「私たちの子どもたちも、孫たちも、経済封鎖の中で生まれ育ち、苦しんでいる」イグナシオ・ラモネ 『ディアス・カネル大統領へのインタビュー』(Ⅱ)
- 2024年 6月 24日
- 時代をみる
- 「リベラル21」キューバ後藤政子
バイデン政権下でも続く激しい封鎖
キューバ国民は長い間、封鎖の嵐に苦しんできたということを忘れてはなりません。私たち革命初期に生まれた世代は封鎖による欠乏の中で生きてきました。私たちの子どもたちも、孫たちも、封鎖の中で生まれ、育ち、封鎖の影響に直接、さらされています。
60年以上にわたる経済封鎖の矛盾が蓄積されているところに、トランプ政権により封鎖が激化され、そこにCOVTD-19の感染拡大や、ハリケーンや異常気象などの自然災害が重なりました。国際情勢の変動も物資の不足に拍車をかけています。
2019年前半までは、創意工夫をこらし、何とか経済活動や国民生活に大きく関わる社会プログラムを維持してきましたが、どんなに頑張っても、どんなに頭を働かせても、財やサービスの提供に必要な経済活動を発展させることができなくなりました。
民主党のバイデン政権下でもトランプ政権の政策がそのまま維持され、4年間にわたり体系的に実施されていることも、見逃してはなりません。
米国は、よく知られているように、経済封鎖だけではなく、国内の反政府勢力に資金を供与するなどして反体制運動を推進しています。今日では情報操作がとくに重要な政策の一つになっています。
国際メディアもその一旦を担っていると言えます。国際メディアには一つのシナリオがあるのです。非通常戦という台本です。まず、社会的騒擾や異議申し立てや抗議活動の多発、次いで、警察の抑圧や政治犯(カッコつきのものですが)の弾圧、そして、それゆえに失敗国家であり、従って、人道支援と体制転換が必要である、というものです。
21年7月の抗議デモはこうした米国の政策が功を奏し、起きたものでした。それまでのキューバでは見られなかったものです。世界が変わり、私たちの社会も変わりました。
キューバ憲法では表現の自由が保証されています。従って、このような行動に対しても十分な配慮がなされています。私たちには、常に住民と対話し、情報を伝えるというシステムがあるのです。あのデモの際にも、私たちはすぐ様、現場に駆けつけ、説明しました。デモ参加者も納得し、事態は収まりました。
経済の再建—科学とイノベーション
経済危機をどのようにして克服していくか、ということですが、まず、経済は複雑な状況におかれていること、そしてあらゆる経済の不均衡というものが存在していることを認識しておかなければなりません。
そこで、私たちはマクロ経済安定計画を作成しました。2030年までのものです。インフレや為替問題だけではなく、国内生産や輸出の問題、賃金や年金や雇用、国有企業とその他の経済セクターとの関係など、広範な分野を包含したものとなっています。できるだけ短期間にマクロ経済を均衡させるためには、コンスタントに調整していかなければなりません。
計画再生策の前提となっているのは、一つは、国内生産、とくに食料生産をいかにして刺激するかです。今、食料輸入に20億ドル以上を費やしています。食料の自給率が上がれば外貨を節約できます。また、国内生産やその生産効率が向上すれば輸出競争力が生まれ、国内生産が持続可能になります。食料生産については、まず地区(Municipio)が、次いで州(Provincia)がそれぞれの自給計画を作成し、最終的に国レベルで食料状況を安定させるという形をとっています。
私はこの1月から毎月、全国の州を回り、それぞれの州で地区を訪れています。私たちは「創造的な抵抗」という考え方をとっています。「今、自分たちはこれこれの封鎖の影響を受けている。それでも、これこれのことはできる、克服は可能だ」という考え方です。「インスピレーション」と言ってよいかもしれません。いろいろなことをやり、その経験の中からさらにより良いものを求めていく、ということです。今日の例外は、いつか、法則になります。これは指令やプロパガンダでやっていることではありません。労働者グループが自発的に行っているものです。現場を見て、なるほどと納得したときには、そのやり方や経験をうまくいっていないところへもって行きます。活動や求められる成果がまだレベルに達していないのをこの目で見るのも大変な刺激になります。そこには光も見えるのです。
経済発展戦略の基本的なコンセプトは科学とイノベーションです。課題への回答を科学研究に求め、イノベーションにつなげていきます。フィデル・カストロ総司令官が打ち出し、ラウル・カストロ将軍が継承してきたものですが、今日のような厳しい状況のもとでも、農業、工業、食料生産などあらゆる分野で実施しています。
けれども、社会的経済的に脆弱な人々や家庭に影響が及ばないように、不平等が拡大しないように実施していかなければなりません。というよりも不平等は縮小していかなければなりません。私たちが生み出す富は分配できるものです。私たちは社会正義という原則のもとに分配します。
COVID-19の3つの教訓
封鎖の激化のために経済情勢が極度に悪化し、食料すら不足しているさなかに、COVID-19の感染が始まりました。人工呼吸器や酸素の購入もバイデン政権の圧力により阻止されました。本当に犯罪的な行為です。パンデミックのときに集中治療室で呼吸困難に陥っている人を、何もできないまま死に至らしめるのですから。お金や富がある自国の方が感染状況がひどいときに、そうやってキューバの状況を操作するのですね。
