キューバは手をこまねいてはいない イグナシオ・ラモネ 『ディアス・カネル大統領とのインタビュー』(Ⅰ)
- 2024年 6月 22日
- 時代をみる
- 「リベラル21」キューバ後藤政子
はじめに
2024年5月11日に行われたフランスのジャーナリスト、イグナシオ・ラモネによるキューバ大統領ミゲル・ディアス・カネルとのインタビューが、世界各国で大きな反響を呼んでいます。
ラモネはフィデル・カストロ元議長とも100時間にわたるインタビューを行っています(『Cien horas con Fidel』2005年、邦題『フィデル・カストロ―みずから語る革命家人生』)。今回は革命後世代の大統領との7時間のインタビューです。
キューバは今、米国の経済封鎖の激化により、きわめて厳しい経済状況に置かれ、そのために、これまでみられなかった様々な社会問題も起きています。このインタビューでは、ディアス・カネル大統領は国内状況と再建策について詳細に示し、厳しい質問にも誠実に答えています。
フィデルら革命世代が去ったあとも、革命後世代のリーダーが、革命の基本理念を維持しつつ、必死で国の再建のために尽くしている姿も見えてきます。改めて「キューバ革命とは何であったのか」を再確認させられます。
しかし、米国は、後退しつつあるとはいえ、依然として世界最大の大国であり、封鎖解除の見通しは立ちません。果たしてキューバは危機を乗り越えていくことができるのかどうか。
以下に大統領の発言をごく簡単にまとめてみました。紙数の関係で割愛せざるを得なかった重要な箇所もたくさんあります。機会があれば、是非、全文に目を通していただければと思います。
(出典 キューバ外務省 速記録 2024年5月15日発表 )
(スペイン語)https://cubaminrex.cu/es/entrevista-concedida-por-el-presidente-miguel-diaz-canel-bermudez-ignacio-ramonet-catedratico-y
(英語)https://misiones.cubaminrex.cu/en/articulo/interview-granted-miguel-mario-diaz-canel-bermudez-first-secretary-central-committee-0
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60年以上続く米国の干渉と経済封鎖
長期にわたる米国の経済封鎖の矛盾が蓄積しているところに、トランプ政権下で制裁が激化し、キューバの経済状態は極めて厳しい状態に置かれています。バイデン政権下でも政策はまったく変わっていません。食料も、医薬品、燃料も、何も入ってきません。COVID-19の感染が拡大していたときにも、人工呼吸器や酸素の輸入も阻止されました。
特に大きな影響を与えているのは、トランプ大統領が退任直前の20年1月に、キューバをテロ支援国家リストに加えたことです。その結果、海外からの融資は一切、断たれ、国内の生産もままならず、物資の不足に拍車がかかりました。停電も毎日のように起きています。
海外に流出する人々も絶えず、21年7月には革命後初の抗議行動も起きました。
この抗議行動については、国際メディアは、多数の国民が参加し、逮捕、投獄されたと伝えています。しかし、いつものことですが、メディアの報道と実態は異なります。
この日はおかしなことがありました。日曜日の午前1時、多くの人々がスマホをいじっているときでした。SOSCUBAというハッシュタグ付きのSNSで「全国で抗議活動が行われる」と指令が出されたのです。参加者も少数であり、大半は平和的なものでしたが、所によっては建築物への放火や襲撃なども行われました。私たちはすぐさま現場に向かい、経済状況や打開策について説明し、事態は収まりました。国民は政府を糾弾していたのではなく、説明を求めていたのです。
キューバでは反政府の意見を持っているからと言って、政府も、また国民も、抑圧したりはしません。裁判にかけられたのは焼き討ちなど暴力行為を行った人々です。これはどこの国でも行われていることですね?
米国でも抗議活動は、通常、警察の野蛮な行為で終わっています。黒人や貧しい人々に対しては特にそうです。最近の大学でのパレスティナ問題に対する抗議活動も同様でした。ヨーロッパ諸国でも平和的な抗議活動に対して警察が発砲したり、2日足らずのうちに3000人以上が拘束されたりしています。なぜ話題にもならず、批判もされないのでしょう?
