私的機関の検証結果を踏まえた安全宣言のような記事が溢れている。ためしにGoogleで「ラウンドアップ 除草剤」か「roundup 健康被害」とでも入力して検索しれみればいい。いやというほどでてくる記事や論文に、どれを読めばと悩まされる。
あれこれつまみ食いした素人の結論をいってしまえば、「使用量や使い方を間違えなければ、まあ安全なんだろうな」ということになる。まあこの結論ともいえない結論もどきまでが素人の限界だということを確認することになった。
それでも一つ大きな成果があった。あれこれ記事を漁っていて、仕事を通して農学関係の先生方にお付き合いさせて頂いたときに感じた疑問というのか不信がほぼ確信になった。相手は難関国立大学の名のある教授。もしかしたらというより、十中八九こっちの判断が間違っているんじゃないかと気にしていたことがするっと書かれていた。なんだそういうことだったんだとほっとした。結論めいたことを言わせていただければ、「安易に信用するな。疑えるものは疑え、疑わなければ、事実は見えてこない」になる。
Webにアップされた数ある記事のなかで、雑誌「Wedge」が十年来の疑問を解消してくれた。
2022年5月14日付けで配信された雑誌Wedgeの記事「除草剤〝発がん性疑惑〟の科学的事情と海外の状況」
https://wedge.ismedia.jp/articles/-/26627
記事の冒頭で、「『発がん性疑惑農薬』などと喧伝されるグリホサート(ラウンドアップの有効主成分名)をめぐる科学的事情と海外の状況を詳しくお伝えします。非常に複雑です。でも、これが科学なのです」と前置きしている。
安全性に対する世界の事情をざっと紹介した後で、実験結果から「発がん性」を発表した科学者を紹介している。
「2012年9月、フランスのセラリーニ(Gilles-Eric Seralini)という科学者が、ラウンドアップ耐性トウモロコシやラウンドアップを溶かした水で2年間飼育したラットで、死亡率や腫瘍が増加したと論文発表しました。論文は大きながんができたラットの写真を掲載するなどセンセーショナルなもので、セラリーニは論文と同時に映画制作を発表するなどしてメディアの脚光を浴びました」
「論文は最初に掲載した学術誌からは『科学的な水準に達していない』として取り下げられましたが、別のグレードの低い学術誌に掲載されています」
健康被害を引き起こす可能性があるのかないのか、白か黒かと言い切れないところがある。それはラウンドアップだけじゃない。除草剤にしても農薬にしても、散布量や散布方法から食品に残留する量、そこから人が普通の日常生活で摂取するであろう最大値がどれほどになるのか。そしてその最大値が直接、あるいは間接的にしても健康被害を引き起こす可能性がどれほどあるのか?
健康被害を引き起こす可能性を検証するには、相当な数のサンプルを用意して、大掛かりな検証設備をそなえた組織で、かなりの数の熟練した作業者を充当しなければならないことぐらいの想像はつく。そんな規模の検証結果を覆すような実験を予算も能力も設備も人員も限られている一研究者がおいそれとできることなのか?可能性としてはある。時にはそれまでの常識をひっくり返す発見がある。でもその可能性、較べることじゃないが、ラウンドアップの健康被害の可能性とどっちが高いんだろう、という皮肉の一つも言いたくなる。
もう十年以上前になるが植物工場に関わった。そのとき首都圏と関西圏の立派な肩書をお持ちの先生方からお伺いした、技術屋の目には科学的にも技術的にも成り立ち得ないとしか思えないご高説に振り回されて、経済的な損失まで被った苦い経験がある。
「学術論文は再現性がないものが多い」
「かなり簡略化して説明すると、学術論文は研究者が主に、新しい知見を公表するものです。冒頭で紹介したセラリーニの『ラウンドアップ耐性トウモロコシを食べさせたら……』というような実験結果です。しかし、試験の設計の仕方や動物の数、研究施設・測定機器の管理、飼料の管理等は研究者に任されています。そのため、セラリーニの論文に限らず、質が低く再現性が得られない学術論文が多数あります」
「一方、GLP適合/OECDガイドラインに準拠した動物試験というのは、詳細なルールがあらかじめ定められています。試験を実施するのは専門の教育・訓練を受けた人。かなりの設備や分析機器等を備えていなければならず、試験に供する動物の数も、1群50匹以上などと決められています。施設や測定機器、飼料など、すべて記録し、試験者以外によるチェックが求められ、行政も折々、試験を行う組織に対して査察を行います。つまり、第三者がデータの質を保証することになるのです」
予算もあれば設備もある科学的知見をもった研究者や作業者の質量ともに優る公的機関の発表を鵜呑みにするもの怖いが、さりとて話題性をテコに売名行為に走る先生方の研究姿勢に右往左往させられた者にしてみれば、どっちの方に耳をかけ向けるべきか?問うまでもない。
話題性を目的としたかのような学術論文の数を競うような記事に出くわすと、話題性で売りたいマスコミの性なのだろうと思いながらも、なにが研究だ、なにがマスコミだって気がしてくる。YouTubeの広告と五十歩百歩と言ったら言い過ぎだろうが、中にはそう言われてもしかたがないものもありそうだ。
2022/8/22
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion12471:221020〕
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