私たちがCOVID-19の経験からから学んだ教訓は主に3つあります。
一つは、早急かつ総合的な準備体制の構築です。国内でまだ感染者が出ていなかった20年1月に、国のあらゆる機関を包含した体制を整え、感染対策に関する総合的な計画や戦略を打ち立てました。
第2は国際協力です。海外に医師団を派遣しただけではなく、医師たちが帰国するたびに、彼らと集まり、経験を積み上げ、それを感染対策計画に組み込んでいきました。
第3の教訓は分子生物学の実験所のネットワークを作ったことです。あらゆる標本を処理することができ、重要な役割を果たしました。このような感染症は一定の瞬間に、とくにピーク時に急拡大します。ピークが収まったときにはリファレンスができており、COVID-19 の感染とはどのようなものであるかなど、資料を得ることができました。
保健システムのなかでの科学としての感染症研究の役割ですが、そこには固有のロジックというものがあります。いかにして感染をとめるか、いかにして感染を回避するか、どのように行動するか、などです。そのためには社会のすべての機関を統合することが不可欠ですが、とくに功を奏したのは、保健システムをCECMED(医薬品医療機器調整機関)やバイオ薬品産業と結合したことです。それによって臨床試験の期間を短縮したり、クリニックの能力を引き上げたり、さらには新しい医薬品の開発や既存の医薬品の活用によってケアプロトコルを適格なものにすることができました。
デルタ株の感染のピークが始まったとき、世界のワクチンの分配は不平等でした。貧しい人々には届いていません。そこで科学者に依頼しました。主権を維持し、このような事態に立ち向かうためには私たちのワクチンが必要です、と。こうして3か月で最初のワクチンの候補ができ、最終的に5種、開発されました。このうち3種は高い効率と効果が証明されました。他の2種は臨床試験が続いています。大変、有望なものです。
世界でもワクチンを開発できた国は十指に満たない状態です。南の諸国はゼロです。いろいろ調査してみると、世界では研究のために兆単位の資金が製薬会社に渡されていました。科学研究機関に5000万を超える額をだすなど、とてもできません。そこで、すべての機関、すべての人員に働きかけたのです。
封鎖に苦しむ、貧しい小国では考えられない快挙でした。そのため、様々な諸国がワクチンを作る力をもち、すぐにワクチン接種ができるよう、他の諸国に技術を移転し、分かち合いました。
ポスト・コロナにおいては、世界が協力し合い、すべての諸国に強力な保険システムを構築しなければなりません。しかし、今は真逆な状況にあります。世界は戦争へ、制裁の強化へ、封鎖へ、国際問題の解決を阻む壁の構築へと向かっています。憎しみの言説がソーシャル・メディアを覆い尽くしています。憎しみの言説、俗悪な言説、陳腐な言説はより良い国際関係に資するものではありません。
自らの知恵と努力で打開する
米国の経済封鎖は違法かつ不正であり、時代錯誤の政策です。そこには米国政府の絶対優位思想が存在しています。
封鎖に対し、私たちは決して手をこまぬいてきたわけではありません。抵抗力を高めてきました。封鎖の影響のために私たちの夢や願望は抑制され、遅滞させられてきましたが、生き続けてきました。いつも言っているのですが、「封鎖のもとでも、私たちの願いである繁栄にまでは至らないものの、多くのことができた。封鎖がなければ何ができただろう」と。
国連総会では、キューバ制裁解除決議が、毎年のように、イデオロギーの違いを越えて、圧倒的多数の諸国の賛成で採択されています。封鎖に反対する決議を採択したり、封鎖を打破するための政策を取る国や、地域ブロックや、国際機関も、ふつうのことになりました。世界では毎週、あるいは毎週末に、封鎖に反対する抗議行動が行われ、その数も増えています。昨年だけでもキューバを支持するデモは2000に及びました。今年に入ってからも数えきれないほどの反封鎖運動が実行されています。
キューバは米国に何も悪い影響を及ぼしてはいませんし、反米手段などまったくとっていません。米国政府が一方的に封鎖を課しているのです。繰り返しになりますが、米国政府がキューバの罪としているのはただ一つ、私たちが主権を守りたいと望んでいることです。
私たちは封鎖解除のために好意をお願いしたり、媚びたりはしません。それは私たちの権利の問題だからです。私たちは平和と平等のもとに、抑圧や押しつけを受けることなく、発展する権利を有しており、そうしたいと願っています。
次の選挙で米国は是非、変わってほしい。ひざを突き合わせ、われわれのあらゆる立場について議論する場をもてるように、異なる関係ができるように、封鎖が解除されるようになってほしい、と願っています。
けれども、私は、封鎖は私たち自身の手で、私たちの能力、私たちの活動、私たちの才覚、私たちの知性、私たちの努力で克服しなければならないと確信しています。これこそが、長い年月にわたり私たち国民にジェノサイドの封鎖を維持してきた頑迷さに対する最良の回答なのです。
初出:「リベラル21」2024.6.24より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye5270:240624〕
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