「マラリー・メモ」
米国の対キューバ政策がどのようなものであるかを示すものに、国務省のマラリー・メモがあります。そこにはこう記されています。「革命に対する国民の支持の高さを考えるならば、経済的に締めつけ、でき得る限り国民を困窮させ、欠乏させること。それによって社会爆発を引き起こし、革命を崩壊させることだ」と。今日の封鎖激化の目的もそこにあります。60年以上に渡りキューバが生き永らえてきたためです。
米国が他国を侵略する際に罪としているのは、ただ一つ、その国が自決や独立や主権を望んでいることです。大国のヘゲモニーを貫くために、自国と異なる社会モデルを追求する国を侵略する。そのために何年にもわたり野蛮な経済封鎖を行い、革命を倒すために嘘に訴える。大変、邪悪であり、下劣なやり方です。
もしも、私たちが大きな間違いを犯している、まったく不十分である、本当に失敗しているというのであれば、制裁などせずに放っておいてほしい。でも、そうはしないのです。
国連総会では毎年、封鎖解除決議が圧倒的多数の支持で採択されています。米国に賛成する国はイスラエルだけになりました。にもかかわらず、米国は国際世論を無視しています。心から言いますが、これは他国を見下しているということではないでしょうか。
私たちは米国政府に対し、平等な条件で、押しつけや条件づけ無しに、一つのテーブルに座り、キューバと米国間のすべての問題について話し合う用意があることを、直接、間接に伝えています。しかし、米国政府は応えてくれません。
米国では、民主党員も、共和党員も、行動に変わりはありまん。軍産複合体というものがあり、その背後にもう一つの権力構造が存在し、それが米国の帝国としての立場を決定しているのです。
イデオロギーの違いがあっても、隣人との間には、文明的な関係や協力、経済や貿易や科学や金融や文化などあらゆる生活面での交流が、存在し得るのではないでしょうか。
キューバ風市場経済の導入・科学技術立国
キューバは今、市場の指標を考慮した計画経済体制をとっています。純粋な市場経済を基礎としたものではありません。そこには社会正義という概念が存在しています。市場の法則が経済発展をリードしているのではありません。「人間の働きかけ」を重視しています。民間部門も拡大していきますが、社会主義建設の重心はあくまでも国有部門にあります。
しかし、キューバ経済の実態をよく見ていくと、あるレベルの不当性が存在していることも否定できません。計画経済でありながら市場の指標や法則を認めているためです。様々な努力が求められています。
20年1月に世界で初めてCOVID-19の感染拡大が伝えられたとき、ラウル・カストロ将軍はすぐさま、国全体の体制を整えるよう指示しました。国内ではまだ、感染者が出ていない時です。医療関係だけではなく、あらゆる機関、あらゆる人員が集まり、定期的に会合をもち、COVID-19の研究と対策を検討しました。迅速な準備が感染予防に役立ちました。
5種のワクチンも開発できました。バイオ薬品開発の経験をベースとしたものです。フィデルの理念にもとづき、早くからバイオテクノロジーの発展に取り組んできた成果です。ワクチン接種が進み、オミクロン株が入って来た時も、他の諸国よりも感染を低く抑えることができました。世界にはワクチン格差があります。効果が高く、安価なキューバ・ワクチンは貧しい諸国の感染抑止に貢献できました。
地域住民と密着したファミリードクター制度も大いに功を奏しました。COVID-19では初期の手当てや感染者のケアが重要なのです。
海外との協力にも力を注いでいます。20年3月末にイタリアのロンバルディアへ医師のチームを派遣したのを皮切りに、46か国に医師団を送りました。ワクチン開発の技術も海外に移転しています。
ポスト・コロナにおいては、国際社会が協力し合い、すべての諸国に強力な保健システムを築きあげていかなければなりません。今、憎しみが世界に蔓延しています。インクルーシブで、公平かつ公正な、新しい国際経済秩序の形成が求められます。
感染収束後も、毎週、COVID-19に関する会合を開き、広範なテーマについて分析し、具体化しています。後遺症の研究もその一つです。その一方で、様々な種類の癌も含め、多くの病気の治療薬の開発に取り組んでいます。高齢化社会でもあり、アルツハイマーやパーキンソン病、退行現象の研究も進めています。最近、糖尿病患者の足の壊死の治療薬、Heberprot-Pの臨床検査も承認されました。デング熱ワクチンはすでに日本にもありますが、デング熱には株が4つほどあり、すべての株に効くワクチンを研究しています。
