青山森人の東チモールだより…シャナナCNRT、民主党との連立政権へ
- 2023年 5月 31日
- 評論・紹介・意見
- 青山森人
- PDN (国民開発党) ……597票(0.09%)
- PLPA (棒手売解放党) ……3272票(0.47%)
- PLP (大衆解放党) ……4万720票(5.88%)
- PD (民主党) ……6万4517票(9.32%)
- KHUNTO (チモール人国民団結美しき豊穣) ……5万2031票(7.51%)
- PVT (チモール緑の党) ……2万5106票(3.63%)
- UDT (チモール民主同盟) ……1256票(0.18%)
- PUDD (民主開発統一党) ……2万1647票(3.13%)
- PR (共和党) ……1558票(0.22%)
- UNDERTIM (チモール抵抗民主国民統一) ……1023票(0.15%)
- フレテリン (東チモール独立革命戦線) ……17万8338票(25.75%)
- CNRT (東チモール再建国民会議) ……28万8289票(41.63%)
- CASDT (チモール民主社会行動センター) ……3170票(0.46%)
- MPLM (マウベレ人民解放運動) ……642票(0.09%)
- PST (チモール社会党) ……2415票(0.35%)
- PDC (キリスト民主党) ……1262票(0.18%)
- APMT (チモール君主大衆連合) ……6678票(0.96%)
- CNRT————–31議席(41.63%)
- フレテリン——-19議席(25.75%)
- 民主党————–6議席(9.32%)
- KHUNTO———–5議席(7.51%)
- PLP——————4議席(5.88%)
2023年、国民議会選挙の最終結果
5年が任期の65人の国会議員を選ぶ選挙の投票日・5月21日から、STAE (選挙管理技術事務局)によって票読みがされ、その暫定的な開票結果は24日、CNE(選挙国家委員会)へと渡されました。CNEは72時間かけて票読みの確認作業をすることになっており、5月27日、開票結果の確認が発表されました。次にその結果が控訴裁判所(東チモールの最高裁判所)へ提出され、6月の初め控訴裁判所がCNEによる開票結果にお墨付きを与えることになっており、それによって選挙結果は正式なものとなる運びになっています。事実上、CNEによる開票結果が最終結果とみてよいでしょう。細かい数字に変更が出るかもしれませんが、政党の獲得議席数が変わることはまずないといってよいでしょう。CNEによって確認された開票結果は以下の通りです。
・登録有権者数—-89万145人
・投票者数———70万5693人
・投票率————79.28%
・有効投票数——69万2521票
議席獲得した政党の順位と議席数は次の通り(得票率も再記述する。4%に達しない政党は議席なし)。
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【各政党の獲得議席数の推移】(青山森人・作成)
今回議席を獲得した政党のみの議席数を2007年から見てみる(他の政党には申し訳ないが割愛)。2007年とは、CNRTが登場した、つまりCNRTとフレテリンの二大政党時代に入った年である。CはCNRT、Fはフレテリン、Dは民主党、LはPLPそして KはKHUNTOをそれぞれ表し、隣の数字は議席数を示す。PLPとKHUNTOが国会に登場するのは2017年から。
二大政党以外は議席数が一桁である。十数議席を獲るようでないと第三の党とはいえまい。KHUNTOは現状維持を続け、民主党も現状維持的な推移を続けている。PLPの半減は大きな後退だ。フレテリンは初めて20議席を下回った。CNRTはこのグラフからすると次の選挙は大負けする番か?
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出でよ、第三の党
グラフを見ると、フレテリンとCNRTの二大政党と他の政党との議席数の間隔が大きく開いていることが見てとれます。つまり第三の党が不在だということです。
CNRTは2017年の選挙の時も単独過半数を目指しましたが、PLPの参戦もあり8議席も減らしました。失意に陥ったのかシャナナ=グズマンは事実上の連立相手であったフレテリンと手を切ってマリ=アルカテリを突き放しました。シャナナは戦略を練り直し、考えたことでしょう、なぜ8議席も失ったのだろうか、フレテリンのせいか、それともPLPのせいか…と。
ところで、2017年のフレテリンによる民主党との少数連立政権は、結局、2018年のやり直し選挙(こちらでは前倒し選挙と呼ぶ)へと事態は展開しましたが、この「前倒し選挙」ではCNRTとPLPそしてKHUNTOが手を組んでAMP(進歩改革連盟)として選挙に臨んだことから、AMPが獲った得票率49.56%による獲得議席34の内実は分からないのです。AMP内部の協議の結果、CNRTの21議席、PLPの8議席、そしてKHUNTOの5議席という配分になっただけであって、もしAMPへ入れられた票に印が付けられ、どの政党に向かった票なのか分かったとしたら、例えば、CNRTが23議席、PLPが7、KHUNTOが4、となったかもしれないし、当時の勢いからしてPLPは10議席ぐらい獲ったかもしれないのです。しかし2017年の翌年の選挙ということで2017年の選挙結果と同じような議席配分がなされたと思われ、それはそれで妥当な配分であると思われます。
