中国の研究者はドイツ東部3州議会選挙をどう予想したか ――八ヶ岳山麓から(484)
- 2024年 9月 9日
- 時代をみる
- 「リベラル21」ドイツ東部3州議会選挙中国の研究者阿部治平
ドイツ東部3州議会選挙の結果 AfDとBSWの躍進
時事やBBCによると、9月1日に行われたドイツ東部(旧東ドイツ)のチューリンゲンとザクセン両州の州議会議員選挙では、反EU・反移民の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が躍進し、チューリンゲンでは2013年の結党以来初めて第1党となった。
左派ポピュリスト新党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト連合(BSW)」も躍進した。BSWは、旧東ドイツ社会主義統一党の流れをくむ左翼党を離党した、知名度の高いマルクス主義者ザーラ・ヴァーゲンクネヒト氏が立ち上げた政党で、今年1月に発足したばかり。反EU、反移民、さらにはロシアに親和的な主張を展開し、チューリンゲンでは15.8%、ザクセンでは11.8%の票を得て両州議会で連立形成のカギを握る第3勢力となった。
一方、社会民主党(SPD)などショルツ首相を支える国政与党(SPD・緑の党・自由民主党)3党は軒並み得票を減らし、難民政策やウクライナへの支援長期化に対するドイツ東部住民の不満があらわになった。
(地図は時事通信ネット)
中国の研究者の予想は的中
ドイツ東部州議会選挙の実施1日前、中国の環球時報(8月31日)は、呉慧苹氏の「特殊な政治生態を示すドイツの東部地域」という表題の論評を掲載した。呉氏は同済大学ドイツ研究センター教授・副所長である。
この情勢分析記事は、私が見た西側メディアの予測と大きな違いはないうえに、ドイツ東部民衆の感情を詳しく伝えるなど、情報収集の仕方が緻密であると感じた。そして選挙の予想は文字通り的中した。
だが私は、西ヨーロッパの政治にはまるで無知なので、呉氏の論評を評価することはできない。以下にそのの要約を記すにとどめる。
〇選挙情勢の分析
9月に行われるドイツ東部のザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州の3州の州議会議員選挙は、最近の世論調査や選挙の結果からすれば、新たな勢力が出現し、今回の選挙でさらに支持を拡大する可能性が考えられる。これは、ドイツ全体の政治状況に大きな変化をもたらすかもしれない。
今年になって、「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト連合(BSW)」と「ドイツのための選択肢(AfD)」という二つの政党の「ダークホース 」ぶりが際立っている。彼らの政治主張は極左と極右であり異なるが、反体制的でポピュリスト的である点は共通である。
BSWは設立からわずか5カ月で、6月の欧州議会選挙で6.2%の得票率を獲得し、全国世論調査ではすでに社会民主党(SDP)と左翼党の支持率を抜き、州議会選挙が行われる予定の東部3州では、世論調査4位に入り、一時は20%近い支持率を記録した。
AfDは西部で生まれたが、東部の特殊な社会的土壌を最大限に利用し、東部諸州で30%以上の支持率を誇り、第1党または第2党の地位を維持している。
ドイツでは連邦制の特性上、連邦政治と州政治に直接的な対応関係はないが、ドイツ政府は 「時代の変わり目 」の危機対応に疲弊し、「連合政府」3党は予算などの問題で対立が絶えず、政府の仕事に対する国民の満足度は歴史的な低さまで落ち込んでいる。
〇東ドイツの特殊性
東西ドイツの統一後、ドイツ東部の経済社会は大きな変貌を遂げたが、インフラ・所得水準・雇用・経済活力・技術革新の面で、東部と西部には長年の明らかな格差がある。この分断、統一、変革の過程が、ドイツ東部に独特の政治的・社会的生態系をもたらした。
統一後、高学歴の若者の流出、僻地の人口減少、インフラの遅れ、ドイツ全土の平均をはるかに上回る若者の失業率などがあり、東部の多くの人々は、統一後の発展に失望し、経済的・社会的現状に不満を抱き、民主主義体制に深刻な不信感を抱いている。そして東部の歴史への郷愁、現実政治への失望や不満、強い異議申し立てがある。
このため東部における既存政党の支持は限定的で、政治的右傾の程度は顕著である。政党支持率では、ザクセンとチューリンゲンではキリスト教民主同盟(CDU)と「ドイツのための選択肢(AfD)」の2つの右より政党の支持率を合せると、半数をはるかに越える。もし、(反EU,反移民、旧東ドイツへの郷愁という面では)保守的といえる「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト連合(BSW)」を加えると、「文化的保守」勢力が絶対多数を占める。これには、東部の文化的観念と生活様式が日を追って保守化しているという背景がある
ドイツ西部の大都市や人口密集地では、左翼的な平等主義思想やオープンで寛容なライフスタイルがより深く根付いており、ここでは国民は、右翼的過激主義に対して相対的に拒否し警戒する傾向がある。
だが、東部のライプツィヒやドレスデンなどでは、民衆は外国移民に対して相対的に保守的な態度をとり、さらに(自身の)文化的アイデンティティを強調する。東部ではかつてネオナチや極右の外国人排斥事件や、右翼保守と反移民運動が蔓延したが、今日でも社会の右傾化は根深いものがある。
〇選挙後のドイツ政党の行方
「ダークホース」2党の勢いが強まるにつれ、ドイツの政党状況は分断と極端化の傾向を強め、連邦レベルから各州レベルに至るまで、組閣や政党連合の結成をより困難にしている。伝統的にドイツの政党は、連立をくりかえしてきたが、これを放棄して新しい政治状況に適応せざるを得なくなっている。
従来は、同じ陣営にある政党は自然で理想的な同盟パートナーであった。 しかし、ドイツの政党が細分化されるにつれて、それまでの陣営から離脱し、中間の政党と政権連合を組むことが増えている。だがいまのところ、多くの政党は、政治的スペクトルがかなり大きく離れている(極右の)AfDとの連立政権を考えてはいないだろう。
だが、今回の東部地域の州議会選挙次第では、このタブーは破られ、BSWが主流政党と州レベルの協力を考慮するかもしれない。また、政界の新勢力としてBSWが一過性のものになるか、それともAfDへの永続的な挑戦となるかはまだわからない。ひとたび政権の座に登れば、同党は構造的に弱く、根が貧弱で、(ザーラ・ヴァーゲンクネヒト)個人に大きく依存し、政治経験が乏しいことも露呈するだろう。
政権の座に登るか否かは別として、「ダークホース 」2党が州議会選挙で勝利を収めれば、全国レベルで伝統的な政党に挑戦することになる。 これは、ドイツの多くの有権者に主流政治への不満を募らせ、あらゆる方向から代替案を求める傾向をさらに強めるだろう。 この動きは、2025年秋のドイツ国政選挙にさらなる不確実性をもたらすだけでなく、長期的にはドイツの政党政治を再編成することに連なるだろう。 (2024・09・04)
初出。「リベラル21」2924.09.09より許可を得て転載
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