IPPNWドイツ支部議長 アレックス・ローゼン(Alex Rosen)小児科医による論評: フクシマ大惨事の発生から7年 ー 福島における甲状腺がん
- 2018年 3月 26日
- 時代をみる
- グローガー理恵
原文ヘのリンク:Schilddrüsenkrebs in Fukushima 7 Jahre nach Beginn der Katastrophe
2017年3月7日
著者:アレックス・ローゼン医学博士/ドイツIPPNW(核戦争防止国際医師会議)議長
〈和訳:グローガー理恵〉
2017年12月27日、福島県立医科大学は、現在も進行中である甲状腺検査の最新データを公表した。これには2017年9月末までに収集されたデータが含まれている。2011年以来、フクシマ・メルトダウンが発生した当時18歳以下だった福島県の住民を対象にした甲状腺検査が2年毎に実施されている。最初は、住民の原子力災害による健康被害への心配を払いのけるために、と始まった甲状腺検査だったのだが、そのうちに、懸念を呼び起こすような検査結果が明るみに出されるようになったのである。
1巡目検査 ( 先行検査 )は2011年から2014年までの期間に実施され、2巡目検査 ( 本格検査 )は2014年から2016年までの期間に行われ、3巡目検査 ( 本格検査2回目 )は2016年から2018年までの期間に実施された。1巡目検査のデータ・プロセッシングはすでに完了したが、2巡目検査及び3巡目検査のデータは、これまでのところ、まだ、まとまっていない。しかし、これまでに提出された甲状腺検査の結果から、すでに、最初の結論を出すことはできる。
これまで159件の甲状腺がん症例が確定、手術を待つ35人の子どもたち
日本の全国がん登録データベースによると、フクシマ原子力災害以前における年間の小児甲状腺がん発生率はおよそ【100,000人当たり0.35件】であった。このデータに従えば、福島県のおよそ360,000人から成る小児/青少年集団における甲状腺がんの発生率は、年間で大体【100,000人当たり1件】になるであろうということが予測された。 しかし現実は異なっていた:トリプルメルトダウンを伴った福島第一原発事故が発生してからこれまでに、穿刺吸引細胞診により194人の子どもたちに がん細胞が検出された。そして、そのうちの159人に急速な腫瘍の増大や明らかな転移が見つかったことや、生命維持に関わる重要器官が危険に晒されていたケースがあったため、手術が遂行されなければならなかった。そして、組織診で158人の子どもたちに ”甲状腺がん” の診断確定がなされ、1人だけは良性腫瘍であることがわかった。あとの35人の子どもたちは、まだ手術を待っている状態である。
2巡目検査 (本格検査)からのデータ
とりわけ懸念すべきことは、先行検査では、まだ何の異常も見られなかった子どもたちに見つかった甲状腺の異常の数である。約380,000人の小児/青少年から成る検診対象集団のうち、全部でおよそ270,000人が超音波検査を2回受けた (約70.9%)。この約270,000人の受診者集団の中で、計161,805人(59.8%)に嚢胞および結節が見つかった。ここで憂慮すべき事実は、先行検査ではまだ何も検出されなかった42,433人 (15.6%) の子どもたちに、2巡目スクリーニングにおいては、嚢胞および結節が見つかったことである。そして、そのうちの393人に見つかった結節のサイズが5mm以上、もしくは嚢胞のサイズが20mm以上あったため、さらなる検査が必要となった。さらに、最初のスクリーニング ( 先行検査)で小さな嚢胞や結節が見つかった940人の子どもたちに、2巡目スクリーニング( 本格検査)では、嚢胞/結節の著しい増大が見られたため、さらなる診断検査が遂行されなければならなかった。
異常が検出された患者の計205人に穿刺吸引細胞診が実施され、組織学的検査により71人に ’がんの疑いあり’との結果が出た。これまで、そのうちの50人が手術を受け、残りの21人は手術を待っている状態である。手術を受けた50人全員に甲状腺がんの診断が確認された。2年前の検査 ( 1巡目検査 – 先行検査)においては、まだ、これら50人の子どもたち全員の甲状腺には、がんの疑いのある組織は見つかっていなかった。2年間の間に発生した甲状腺がん症例数が50件であるという事は、一年間の甲状腺がん発生率が25件であるということに相当する。
