トランプ勝利の感想・・・・・「またトラ」か! ーー八ヶ岳山麓から(495)ーー
- 2024年 11月 22日
- 評論・紹介・意見
- 「またトラ」「リベラル21」阿部治平
トランプが相手候補のハリスとは大差で次期アメリカ大統領の座をかちとった。びっくりしたし、暗い気持ちになった。
トランプは2020年の大統領選挙の結果をひっくり返そうとしたとか、それに関係して米議会への暴徒侵入を支援したとかの刑事事件の被告人だ。それにハイチ移民が他人のペットや公園の野生動物を捕まえて食っているとホラを吹いた人物だ。わが村でこういう人物が村長や村会議員になれるか?アメリカでは大統領になれるのだ。わたしには、どうしてもトランプを選んだ人の気持がわからなかった。
メディアにはトランプ勝利の理由について、たくさんの解説や見解が現れた。わたしのように新聞とテレビが主な情報源であるものでも、読み切れないほど、見きれないほどの解説があった。
日本のメディアは、アメリカの論調を引きながら、バイデン政権下の不法移民や物価高に不満をもっている人が多かったとか、ハリスを支持すべきヒスパニックやアラブ系の人々も民主党から離れたとか、ハリスではウクライナやパレスチナの戦争を止めることはできないと考えたといった説明をした。要するにアメリカの有権者の多くが民主党政権では現状を打破できないと考えたということだ。
そうならそうと、はなか言ってもらいたかった。なぜメディアは僅差の争いだとか、稀に見る大接戦などといったのだろうか。だが、日本でもメディアの予測を覆した斎藤元彦兵庫県知事の再登場という現象があるから、これ以上愚痴はこぼさないことにする。
たくさんの解説記事のなかで、そんなものかと納得できそうな記事が一つあった。浜矩子の「人々のファンダメンタルズを忘れた経済運営は政治的命取りを招く」(「週刊金曜日」11・15)である。ファンダメンタルズというのは、経済成長率や失業率、金利水準、物価上昇率などの基礎的経済指標の総称である。
だが、代表的経済指標の数値で経済を見ていた専門家たちは、「人々の実感」というファンダメンタルズを忘れていたと、浜氏はいう。氏によると、アメリカのファンダメンタルズは数値では決して悪くないそうだ。物価上昇率も2%台に落ち着いていた。
だが、いったん10%程度上昇した物価が下がったわけではない。だからトランプの「みなさんの暮らしは4年前より楽になりましたか」という問いかけが人々の胸に響いてしまった、という。「経済は人間の営みだ。だから人間の状況と思いが本当のファンダメンタルズだ、ここを見落とすことに対して、経済のリベンジはきびしい」
つまり、アメリカ庶民はバイデン民主党政権を悪政と見限り、ハリスでは生活の窮状を変えられないと判断し、トランプに馬を乗り換えたということである。
そこで、トランプが来年から仕事をやりだすとどんな事態が実現するか。これも読み切れないほどたくさんの論評があった。気になったところを挙げてみると――
〇アメリカ第一の原則によって貿易の多国間主義はひっこみ、2国間交渉に代わる。APECは、さっそくトランプを牽制し、多国間協力が一段と重要だといい、中国の習近平主席は、G20で自由貿易を強調した。
〇トランプ政権はパリ条約から脱退し、地球規模の気候変動対策は確実に後退する。
〇日・欧との軍事同盟関係は損得ずくの取引関係が強まる。トランプは第一次政権時に、同盟国の国防費がGDP2%未満のNATO加盟国には、アメリカは防衛義務を果たさないといったが、この傾向は維持される。
〇トランプは半導体生産を中心に米台関係を考えるだろうから、台湾からの利益が薄くなれば、台湾防衛は薄弱になる。わたしは、トランプの中国敵視が今日以上に強まればどうなるかわからないと思う。
日米関係については、日本は2027年度に軍事予算がGDPの2%に増額するが、さらに米国が思いやり予算などさらなる負担を求めて来るかもしれないと予想し、これを拒否すれば日米同盟にひびが入るといった論調があった。
だが、わたしは理不尽な要求は断ればよいと思う。それで困るのはアメリカだ。アメリカの世界戦略によって米軍は日本に駐留しているのだ。日本のためにいるのではない。日本は日本人が守る覚悟が必要だ。いちいちアメリカの顔色をうかがう根性は捨てるべきだ。
トランプは選挙運動期間中、すべての輸入品に10~20%の関税をかける「普遍的基本関税」導入と、中国への60%関税を訴えてきた。これが実施されるとなれば、日本に限らず同盟国友好国に対して関税を梃子に取引を迫るだろう。関税が嫌なら半導体産業などカギとなる企業をアメリカに移転せよ、となるかもしれない。
日本の日米・日中関係の専門家は、日本の対米対中外交はどうあるべきかについては、軍事同盟の強化を基調とし、その一方で中国との経済関係の維持をいう。これはトランプ政権下でも変わらないらしい。たとえば、石破首相の登場、トランプ当選以前の論評だが、こういうのがあった。
「たしかに、安全保障を考えればアメリカとの同盟が重要な手段と考えるのは自然だが、問題のない領域では中国のパワーを正しく活用すべきだ」「日本は、まず自らのパワーの基盤を守り、また安全保障を確保するために足下を固める必要がある。中国の軍事力伸長は明らかであり、領土に関わる自らの主張をもとにした現状変革のための行動は、今後も強まる。日米安全保障体制に加え、日本自らの手で安全を維持できるための努力が一層求められる(佐橋亮『米中対立』中公新書)」。
じゃあ、トランプ政権下では日本の対中国外交はどうあるべきなのか、どう努力すればいいのか。専門家らしい具体的道筋を明らかにしてほしい。
何年先のことかわからないにしても、中国が台湾の武力制圧の可能性を捨てない限り、日本が対中外交をどう展開するか、台湾有事にどう対処するかは重要な課題である。早い話が、中国軍が台湾作戦を強行したとき、日本はアメリカとともに参戦するか、軍事的中立を保つかである。トランプ相手では、先のことなどわからないからかももしれないが、だれも具体策を提起しなかった。わたしは軍事的中立すなわち台湾見殺しに傾いている。
(2024/11/20
初出:「リベラル21」2024.11.22より許可を得て転載
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〔opinion13971:241122〕
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