中国の総人口は? 戸別訪問・聞き取りによる大規模な国勢調査 ―“家庭の事情”の流用を懸念する声も―
- 2010年 9月 22日
- 時代をみる
- 中国の国勢調査丹藤佳紀個人情報
広大な中国で、10年ごとの大規模な国勢調査(「人口普査」)が11月1日を期して行われることになり、いま、その予備作業が進められている。この調査は、人口国勢調査員が全国ですべての家庭を訪問し、戸籍・身元をはじめとする調査項目について聞き取るという内容。世界一であるはずの総人口もさることながら、農村の故郷を離れて都市に住む出稼ぎ労働者(「農民工」)の増加ぶりなども注目されるところだ。
国勢調査と言えば、日本では、各家庭に「国勢調査票」を配布し、10月1日現在で記入して提出・返送する方式で行われる予定になっている。また、中国に次ぐ人口大国のインドでも、2011年に国民すべてを対象に「所属するカースト」を調査することになったという。
「一人っ子」政策という強力な人口抑制策を国民に強いてきた中国、それに失敗して自由放任のインド。その政策の違いを反映して両国の人口増加率には開きがでてきている。中国がほぼ横這い状態であるのに対してインドは右肩上がりのグラフを描いている。
国連推計によれば、2025年に14億4000万人台で両国がならび、2030年にはインドが15億人台に達して世界一の座が入れ代わるといわれている。それだけに、インド社会独特の身分制度であるカーストについて、全国民を対象に英国領時代の1931年以来初めて行われるインドの調査のなかみが注目されている。
中国の国勢調査の見所は、何といっても世界一を記録した人口がいまどれだけになったかという点だろう。10年前の第5回国勢調査では12億6583万人とされた(台湾・香港・マカオを除く)。5年後、2005年の推計調査で13億人を超したと発表された。
中国は、台湾を中華人民共和国の領土と主張しているが統治はしていない。だから、今回行われる第6回国勢調査にしても、台湾と特別行政区の香港・マカオは除かれ、本土の調査結果にそれぞれの統計・推計値を加える方式がとられる。
その調査方法だが、調査用紙をあらかじめ各戸に配布し、それに記入して届けてもらうという方式。それをひろく知らせるため、テレビ広告を含めさまざまな方法がとられている。たとえば、北京では8月、人口国勢調査弁公室と市公安局連名の次のようなメッセージがすべての携帯電話保有者に送られた。
「8月15日から、市内全域で人口国勢調査員が各家庭を訪れます。入室して戸籍の確認と身元調査を行います。法令に従い、ご支援、ご協力下さい」。
なぜこういう当局のメールが個々の携帯電話に届くかというと、携帯電話は「中国移動」(チャイナ・モバイル)など国有通信企業によって運営されている。だから、利用者の番号はすべて把握されており、行政当局が通信企業に依頼すれば携帯電話にメッセージを流すことができる仕組みである。5年前、上海市で反日デモが続いたとき、市当局は、この携帯メッセージを利用して慎重に行動するようにと呼びかけたことがある。
さて、調査票に記入する項目は、日本の国勢調査と基本的に同じようなものだ。ただ、日本にない項目として「民族」がある(日本では「国籍」欄があり、在日外国人用に27カ国語の調査票がある)。「住宅状況」は今回加えられたもので、住宅については建築時期や木造・鉄筋などの構造まで調査の対象にあげられている。
それを派出所などに提出すると、上記のPRメッセージにあった人口国勢調査員の戸別訪問による各戸確認がある。北京在勤の筆者の友人(日本人)宅にもやってきたというのでそのようすを訊いた。
人口国勢調査員は「主任」が1人、見習い2人でひと組。そこに「居民委員会」のおばさん2人がついてきた。居民委員会は日本の町内会のような組織だが、親睦団体ではなく最末端の行政機関である。どこでもこの組み合わせなのかどうか、正規の人口国勢調査員は全国で10万人養成したといから、それが「主任」で、複数の助手を使うのだろう。おばさんたちは現地案内という役回りのようだ。
戸別不問の調査は、届け出た調査票の確認が主目的だったが、おばさん方は外国人宅が珍しいのか、家具の価格を尋ねたり興味津々の態だった。戸別訪問がこういう方式で行われるため、「個人情報が通信販売などに流用されないか」と懸念する人がかなり多いという。また、家に入り込むだけに、人口国勢調査員は写真付きの身分証明カードを持っている。しかし、調査員を名乗って住宅に入り込む犯罪があちこちで起きているようで、テレビでは「偽調査員にだまされないように」とPRしている.
10年に1度の大規模調査だが、経済成長に伴って中国社会の変化は幅広く、激しい。よく知られるその一例が農民工の都市定着化である。統計によっては、その数が2億人を超えたともいわれるが、警察庁に当たる公安省も一翼を担当する国勢調査でどこまでそれがあぶりだせるか。
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