原発雑考 436号
- 2024年 11月 17日
- 評論・紹介・意見
- 「経産省前テントひろば」原発雑考田中良明
酷暑のあとの衆院選
10月初旬まで続いた高温と集中豪雨。この異常気象の根本原因が地球温暖化にあることはいうまでもない。今年の7、8、9月は観測史上もっとも暑かったらしい(10月もたぶんそうだっただろう)。そんななか熱中症防止のためにエアコンをためらわず使用することが執拗に呼びかけられた。
猛暑のなかで健康を維持するためにエアコンを適切に使用することについて異論はない。ただしエアコンの使用は電力を消費し、発電の大半をCO₂を排出する火力発電に頼っている以上、電力消費は地球温暖化を助長することになり、その影響は酷暑に晒されてもエアコンをほとんどあるいはまったく使用できない人にも及ぶ。日本国内にそういう人は存在するし、世界全体では膨大に存在する。自らを守るためにエアコンを使用することが、エアコンを自由に使えない人びとをいっそう苦しめることになるのである。
この矛盾から解放されるには、エアコンの使用の仕方を含め、節電・省エネに努めるとともに、多少の経済的余裕のある人はCO₂を排出しない再エネ発電の普及に協力すること(その方法については本紙434号を参照されたい)が最適の方法である。行政や報道機関は、エアコンの使用を呼びかけるのであれば、同時に省エネと再エネ利用促進を強力に訴えかけるべきであった。しかしそのような動きはまったく目立たなかった。日本は温暖化問題に関心が低いという定評があるが、それが見事に追認された。
その関心の低さを政治の舞台で再確認させたのが衆院選である。選挙公報をチェックすると、自民党、公明党、国民民主党、日本維新の会、れいわ新選組、参政党、保守党の各党には、温暖化問題に関係のある記述がまったくなかった。この7党で衆議院の議席の6割強を占め、それに、物価経済対策のひとつとして「自然エネルギー・デジタル産業に重点投資」を掲げただけの立憲民主党を加えると、議席の95%を占めることになる。地球温暖化問題は既成の政治からほとんど見捨てられているのである。
原発超優遇政策
衆院選では多くの党が原発推進を掲げた。政治の世界では原発回帰が進んでいるようだ。しかし原発については、建設費用が高騰し、建設期間が長期化し、稼働後も安全対策工事費用、廃炉・使用済み核燃料処理費用などが発生し、万一事故が起きれば巨額の賠償費用も発生する。その結果として事業の採算性を見極めることが事実上不可能になっているのである。それでも原発新設を推進するために、原発事業にかかわって発生するすべての費用に収益まで加えたものを電気料金で回収するRABモデルというシステムの導入が検討されている。事業リスクをすべて電力の消費者(原発の電気を使わない電力消費者も含む)に転嫁するという原発超優遇の仕組みである。
このような仕組みが検討されていることは、原発は経済的に成り立たないことを認めていることを意味する。そしてそれでも原発を建設しなければならない理由とされるのが、「原発は発電時にCO₂を排出しないから脱温暖化に貢献する」という幼稚な言説である。それがなぜ幼稚かといえば、
まず、原発がそれなりの発電シェアを占めるだけの規模で存在するには、バックアップ電源として火力発電が存在しなければならない(このことについては本誌428号を参照されたい)。ところが、現在すでに経費節減のために大手電力会社は予備電源として待機させていた火力発電設備の廃止を進めており、事故・トラブルや安全性懸念で原発の発電量が長期間にわたって大量に失われた際に火力発電によってそれをバックアップすることはできなくなりつつある。原発が主要な電源として存在するための必要条件を電力会社自体が解体しつつあるのである。
さらに、そもそも脱炭素が求められる時代に火力発電が生き残るには、発電過程で発生するCO₂を全量分離回収して半永久的に漏出しないように処置する必要がある。そのためにCO₂回収・貯留(CCS)という技術が提案されているが、CCSがとりわけ日本においてはその任に堪えないことも明らかである(このことについては本誌429号を参照されたい)。
火力発電と原発は、火力発電が親亀で、原発は親亀の背中に乗る子亀という関係にある。親亀がこけたら子亀もこける。脱炭素で火力発電が消えれば、原発も消えざるをえないのであり、この面からも原発が脱炭素に貢献することはありえないのである。
原発超優遇のそれ以外の理由として、電力安定供給と安全保障上の配慮も挙げられているが、これも正しくない。
まず、電力安定供給は再エネ発電中心の電源構成でも十分に可能である(これについては本誌402号を参照されたい)。