米国の機関とも協力し、肺がん用ワクチンなどの実験を行っています。
デジタル化の推進
社会の情報化も重点政策の一つです。
モバイル電話をもつ人々は770万人。およそ800万人がインターネットにアクセスしています。まだ十分ではありませんが、モバイル網も拡大しました。キューバ固有のモバイル・アプリやOSもあります。AIのアプリも開発中です。
「社会のデジタル・トランスフォーメーション(DX)」も進めています。デジタル・プラットフォームの構築だけではなく、生活概念や行動形態も含めデジタル化するものです。
DXやAIは財の生産やサービス部門でも取り入れていきます。
「エレクトロニック政府」政策は、政府のあらゆる活動に市民の意見を取り入れるためのもので、その一つとして、すべての地区、州、省、そして大半の機関にデジタル・ポータル、あるいはインターネット・プラットフォームを設けています。「キューバ市民ポータル」は、市民がプロファイルをつくり、事務所を通したり書類を出したりせずに各種の手続きを行えるプラットフォームです。
キューバは資源のない小国です。経済再建と発展のための基本理念は、想像力、科学技術、そして、住民との対話です。
前述の停電問題も解決の見通しが出てきました。風力やバイオガス、とくに太陽光発電に力を注いでいます。再生エネルギーの割合は2030年までに20%以上に高める計画です。
ラテンアメリカ・カリブ海の一員として―人間中心の世界の建設を目指して
ラテンアメリカ・カリブ海では危機が増幅しています。これはグローバルなレベルで存在している、あらゆる矛盾の表われです。
ベネズエラ、ボリビア多民族国、ブラジルのルーラ、メキシコのロペス・オブラドール、ホンジュラスのシオマラ、チリのボーリチ、コロンビアのペトロ政権など、地域の安定や協力や相互交流のために力を注いでいる政権が存在する一方で、アルゼンチンのミレイ政権など、歴史的に築かれてきた社会的成果を破壊する極右勢力が台頭しています。
ハイチの困難な情勢も解決の見通しがつきません。ハイチはラテンアメリカ・カリブ海で最初に革命を実現した、尊敬すべき国民です。そのために外国の干渉や苦しみを被ってきました。奴隷制からの修復が必要です。多くの人々が軍事干渉や国内問題への介入を考えていますが、私たちは武装部隊を送りません。医師を送り、国民にサービスを提供しています。
「ラテンアメリカの解放者」シモン・ボリバルや「キューバ独立の父」ホセ・マルティは、「北のアメリカ」に対して、南の「われらのアメリカ」の良さを指摘し、自立的発展や相互協力を訴えていました。フィデルもそれを受け継いでいます。
私たちは、すべてのラテンアメリカ・カリブ海諸国と手を携え、主権や独立を守っていきます。そのために尊敬と団結と協力関係を維持していきます。制度やイデオロギーの違いを超え、どんなに厳しい問題や対立が起きても、対話や議論を通じて問題を解決していきます。
ラテンアメリカ・カリブ海の文化的富、つまり進んだ思想や思想家や哲学者やアカデミズムの立ち位置は、先進性、大いなる研究、一貫性、ラテンアメリカ・カリブ海のアイデンティティのルーツの保持にあります。これは私の夢でもあるのですが、こうした長所、こうした富をもつ諸国が統合していけば、人間中心の世界の建設にとって模範になるものと確信しています。
状況は大変厳しいです。侵略や、蔑視や、干渉があり、不平等の中で生き、プロセスからも可能性からも除外されてきました。ラテンアメリカ・カリブ海は資源大陸ですが、残念ながら、国民間に最大の格差が存在しています。文字を読めない人々もたくさんいます。ジェンダーの平等や、ラテンアメリカ・カリブ海の素晴らしい女性の解放のためにも多くを実現しなければなりません。すべての人々の平等や社会正義のために多くを勝ち取らなければなりません。そのための歴史的、文化的潜在能力は存在しています。
初出:「リベラル21」2024.6.22より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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