これまで、2014年4月から2016年3月までの期間に実施された2巡目スクリーニングで検査を受けたの受診者の数は270,515人であるので、この数値を基にすれば、年間の小児甲状腺がんの発生率が、およそ【100,000人当たり9.2件】ということになる。2巡目スクリーニングにおける全ての検診結果のうち、その約30%のデータが、まだ出されていない。ー すなわち、2巡目スクリーニング受診者のうち100,000人以上の受診者のデータがまだ提出されていないということである。しかしながら、もしこのような傾向が続くのだとすれば 、これは甲状腺がん新規症例の増加率がおよそ26倍になるということを意味している。この結果は極めて重大な意味を持っており、先行検査 (1巡目スクリーニング)の患者全員の明白な検査結果に基づいても、甲状腺がん症例の増加を ”スクリーニング効果” で解明したり、ただ単に ”スクリーニング効果”に関連づけて済ますようなことはできない。
このような警戒すべき状況の発生に鑑みて留意しなければならないことは、甲状腺がんは、比較的良い治療法の選択があるにもかかわらず軽い病気ではなく、生活の質および健康に深刻な制約をもたらす重大な病気であるということである。
「3.11甲状腺がん子ども基金」が行った調査によると、甲状腺手術を受けた患者のうち、その10%近くが、がんの再発または転移があったために再び摘出手術を受けなければならなかった、という:3.11甲状腺がん基金が財政援助している福島県からの子どもたち84人のうち8人が再手術を受けた。この8人が最初の手術を受けてから、がんが再発するまでの期間は数年間以内であった。
3巡目検査からのデータ
.2巡目スクリーニングが、まだ進行中であった2016年5月、すでに3巡目スクリーニングが始まった(2018年3月に終了する予定)。3巡目スクリーニングでこれまで161,881人が検診を受け (計画された検診対象者数の48.1% )、そのうちの95,620人 (59% )の甲状腺に結節または嚢胞が検出された。3巡目スクリーニングで結節や嚢胞が検出された16,228人の甲状腺には、2巡目スクリーニングにおいては、まだ結節も嚢胞も見られなかった。そのうちの84人においては、結節の大きさが5mm以上、もしくは嚢胞の大きさが20mm以上であったため、さらなる検査が必要となった。さらに、2巡目スクリーニングで見つかった結節や嚢胞がまだ小さかった336人の子どもたちに、3巡目スクリーニングでは結節/嚢胞の著しい増大が見られたため、さらなる診断検査が遂行されなければならなかった。
異常が検出された計22人の患者に穿刺吸引細胞診が実施され、組織学的検査により7人に ’ がんの疑いあり ‘との結果が出された。これまで、これら7人の子どもたち全員が手術を受け、全員に甲状腺がんの診断確定がなされた。3巡目スクリーニングのデータの大部分がまだ出されていないので最終的評価をすることはできないが、2巡目スクリーニングの傾向が3巡目スクリーニングにおいても引き続いているようである。
甲状腺がん症例の地理的分布
福島医科大が常に、2011年のメルトダウンと福島県の甲状腺がん症例数の増加率との関連性を否定してきた主な論拠は、甲状腺がん症例の地理的分布と放射性アイソトープの地理的分布が一致することはないだろう、というものであった。しかし、2017年12月末、(福島医大の)科学者たちが公表した新しいデータは、この甲状腺がん症例と放射性アイソトープの地理的分布の一致を裏付けているように見える。
解り易く説明すると: 福島県は3地方から成り立っている:西部の会津、中央の中通り、そして東部の浜通りである。浜通り地方には原発事故で破損された福島第一原発がある。これらの3地方は福島医大の科学者たちによって、超音波検査実施のために4つの地域に区分された:浜通り地方にある福島第一原発周辺の放射能汚染度がもっとも高い13の市町村を、ひとつの検査地域とした。さらに、福島医大は、(やはり浜通り地方にある)北部の相馬市の周辺地域と南部のいわき市を(残りの)浜通りとした。ここの放射能汚染度は、中央に位置する中通り地方の一部と比べて比較的低い。それぞれの地域を放射能汚染度の高い地域から低い地域への順でランキングさせることができる:①福島第一原発周辺の13市町村、②中通り、③(残りの)浜通り-北部の相馬市周辺/いわき市、④会津 [ 参照: 〈PDF〉図1- 福島県の4つに区分された甲状腺検査地域 ]
