ショーンKさん、ありがとう
- 2016年 4月 7日
- 評論・紹介・意見
- 藤澤豊
知り合いからショーンKさんの話を聞いた。テレビを見ないわけではないのだが、見る番組が偏っているのだろう。ショーンKと言われても、誰のことなのか分からなかった。話を聞いているうちに、チャンネルを回していて、何かの拍子でみたニュース番組に出ていた、あああの人と見当がついた。コメンテータと呼ぶ職業らしいが、日本人離れした、いかにもテレビ向け容貌に、あたりさわりのない一言二言、ただそれだけの人だと思っていた。ちょっと気の利いた、もっともらしいコメントに、まさかそこまでの学歴というのか学歴に裏付けられた(?)能力の人をもってきていた(つもり)とは知らなかった。
こう言っては身も蓋もないと叱られそうだが、たかがニュースの類をメインとした安づくりの娯楽番組だろう。コメンテータには一般受けしそうな、多少気の抜けたワサビのような話を求めているだけじゃないのか。ニュースの背景に切り込んだ専門的な解説したところで番組から浮き上がってしまうだろうし、視聴者はそんな深入りした話を期待していない。込み入った話は聞いたところで面倒くさいと感じるだけだろうし、理解しようなどとは思わない人も多いだろう。ましてや辛辣な社会批判などしようものなら、スポンサーや政府も含め政治団体が黙っちゃいまい。
同時通訳の養成校に通っていた時に講師から聞いた話を思い出した。アポロ計画で月面着陸の瞬間を解説した人が、かなりの専門知識をもっていた。宇宙飛行士の足が月面に着いたとき砂塵が舞い上がった。それを見て、人が月面に降り立ったのに感動して、声も上ずっていたのだろう、「宇宙塵(うちゅうじん)が見えます」と言った。テレビを見ていた人は「宇宙塵」を「宇宙人」と聞いて、テレビ局に「どこに宇宙人が見えるのか?」という問い合わせが殺到した。
世間話に同時通訳までは用意しない。仕事の場はなんらかの専門領域に関する国際会議で、そこでは、どのあたりのことまでは日常会話の感じで、どのあたりからは専門領域の口調で通訳しなければならないかの見極めも必要になる。
ニュース娯楽番組では、突っ込んだ専門的な話ではなく、フツーの人たちの日常生活の常識の範囲内か、多少の延長線での話が求められるだけで、「宇宙塵」は困る。
ショーンKさんのコメントを聞いて、多くの視聴者がなるほどと思ってきたのだろう。ニュース娯楽番組の成功を素直にみれば、ショーンKさんは需要に対する供給の質の面で-話の内容もさることながら、話し方や物腰、容貌も含めて視聴者に支持されてきた。でなければ、新番組のキャスターという重責への抜擢など考えられない。
苦学の末の学歴詐称に整形手術までという話を聞いて、そこまでやるかと正直驚いた。人並みならない努力で今日の能力を培って、ニュース娯楽番組のコメンテータとして十分な仕事をされてきた。ただ成功を求めるあまり、成功へのショートカットという禁じ手を使ってしまった。そこに法的な社会的な責任が生じるが、それ以上にテレビ局と視聴者に貴重な警告をしてくださったような気がしてならない。
フジテレビは、人を採用する際にバックグラウンドチェックをしないのだろうか?いまだに保証人などということもないと思うのだが、今日日履歴書や職務経歴書に記載されていることに間違いがないかという最低限のチェックは常識だろう。日本企業の実情は知らないが、アメリカの大手企業では学歴と資格に直近三社での就労の事実の確認ぐらいはする。確認作業を請け負う業者さえいる。それはチェックをする体制などというものではない。する文化というのか意思があるかないかだけでしかない。
もっとも、金融機関では経歴のあやしいのを承知で、あぶなっかしいコンサルタントを利益誘導の為に上手に使っているところもあるくらいだから、何をどこまで何のためにチェックするのか、しないのか、したとしてその結果をどう使うかは経営判断ということになるのかもしれない。それにしても、ショーンKさんの場合はどうだったのか気になる。学歴詐称が露見したら、経緯の説明もなしで、ただすみませんでしたと頭を下げて、それでテレビ局として責任を果たしているとでも思っているのか?報道しているニュース?の信ぴょう性まで疑われる。ショーンKさんの学歴詐称よりこっちの方が心配になる。
アメリカとヨーロッパの有名大学のブランドに整形手術で一見ハーフと見間違えかねない容貌、そこにそれなりの物腰の演技で多くの視聴者を魅了してきたショーンKさん。Webで今回の騒ぎに関する記事や意見を見るとショーンKさんが詐欺師で、テレビ局も視聴者も詐欺にひっかかった被害者とした論調(?)が多い。学歴詐称をすっぱ抜いた週刊誌に対する賞賛?のような声すら聞かれる。
あれこれの論調の視点に本質的な欠陥があるように思えてならない。ショーンKさんが今回してくれたのは、図らずも、日本人の多くが舶来品のブランドに盲目的な憧れのような心情にとらわれたままでいることを証明したことだろう。
どこかのだれかの評価は気にはなる。でも参考にするまでで、自分の目でみて話を聞いて、真価を評価するのは自分だという本質的なことに気がつかない日本人の精神的、知的貧困が露見した。東大出だから、ハーバードだから、大臣が言っているから、先生が言っているから、。。。もういい加減にしなければ、ただの物づくりの日本で終わる。
聞き得たことが事実なのか確認する、聞き得たことの周辺の状況を調べて、聞き得たこととの整合性をチェックするという報道機関として必須のことすらしてこなかったとしか思えない日本マスコミ。(舶来)ブランドに対する不治の病に近い日本人の盲目的な追従。それをショーンKさんが身をもって示してくれた。
ショーンKさんもさることながら、反省しなければならないのは、マスコミも含めた視聴者全員じゃないのか?それに気が付かない巷(表)の論調が日本の知的レベルの貧困を現しているように思えてならない。
もっとも時の首相が似たような学歴詐称というから、日本は美しい国というより詐称天国とでも言い直したらどうだろう。
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion6016:160407〕
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