日本国憲法の前文は国連憲章前文を受け入れたもの 2つの大戦への反省と世界平和を保障する為の取り決め
- 2024年 9月 7日
- 時代をみる
- 「リベラル21」世界平和国連憲章前文日本国憲法高山 智
<編集委員会から>
横浜市青葉区に「青葉台地域9条の会」という護憲市民組織があります。青葉区在住の有志らを中心に、2006年に創設された組織で、会員40人。毎月、例会を開いて憲法と平和を守るための学習に取り組んでいますが、8月21日の例会では、高山智・朝日新聞元論説委員の講演「国連憲章と日本国憲法の関係をめぐって」を聴きました。その要点が同会のニュース198号に載りましたので、同会の許可を得て、紹介します。
【講演の要点】
〇1946年11月3日公布の日本国憲法は、先立つこと一年前に成立した国連憲章(1945年6月26日採択)の、いわば日本版といってよい。わが憲法前文にある「平和を愛する諸国民の公正と信義」とか、「専制と隷従、圧迫と偏狭を永遠に除去しようと努めている国際社会」とは、具体的に何を指すか。それは国連憲章前文に盛り込まれた、二つの世界大戦への痛切な反省であり、戦後世界の平和と安全を保障するための諸条項(第6章、第7章)である。つまるところ、日本国憲法前文は、すでに諸国が合意した事柄を率先して受け入れ、その中で「名誉ある地位」を占めたい、という受諾文書でもある。
〇日本高憲法の作成過程をめぐり、それを生々しく伝えるのはベアテ・シロタ・ゴードン著『1945年のクリスマス』(朝日文庫)の第5章「日本国憲法に<男女平等>を書く」。相も変わらず、天皇を主権者とし国民を「臣民」」として扱う日本政府案(松本丞治国務大臣主導)を斥け、GHQが速成した対案を突き付けてやりあった過程がよくわかる。
その意味では「押しつけ憲法」なのだが、それを歓迎し、自分たちのものとしていったのは国民自身だった。この経過は、ジョン・ダワー著『敗北を抱きしめて』上下巻(岩波書店)に詳しい。日本には、戦時中も細々と生きながらえてきたリベラリズムの伝統があり、このリベラリストたちが戦後、表舞台に立って民主化を推進した。
〇国連の安全保障機能は、憲章第6章(実力行使に至らない仲介)と第7章(強制行動を伴う実力行使)から成り立つが、それを担う安全保障理事会が長く続いた東西冷戦下、米ソが拒否権を発動しあったことから、有名無実の存在となっていた。苦肉の策として、ハマーショルド第2代事務総長がスエズ動乱(1956年、第二次中東戦争)の際に編み出したのがPKO。憲章にはなく、6,7章の中間的なので「6章半」とも呼ばれる。紛争地に飛び込んで平和構築にあたる、危険をと伴う任務で、冷戦後のいまも紛争地での活躍が続いている。曲がりなりにも「国連中心主義」を外交3本柱(あとの2本は日米基軸とアジア重視)の第一に掲げる日本として、このPKOにどう取り組むのか。
9条は変えるべきでない
〇憲法9条は変えるべきではない。「自衛隊加憲」も不要。憲法は最高法規として国内の法律や行政を縛る。と同時に、外に向けてその国のありようを約束するものでもある。9条の存在は、これまでも国際社会での日本の立場を強めてきた。自衛隊への制御(文民統制)は、自衛隊法で対処すべきもの。
○日本国憲法が出来てから今日まで、世界の情勢は大きく変化してきた。世界は今や液状化状態で難民もあふれている。グローバルな流れの中で憲法を捉え直してみたい。
○戦後、中国の共産化・朝鮮戦争を契機に、GHQの対日政策が転換し、日本の立場は大きく変わることになり国内の民主勢力はこれに対抗してきた。
○憲法9条は、世界に向けて戦争をしないと約束した。個別的・集団的自衛権も放棄した。 アフリカなどの地域では、武力を放棄した信頼できる国だと思われている。9条を変えると、世界への影響が大きすぎる。
○戦後日本外交の3本柱は、国連中心主義、日米関係重視、アジアとの友好だった筈だが、 実際は日米関係のみを重視し地位協定にもとづき、沖縄に負担を押しつけている。
【Q&A】
Q 五大国の拒否権は、国連憲章の理念を台無しにしているのではないか。
A 国連という組織を壊さない為の安全弁だ。話は第一次世界大戦に遡るが、こんな戦争を繰り返さぬためつくられた国際連盟は全会一致のシステムだったので失敗した。拒否権がなければ国連は破綻していた。
Q 集団的自衛権は初め、国連憲章にはなかった。中南米が要求して書かれたと言われるが、どうなのか。
A 6章は「紛争の平和的解決」という項目で、まず調査し、次に注意し、ダメなら勧告と、できるだけ武力を使わずに解決しようとする。それでダメなら7章で段階的に武力を、となるが、侵略された弱小国はこの間に領土を失ってしまうと、中南米諸国などが国連 に泣きついたので、51条に集団的自衛権が書き込まれた。
Q 朝鮮戦争は今も休戦状態だが、もし今後再び開戦なら、アメリカは国連軍として出動するのか。
A いや、米韓の条約で対応するだろう。国連軍は既に述べたような事情でつくれない。
Q 昭和天皇が、沖縄はアメリカに任せると言ったのは事実か。
A 然り。
Q 厚木基地で米軍ヘリが落ちたのに発表しなかった。日米地位協定は、日本全土あてはまるのか。
A その通り。安保条約は地位協定とセットになっている。本土の米軍基地は反対闘争でどんどん減り、米軍基地の74%が沖縄に集中した。こんないびつな形はおかしい。
Q 日本国憲法は交戦権を否定したのに、個別的自衛権や集団的自衛権などと言い出し、 国連憲章にすり寄ってきていると思う。自衛隊は違憲か、合憲か。
A 長沼判決で、自衛隊は違憲とされた。9条を字義どおり読めば違憲だ。しかし日本国民は存在は認めている。特に災害派遣では必要だ。朝日の世論調査では、9条は変えない方がよいが60%以上。しかし 9 条に自衛隊を書き込むことに賛成かと聞き直すと6割が賛成する。つまり自衛隊の扱いに迷っているということだろう。しかし最近、自衛隊員の靖国神社集団参拝や幕僚の偏向ぶりに危機感を感じる。靖国神社の遊就館を見学すると、戦争賛美でアジアを侵略したという加害者意識がない。
Q 自衛隊を災害救助隊にする事は出来ないのか。
A 昔、野党がその案を出したことがあるが、国会を通すには力不足であった。自民党は1955年に保守合同で出来たが、党是が憲法改正だ。アメリカの押しつけだからイヤだ、9条はできることならやめたいというのが本音だ。自衛隊は、専守防衛でいくしかない。今の時代、国ではないテロ集団などの軍事的攻撃が起きている。日本は国連にカネは出すがヒトは出さない、との批判を多くの国々から浴びせられてきた。21世紀の世界は多国間外交だから、日本だけ日本の事情だけ、では済まないということも知っておくべきだ。
<高山智氏の略歴>
1961年、朝日新聞入社。津支局を経て、名古屋、東京両本社で社会、整理、経済、外報の各部員。78年から5年間、モスクワ特派員、支局長。帰国後は調査研究室を経て論説委員(国際担当)。傍ら学習院大学法学部、早稲田大学政経学部非常勤講師。97年退社。2007年まで中部大学国際関係学部教授(国際関係論)。
初出:「リベラル21」2024.09.07より許可を得て転載
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