知っていますか? 気候変動対策のために原発が進められてしまう危険
- 2024年 10月 6日
- スタディルーム
- 原発気候変動対策編集・発行:気候変動と原発を考える会
(1)COP28で起きたこと
最近、夏に暑い日が続いたり、台風の被害が出たりすると「気候変動の影響だ」と言われることがあります。そのようなことが言われるようになったのは、CO2の人為排出が原因で気候変動が起きているという説が、1980年代末以降世界に広まったためです。その一環として1992年に気候変動枠組条約が締結され、これに世界のほとんどの国が加盟しています。
気候変動枠組条約の加盟国は毎年首脳を集めた会議(COP)を開き、気候変動への「対策」を検討しています。2023年には11月30日から12月13日まで、第28回気候変動枠組条約締約国会議(COP28)がUAEドバイで開催されましたが、そこで原発をめぐって2つの大きな動きがありました。一つはアメリカが提案した「世界全体の原発の設備容量を2050年までに3倍に増やす」という宣言案に、21か国が賛同したことです。もう一つは、「第1回グローバル・ストックテイクの成果文書」の中で原発が明記されたことです。
(2)原発3倍化宣言
原発3倍化宣言は、COP28のサイドイベントで米国が12月2日に提案し21か国が賛同した、気候変動対策のために2050年までに世界の原発設備容量を3倍にするという宣言です。参加国は米国、ブルガリア、カナダ、チェコ、フィンランド、フランス、ガーナ、ハンガリー、日本、韓国、モルドバ、モンゴル、モロッコ、オランダ、ポーランド、ルーマニア、スロバキア、スロベニア、スウェーデン、ウクライナ、アラブ首長国連邦、英国である(当初、宣言国は上記22か国であったが、アルメニア、ジャマイカ、クロアチアが追加で参加し、3月1日現在25か国となっています)。
この宣言では原発設備容量を3倍にするための環境整備として、現在は原発関連プロジェクトを融資対象としていない世界銀行やその他の金融機関に対して、原発を融資対象とするよう働きかけるとしています。
(3)グローバル・ストックテイクとは
気候変動対策を進めるために2015年のCOP21で採択されたパリ協定では、産業革命後の地球平均気温の上昇幅を、2℃を十分下回る水準で維持することを目標とし、さらに1.5℃に抑える努力をすべきとされています。その長期目標の実現に向けて、世界全体の気候変動対策がどれくらい進んでいるのかを5年ごとに評価することになっており、これをグローバル・ストックテイクと呼びます(ストックテイクは棚卸しという意味)。このグローバル・ストックテイクの成果を受けて、各国は次の期の排出削減目標を立てることになります。パリ協定では、各国の中期目標の達成が義務とはされておらず、どれだけ高い目標を設定するかは各国の意思に委ねられています。このため、各国が次期目標(2035年目標)を設定する際に、各国のより高い削減目標を設定する意欲をかき立てる、とういのがこのグローバル・ストックテイクという文書に求められる役割です。
(4)成果文書で「脱炭素のために原発を進めよう」と合意
そうした経緯でCOP28の最終日に合意されたのが第1回グローバル・ストックテイクの成果文書であり、その中に以下の文言が盛り込まれました。
「28.…締約国に対し、…以下の世界的な努力に貢献することを求める。
(e)特に、再生可能エネルギー、原子力、特に削減が困難な分野における炭素の回収・利用・貯留などの削減・除去技術、ならびに低炭素水素製造を含む、ゼロ排出及び低排出技術を加速すること。」 COP 28成果文書の概念図
つまり「脱炭素のために原発を進めよう」ということです。
(5)COP28の決定を糾弾し、一刻も早く原発を止めよう
このCOP28の決定は明らかに間違っています。何よりも地球環境に悪いもの、それは原発だからです。ところがCOPは「再エネもいいけど原発もね。」と言って原発をPRしているのです。例えて言えば、製薬会社が病気の特効薬と麻薬を同時にCMで流しているようなものです。特効薬をPRしているからといって、麻薬のCMを流すことが許されるでしょうか?許されるわけがありません。COPがしているのはそういうことです。みなさんの中には気候変動対策のために脱炭素が必要だと思っている方もいるかもしれません。しかし、気候変動対策の推進母体であるCOPがこともあろうに「脱炭素のために原発を進めよう」と言っているのです。その背後に、原発推進勢力の影響力が働いていることは間違いありません。COPが原発推進勢力と一体となって進めている政策が「脱炭素」なのです。
私たちの暮らしに原発はいりません。人類社会の持続可能性のためには、最大の環境破壊=原発を止めることが最優先です。私たちは原発を推奨するCOP28の決定を、社会正義に反する誤りとして糾弾すべきです。そして、命と暮らしを守るため、市民の力で一刻も早く原発を止め、私たちの社会を安心して暮らし続けられる場所にしていきましょう。
参考文献:原田弘三「COP28・原発をめぐる2つの動き」(『季節』2024夏・秋号所収)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study1322:241006〕
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