安全保障については、原発は、ウラン資源のすべてと重要資材のいくつかをロシアなどに依存しているし、ウクライナ戦争で示されたように、有事の際には攻撃目標にされて据え置き型原爆に化しかねず、そういう事態を回避するには運転停止状態にしておかざるをえなくなる。つまり肝心な時に役にたたないのである。これにたいして再エネ発電は、100%在地のエネルギーに依存し、安全であり、小規模分散型電源であるから有事に強い。安全保障上の配慮からは、原発に依存するのではなく、脱原発を進めて、再エネ発電を圧倒的主力電源にすることこそが上策なのである。
そして忘れてならないが、原発はそもそも以下のような問題を抱えている。
過酷事故発生の危険性を否定できない/事故発生の際の安全で確実な避難が困難である(震災と原発事故の同時発生などの複合災害においては、安全で確実な避難はまったく不可能である)/高レベル放射性廃棄物の安全な処理方法がない(とりわけ地質的条件が悪い日本列島とその周辺においては)/原発依存によって一定程度のCO₂排出削減は可能だが、それは省エネや再エネ利用による排出削減よりも費用面でもスピードでもはるかに劣っている。
なお、育成のための幼弱産業・未熟技術の保護育成は必要であるが、それは保護すれば発展して社会経済に有益な結果をもたらすものが対象である。再エネ発電はその最適例である。再エネ発電には上述したような多数のメリットがあるし、日本では2013年に導入された固定価格買い取り制度によって発電コストも急低下した。住宅用太陽光発電(設備容量10kW未満)の場合は、制度が導入された2013年に1kWh42円だった買い取り価格が、2024年には16円になり、25年には15円になることが決まっている。設備容量50kW以上の事業用大規模設備の場合は入札制になっているが、入札価格は下がり続け、2024年の最新の入札では9円を切っている。いまや住宅用でも事業用でも、発電した電気を電気事業者に売るよりも自家消費してその分だけ購入電力を減らす方が得になるまでになってきている。
原発はまったく異なる。原発はすでに1世紀近い歴史を有するが、さまざまな問題を抱え、それを反映して建設費が高騰し、それにつれて発電コストも上昇している(これについては、本誌430号を参照されたい)。RABのような超優遇策をエサとして提供しないと電気事業者も原発の建設・稼働に踏み出そうとしないのである。原発はCO₂を排出しない熱源を利用するが、だからといって脱炭素社会で有用な電源になりうるわけではないのである。
雑 記 帳
10月になってシュレーゲルアオガエルの鳴き声がするようになった。春に鳴いていたのと同じあたりからである。夏に出向いていた繁殖地から戻ってきたのだろう。雨が降ると必ず鳴く。樹上生活をするカエルだが、やはり雨に打たれるとうれしいらしい。
少し秋らしくなった8日の夕方、家の前の公園で3羽のコゲラを見た。こちらは夏の餌場から戻ってきたようだ。ウスバキトンボもよく見かけるようになった。赤トンボが舞うのは秋の風情だが、私の住むあたりではアキアカネのような鮮やかな赤色のトンボはほとんど見かけない。
暑い日が続いたせいか、キンモクセイの開花が遅れ、10月15日にようやく咲き始め、あっというまに満開になってむせかえるような香りがたちこめたかと思うと、数日で薄らいでしまった。庭の水甕のヒメスイレンは10月下旬になっても咲いていた。夏が暑くて長かったので、咲く時期が遅れた花、咲いている期間が長くなった花、いろいろあるようだ。
昆虫ではハチが減った。例年9月、10月はアシナガバチ、スズメバチの数が多くなり、刺されないよう注意するのだが、今年は家の庭でも万場緑地でもどちらもほとんど見かけなかった。代わりに万場緑地で虫に刺され、これまでに経験したことのない痛み、かゆみ、腫れに悩まされることが数回あった。高温化で新顔が居着くようになったのだろうか。ひょっとしたら、これまでハチが退治していた危険な虫がのさばりだしたのかもしれない。
涼しくなって家の前の公園には子供たちも戻ってきた。3年ほど前までは、小学校高学年から低学年までの女の子が、多いときには10人ほども集まって、高学年の子の仕切りで鬼ごっこやドッジボールをやっていた。最近は、高学年の子はほとんど見かけず、低学年の子が2、3人でブランコや鉄棒で遊んでいる。放課後に団地の中にある学習塾に通う子をよく見かけるようになったが、高学年の子が公園に来なくなった理由の一つは塾通いかもしれない。
万場緑地のネコ 第59話 10月はじめに明るい茶トラで長毛の若いオスネコが現れた。おりから雨が降り続いていたが、特定の餌場の周辺から立ち去らなかったので、捨てられた宿無しネコと判断された。人慣れしており、飼われていたようだった。すぐに捕獲し、去勢手術をした。長毛ネコは毛の手入れが必要だが、公園住まいでは無理なので、施設保護にせざるをえない。さいわい長毛の茶トラネコは人気があるそうで、譲渡活動をやっている団体に頼み込んで引き取ってもらった。今年は捨てネコが多い。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
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