青山森人の東チモールだより…かつて東チモールを占領・支配した国の選挙結果

プラボウォがインドネシア次期大統領に

インドネシアでは今年2月14日、二期目の大統領職を務め終えるジョコ=ウィドドの任期満了に伴うインドネシアの大統領選挙が実施されました。

ジョコ=ウィドドと過去二度にわたり決選投票で競ったプラボウォ=スビアントが選挙前から大本命となっていました。プラボウォがジョコ=ウィドド大統領の二期目政権下で国防相となったことからこの二人は接近したのかなと思いきや、今回の大統領選では接近どころか大接近をしました。プラボウォ=スビアントは、三期目の大統領職が法律で禁止されているので出馬できないが依然として人気の高い現職のウィドド大統領の支援をうけ、ジョコ=ウィドドの長男を副大統領候補に添え、ウィドド路線の継承を全面に打ち出し、終始優位な選挙戦を展開しました。

結果、プラボウォ=スビアントは他の二候補を寄せつけることなく、一回目の投票で過半数の得票率を得て勝負を決めました。

東チモールに滞在するインドネシア人もこの大統領選に投票参加。他の二候補が987(ガンジャル候補)に307(アニス候補)と、1000に満たない得票数だったのにたいし、プラボウォ候補は2106もの票を獲得しています(『タトリ』、2024年2月19日)。

東チモールのラモス=オルタ大統領は2月19日、プラボウォ=スビアントに祝意を伝えたと述べ、「かれ(プラボウォ)は私の招待を受け入れてくれた。おそらくかれが大統領に就任する前に東チモールを訪問するかもしれない。そしてインドネシア共和国の指導者として私をンドネシアに招待するとも述べた」と語りました(『タトリ』、同日)。しかしこの時点ではまだ正式な選挙結果が出たわけではなく、プラボウォ=スビアントが勝利宣言をした段階です。祝福するのは少し早すぎたのではないでしょうか。

正式な選挙結果はインドンネシア選挙管理委員会によって3月20日に発表されました。プラボウォ=スビアントの当選です。3月21日、アニス候補が選挙結果にたいして憲法裁判所へ異議申し立てをしましたが、正式な結果発表をうけて、プラボウォは21日に岸田首相から、22日にアメリカのバイデン大統領からそれぞれ電話で祝意をうけるなどしました。プラボウォ=スビアントの大統領就任は今年10月の予定です。

グローバルサウスの一角を担う国の大統領としてプラボウォは大丈夫か

プラボウォ=スビアントとはかつて東チモールを侵略したインドネシアの独裁者・スハルトを義父とする特殊部隊司令官でした。東チモールのシャナナ=グズマン首相は4月2日、そのプラボウォ次期インドネシア大統領へ、「インドネシア国民があなたの指導力と将来にたいする考え方に信頼を置いたことを投票で示した」と祝意を伝えました(東チモール政府のホームページ、2024年4月4日)。

だいぶ昔、プラボウォ=スビアントは抵抗軍の指揮官だったシャナナ=グズマンを抱きしめ敬意を表しています(東チモールだより 第141号)。インドネシアの指導者たちと良好な関係を築いてきたシャナナの政治性からしても、プラボウォがインドネシア大統領であることが東チモールの外交問題として浮上してくることはないでしょう。ただしそれはプラボウォが東チモールでおこなった蛮行が東チモール人の記憶から消えていないことをプラボウォが十分に理解し、東チモール国民にたいして傷に塩を塗るような失言をしないかぎりですが……。

東チモール外交の問題にならないとしても、国際社会の人権団体はプラボウォ=スビアントの過去の人権侵害の行為を呼び起こし非難する発言をことあることに繰り返すかもしれません。あるいはまた、新たな国際秩序形成の可能性をみせるグローバルサウスと呼ばれる新興諸国の一つであるインドネシアにたいして、世界の利益を占有してきた欧米諸国はプラボウォの人権問題を利用してインドネシアを揺さぶり、自らの独占的地位の延命を図ろうとするかもしれません。

ウクライナ戦争とイスラエル軍によるパレスチナ人への殲滅戦争にたいして停戦をインドネシアが主張しようとするとき、プラボウォの過去の蛮行が足かせにならないでしょうか。

プラボウォ次期大統領は初の外遊先としてグローバルサウス寄りの中国を選び、4月1日、習近平・国家主席と会談し、そのあとで欧米諸国の独占的地位(とくにアメリカの支配的地位)の延命に自らの国民の犠牲を捧げる日本を訪れ、4月3日、岸田首相と会談しました。インドネシアはこれからグローバルサウスと欧米諸国、どちらに重きを置くのかといえばグローバルサウスであることは明らかです。

