日銀が定義する二種類のお金Ⅰ~Ⅲ
- 2012年 1月 1日
- 交流の広場
- お金ななみのゆう日銀
日銀が定義する二種類のお金Ⅰ
お金は人の手から手へ移るだけで、好景気になって付加価値の総額(GDP)が増えたからといって、人間が直接、お金を増やす行為をしないのであれば、自らから決して増えることはない。景気がよくなって、税収が増えれば、お金の総額が増えていると錯覚しがちだが決して増えていない。そのとき増えているのは、経済的にはあくまで付加価値だけなのではないか。たとえさまざまな種類のお金があったとしても、少なくともお金と呼ばれる種類、あるいは景況に大きな影響を与えるお金としては増えることはない。
ところで日銀が2008年6月まで、お金として定義していた名称には、二種類あった。そのひとつがマネタリーベースであり、もうひとつがマネーサプライである。
この二つの名称に属するお金は、ややこしいことに、完全に分離されておらず、つまり重なって属している種類のお金もあるし、また、マネーサプライから見ればマネーサプライを包含していそうだが、実は漏れているお金もある。
物の本によれば、マネタリーベース=日銀券発行残高+貨幣流通高+日銀当座預金となっており、このうち、貨幣流通高として数えられる貨幣とは日本政府自身が発行したものを指していると筆者は考えている。残りの項目二つはもちろん日銀発行による。そしてこの種類のお金だけが本質的意味で決済が可能なお金である。
もう一方のお金であるマネーサプライは、実は、見直しが行われ、2008年6月より、名称とその内容に大幅な変更が加えられた。後継の名称は、マネーストックと呼ばれる。そしてこの種のお金は本質的には決済能力のないお金である。
日銀が定義する二種類のお金Ⅱ
日銀が定義する二種類のお金のうち、マネタリーベースは日銀が増減に携わり、決済能力を持つお金。
一方、日銀が定義するもうひとつの種類であるマネーストックは、本質的には決済能力を持たないお金であり、そのうちの預貯金マネーの増減には、預金機能、貸し出し機能決済機能を持つ銀行等金融機関がかかわる。これは銀行や信用組合や農協や郵貯銀行などの金融機関による信用創造機能と呼ばれ、預貯金として預かったお金でそれら金融機関が一般政府を含め誰かに貸し出したりそれに類似の行為を繰り返すことによって、預貯金マネーを増やす機能を言う。
また、その他のマネーストックの増減には、国債や投資信託なども含まれていることから、多岐にわたり、筆者の能力では特定できないでいるが、基本的には借金と呼ばれるもの増加は、国民全体の金融資産の増加に貢献する。
つまり、マネーストックとは、政府の借金も含め誰かが借金すればしただけ同額が増える構図となっている。
信用創造機能によって、預金マネーが増加するメカニズムについては、インターネット上に多くの説明が見受けられるのでそれをご参考にして頂きたい。
http://money.infobank.co.jp/contents/S200648.htm
また、誰かが借金およびそれに類似の行為をするたびに同額の金融資産(お金が)が増えていく構図であることの証拠として、日銀公表による資金循環統計をその証拠として挙げられないだろうか。
http://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjexp.pdf#search=’日銀資金循環統計’
日銀が定義する二種類のお金Ⅲ
2011年9月末の日銀資金循環統計を参考にして、円通貨額面による負債項目を足していく。
家計+民間非金融法人+一般政府+海外分=354+992+1093+582=3021(兆円)。
反対に、資産項目の円通貨額面では、
家計+民間非金融法人+一般政府+海外分=1471+754+483+342=3050(兆円)
誰かの借金は同額が誰かの預金となる、すなわち、理論的には金融資産総額=金融負債総額となるはずである。上記の計算式より、その差はわずかに29兆円で資産項目の方が大きいのだが、この差が生まれる理由が、筆者には実は判然としない。しかしほぼ一致していることから、『現代のマネーというものは誰かの借金によって同額が生まれ、誰かの借金返済によって同額のマネーが減少してゆく構図となっている』可能性を強く暗示していると思うので、こういう状況証拠からもこれは事実だと断定してもよいと考えている。
またこのような、金融資産総額と金融負債総額の関係となっている以上、1000兆円の現在の政府債務を不健全とし、増税しなければならないとする感性は、とんでもない誤りだと筆者は確信する。
実は、政府債務が膨大になる理由は、経済が大きくなって、且つ現金決済よりも、銀行決済に大きく依存して活動する経済になっているのではないか。もしそうなら、緊縮財政と増税という政策は、自らが日本経済を殺す選択といえる。
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