さて2018年7月に発足したAMPによる第8次立憲政府ですが、フレテリンのルオロ大統領がCNRTの閣僚候補を承認しないという行動に出て、事態はいわゆる政治的袋小路に入ってしまうことになりました。そして2019年の半ばごろからCNRTとタウル=マタン=ルアク首相の対立が表面化し、年末には2020年度の国家予算案の再提出をCNRTは首相に求めていながら、2020年1月にCNRTは再提出された国家予算案に棄権票を入れ、タウル=マタン=ルアク首相をさらし者にしました。かくしてAMPは崩壊(東チモールだより第408・409号)。しかし一度は辞表を提出したタウル=マタン=ルアク首相ですが、世界を襲う新型コロナウイルスが東チモールにも迫りくる緊急事態に対処するために辞任を撤回し、タウル=マタン=ルアク首相は蘇ったのです。CNRTの代わりにフレテリンと組み直して、そしてKHUNTOとも再び手を組んで、第8次立憲政府を今日まで牽引してきたというのがこれまでの経緯です。
PLPのタウル=マタン=ルアク党首は2018年からの5年間、二大政党の各一党ずつと組みながら第8次立憲政府を率いてきました。これはこれでたいしたものですが、そもそもPLPとは何だったのかを振り返る必要があります。タウル=マタン=ルアクが大統領だった時期、事実上の大連立を組んでいたフレテリンとCNRTを歯に衣着せぬ批判をし、大統領ではできなかった政策を実行に移すべく創設された政党です。そのPLPの党首が最初はCNRTと、次にフレテリンとそれぞれ組んで首相として政府を率いたのですから、見方によっては結局のところ二大政党に呑まれてしまって期待を裏切ったといえるわけで、その結果が議席半減となって表れたのです。今後、 PLPは野党となって第三の政党を目指して修業を積むことになると思いますし、そうあるべきだと思います。
二大政党の今後
2020年、タウル=マタン=ルアク首相が辞表を提出したことをうけてCNRTとしては新たな連立を組んで新政権を樹立するつもりが思いもよらず下野してしまったのですから、それ以来今回の選挙を迎えるまで、さぞかし辛酸をなめる日々を過ごしてきたことでしょう。しかしながら2017年~2019年のシャナナによる手練手管の政治行為を見ると自業自得ともいえなくもありません。ともかくCNRTは今回もまた過半数に達する議席を獲得することはできなかったとはいえ、CNRTとして過去最高の議席数を獲って政権を奪還することができたのですから、さすがシャナナ=グズマンです。最終結果をうけて、シャナナCNRTは民主党との連立政権を樹立することでしょう。CNRTは第一党となり、かつ国会多数派勢力を形成することになるので、今回は憲法問題が噴出することはなさそうです。
しかしCNRTには大きな課題があります。もしシャナナが第一線を退いたら一体誰が党を率いるのかという後継者問題です。CNRTはシャナナでもっている政党です。シャナナがいなくなって「はい、それまでよ」とならないようにシャナナの後継ぎを次回の選挙まで発掘しなければなりませんが、現状を見るとかなり難しいような気がします。
興味深いことにフレテリンはCNRTと真逆で、党を牛耳るマリ=アルカテリ書記長が第一線を退いたら党勢が盛り上がるであろうと予想されます。この点、フレテリンは今回の選挙で初めて20議席を下回ることになりましたが、将来に期待がもてます。
去年のフレテリン党大会で党幹部のソモツォは、ルオロ党首・マリ=アルカテリ書記長路線は選択肢ではないと今回の選挙に向けて指導部刷新を強く訴えましたが、既存路線に押し切られました。その影響か、ソモツォは執行部を去り、党の比例代表名簿にはソモツォの名前が載りませんでした。5月27日、今回の選挙結果をうけてソモツォは、フレテリンが敗北した責任をとってルオロ党首とマリ=アルカテリ書記長は辞任し緊急党大会を開いて新しい指導部を選び、次回の大統領選挙と議会選挙に備えるべきだと記者会見を開いて訴えたのです。ソモツォの隣には医師でもあるルイ=アラウジョ元首相も座っていました。
ルオロ党首とマリ=アルカテリ書記長が(とくにマリ=アルカテリですが)一線を退けばフレテリンの支持層が広くなり議席を増やすだろうと多くの人が思っているのですが、去年の党大会でマリ=アルカテリがその地位を維持できたのは、別の人物が指導部に就いたらシャナナに簡単に懐柔されてしまうであろうという懸念が一方であるからです。
ソモツォの訴えは真っ当ですが、マリ=アルカテリは辞職することないでしょう。しかし党内で真っ当な訴えができるというのは現在のフレテリンは民主的であるといえます。もしもルオロ党首とマリ=アルカテリ書記長が辞職しても後継者はいますし、逆に支持が広がることでしょう。CNRTはというと、2017年に議席数を大幅に減らしたとき、シャナナの責任論は出ませんでした。シャナナを党首としてこれからもやっていくのだ!とさらにシャナナをかつぎ上げ、団結し直したほどです。組織論としてはフレテリンの方がCNRTより健全といえます。
おそらくこれから次の選挙までの4~5年間(大統領選挙まであと4年)、シャナナ=グズマンとマリ=アルカテリはそれぞれの党を率いていくことでしょう。しかし好むと好まざるにかかわらず、1970年代から活動してきた70歳台の二人にとって、寄る年波、一線を退くための4~5年間となることでしょう。
青山森人の東チモールだより 第492号(2023年5月30日)より
e-mail: aoyamamorito@yahoo.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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