概括的に言えば、甲状腺検査も、もっとも放射能汚染度の高い地域である13市町村から始まり (2011年4月~2012年3月)、その後に中通り地方の一部で実施され ( 2012年~2013年3月)、最後に浜通り地方の北部、中通り地方の一部、会津地方で実施された (2013年4月~2014年3月 ) 。[ 参照:〈PDF〉図 2 – 実施対象年度別市町村]
このように、地域によって検査の実施時期が異なっていることが、これまで、データの解釈を複雑化させ困難にしてきた。なぜなら、汚染度の高い地域の検査実施時期と相馬・いわき・会津のような汚染度の低い地域の検査実施時期との間に、部分的に、2年以上の検査実施期間間隔があるからである。そこで福島医科大は、2017年11月、検査間隔による発見率の調整例と題した表を公表した。[参照:https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/244313.pdf 〕
興味深いことは、この一覧表に、はじめて、甲状腺がん発生率の公式データが含まれていることである。すなわち、表には年間における100,000人あたりの発生率が表示されている。表の一番下の欄をみると、甲状腺がん発生率が地域によって明らかに異なっていることがはっきりとわかる:放射能汚染度がもっとも低い会津地域における甲状腺がん発生率がもっとも低く、発生率はは年間で【100,000人あたり7.7件】となっている。その次に甲状腺がん発生率が低いのは、同様に放射能汚染度が低い浜通りの北部と南部にある相馬・いわき地域で、年間の発生率が【100,000あたり9.9件】である。放射能汚染度が高い中通り地域における甲状腺がん発生率は高く、年間の発生率が【100,000人あたり13.4件】であり、もっとも汚染度が高い福島第一原発周辺の13市町村における甲状腺がん発生率は年間で【100,000人あたり21.4件】と、もっとも高い数値を示している。〔参照:〈PDF〉図 3. 地域別にみた年間の甲状腺がん発生率 ]
ここで(表「検査間隔による発見率の調整例」の一番下の欄で)福島医科大が出している数値は、我々が出しているデータのような最終的に診断確定された甲状腺がん症例だけでなく、悪性疑いが見つかったケースも含んでおり、福島全域の「悪性ないし悪性疑い発見率」平均値は年間で【100,000人あたり13.4件】となっている。これは、我々が出した数値 【9.2件/100,000人/年】よりも明らかに高い値である。ここで注意してほしいのは:福島原発事故以前の日本における通常の小児甲状腺がん発生率は年間で【100,000人あたり0.35件】だったということである。
甲状腺調査を無価値にしようとする試み
これらのデータは福島医大の責任者たちを困惑させているようである。なぜなら、これらのデータは、フクシマ原子力大災害の発生以来、広く伝えられてきた「トリプルメルトダウンを伴ったフクシマ超大規模原子力事故が、がん疾病の過剰発生をもたらすようなことはないであろう」という主張に反しているからだ。
原子力大災害発生以来、福島医大には、原子力支持派である日本政府と国内で甚大な影響力を持つ原子力産業からの政治的圧力が強くかかっている。また、福島医大は、甲状腺検査の計画/実施に関与している国際原子力ロビー/国際原子力機関 ( IAEA )から財政的援助およびロジスティクス支援を受けている。これらすべてが、福島医大の科学的独立性を疑わしいものにしている。現在、日本では、多数のオブザーバーやジャーナリストが、甲状腺検査の規模を縮小し、場合によっては検査を停止させようとしている福島医大の企てを批判している。
最初に発表された計画や予告とは異なって、甲状腺検査の間隔は、検診対象者が25歳に達すると、それ以後は2年毎ではなく5年ことになるという。さらに、福島医大の代表者が学校の出前授業で、”検査を受けなくてもよい権利”や”知らなくてもよい権利”を提唱していることは、すでに周知の事実である。最近は、このことを反映するように、甲状腺スクリーニングに参加しなくてもよいという選択肢 ”オプトアウト”も書式用紙に掲載されるようになった。これは不思議なことである。なぜなら、いずれにしても甲状腺検査の参加/不参加は自らが自主的に決めることになっているし、現在すでに、検診対象者集団の20%~30%が甲状腺検査に参加していないからである。