東チモールにとってもインドネシアは東チモールのASEAN(東南アジア諸国連合)加盟を支えてくれる頼もしい存在であり(加盟は来年か?)、最近の発言から垣間見られるようにシャナナ首相は欧米諸国よりも中国とグローバルサウスに傾いており、グローバルサウスの一角を担うインドネシアに期待を寄せています。はたしてプラボウォ=スビアントがこの期待に沿える大統領になれるでしょうか。注視しなければなりません。

ポルトガルの新政権は少数政権

東チモールを24年間軍事支配したインドネシアの大統領選挙の話の次は、東チモールを永きにわたって植民地支配したポルトガルの総選挙です。

ポルトガルで今年3月10日、議会選挙(一院制、230議席)が実施されました。この選挙は、首席補佐官らが汚職に関与したとして捜査対象にされたことから、8年間にわたり権力の座に就いていた社会党のアントニオ=コスタ首相が去年11月に辞職を表明したことに伴う解散総選挙でした。社会党は中道左派といわれ、2022年からは単独で過半数を維持し安定した政権運営をしていましたが、長期間政権は腐敗してしまうということでしょうか。

選挙の結果は、社会党は大幅に議席数を減らし、社会民主党が率いる民主同盟と呼ばれる中道右派の連合勢力が社会党を僅かに上回る議席数を獲得しました。民主同盟が80議席、社会党が78議席です。この結果により、中道左派から中道右派への政権交代となりました。

この選挙結果で大きく注目されたのは、右翼政党とも極右政党あるいは右派ポピュリスト政党とも称される政党「シェガ」(Chega、[十分だ]、[もうたくさん]という意味)が12議席から四倍以上の50議席へと大躍進を遂げたことでした。他のヨーロッパ諸国のように、ポルトガルも反移民を訴える極右政党の台頭か!?

マルセロ=レベロ=デ=ソウザ大統領は3月21日、民主同盟を率いて勝利した社会民主党のルイス=モンテネグロ党首を新首相に指名し(デ=ソウザ大統領はもともと社会民主党の出身)、指名されたモンテネグロ新首相は組閣に着手しました。民主同盟が獲得した80議席は社会党の議席より多いとはいえ230議席の過半数(116)に36議席も足りません。安定した政権運営のためには他の政党と組まなくてはなりません。民主同盟と社会党そして「シェガ」の三勢力以外に5政党がありますが、それらは併せて22議席を一桁台で分け合っています。民主同盟はどこと連立を組むのか? 注目されましたがモンテネグロ新首相は連立を拒み、少数政権の道を歩むことにしました。ポルトガルの新政権は極右に傾くことなく、〝中道〟の範疇内での〝右派〟に留まってほしいとわたしは願うしだいです。

そして今月4月2日、ルイス=モンテネグロ首相が率いる民主同盟だけによる組閣をマルセロ=レベロ=デ=ソウザ大統領が承認し、新政権が発足しました。東チモールのシャナナ=グズマン首相はルイス=モンテネグロ首相に「大いなる成功を祈る」と祝電を送りました(プラボウォ次期インドネシア大統領に祝電を送った日と同じ日)。

ポルトガルはこの少数政権のもと、もうすぐ迎える「4月25日」つまり「カーネーション革命」の50周年記念が祝われることになります。東チモールからはジョゼ=ラモス=オルタ大統領とタウル=マタン=ルアク前首相そしてレレ=アナン=チムール前国防軍司令官がこの記念式典に招待されています。

ところで東チモールと同様にポルトガルも大統領の承認によって少数政権が成立しうるということをわたしは今回知りました。もちろん実際は、ポルトガルの制度を東チモールがある程度踏襲したのでしょうけども。東チモールの場合、2017年に発足したフレテリン(東チモール独立革命戦線)が率いた第七次立憲政府が少数政権でしたが、多数派として結束した野党勢力によって満足な政権運営が何一つ成されず、2018年のやり直し選挙(東チモールでは〝前倒し選挙〟と呼ばれる)の実施となりました。さてポルトガルの場合、国会は野党が社会党と「シェガ」、つまり中道左派と極右で大きく割れています。一体どうなることでしょうか……、目が離せません。

 

青山森人の東チモールだより  513号(2024413日)より

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