懸念すべきことは、検診者が18歳になると検診費用の全額を返済してもらえなくなり、検診者の家族か本人が検診代を払わなければならないことである。福島医大が努力し目指しているのは、甲状腺検査の検診率をさらに下げ、検査結果データを計画的 /意図的に歪めることによって、全ての甲状腺検査を無価値にすることである、と推察できる。ー このような結末ーすなわち甲状腺検査の価値が失われてしまうような結末は、日本の原子力産業にとって必ずしも好ましくない事ではないだろう。
黙殺された甲状腺がん症例
二つの明らかなデータ操作のケースにもとづくと、公式データを信用することが、いかにむずかしいことであるかが分かる:
2017年のはじめ、甲状腺がんに疾患していた男児の家族が、その子のがん症例が福島医大の公式データに出ていないことを公表したのである。福島県立医大は、「そのような事態が起こったのは、その男児が経過観察のために一般の保険診療に移行され、その子ががんと診断されたのは福島県立医大ではなくほかの医療機関であったためで、保険診療。へ移行後に見つかった甲状腺がん患者は、一般の保険診療なので把握していない」と主張した。
フクシマ・メルトダウンが起こった当時福島に住んでいた男児が、福島県立医大の集団甲状腺検査を受診し、経過観察を経て、甲状腺がんと診断され、そのために手術を受けなければならなかったことが、明らかにデータとは関連性のない事柄であるとみなされているのである
さらに、2017年の12月末に、福島県立医大の公式データに含まれていない、もう一件の甲状腺がん症例があったことが明らかになった。フクシマメルトダウンが発生した当時、その患者は福島県に住んでいて福島医大の先行検査を受けたが、その後、故郷である郡山を離れ、福島県外で甲状腺がんの診断と手術を受けたため、彼のがん疾患が福島医大の公式データに含まれることはなかった。
これと同様に、― ①そのほかに一体何件の小児甲状腺がん症例が報告されていないのか、② 福島県外においては何件のがん症例が発生しているのか、③または、福島原発事故当時、すでに年齢が18歳を超えていた何人の人たちに、がんが発生しているのか ― これら全ての事項についての科学的調査が実施されていない。従って、おそらく、このような事実を把握したデータが公表されることはあり得ないのだろう。
健康への権利
認識しなければならないことは、我々が福島において小児甲状腺がん発生率の著しい増加を見ているということであり、同時に、福島健康管理調査委員会は原子力ロビーに依存従属する関係にあり、調査を解釈する上で制限を受けるため、おそらく、これらのデータは意図的に過小評価された数値を示しているのであろうということである。
さらに、電離放射線により誘発された、もしくは悪影響を受けた、その他のがん疾病や非がん疾病の発生が増加することが予測される。福島県立医大が実施する甲状腺検査は、フクシマ原子力災害による健康影響を解明する情報を提供できる、少なくとも唯一の科学的で確実な研究調査である。しかし現在、甲状腺検査は原子力支持者によって徐々に弱体化されていく危地に陥っている。
他の全ての人間と同様に、日本市民には ” 健康への権利 ” および ” 情報へのアクセス権利 ”がある。子どもの甲状腺検診は、がん疾患が早期発見され早期治療することができる患者自身にとってだけではなく、放出された放射能によって影響を受けた全ての住民にとっても助けとなる有益な調査である。したがって甲状腺検診の適切な続行と科学的モニタリングは公共の利益となり、この調査が政治的または経済的動機によって阻止されるようなことがあってはならない。
以上
ソース:
http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/219703.pdf
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/167944.pdf
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/news/20180301_24/
* 訳注:下のPDFーPage2にアレックス・ローゼン医師作成の「甲状腺検査結果データの概要」 あり
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4316:180326〕
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