自然災害と戦争の相違
- 2011年 4月 8日
- 評論・紹介・意見
- 人道支援と国際関係岩田昌征
私は、1991年から2001年に至る旧ユーゴスラヴィア多民族諸戦争と現地で、つまり直接的戦場すれすれの所でほぼ毎年付き合って来た。そこで、阪神大地震が起きると、戦争による破壊と地震による破壊との相違を知りたくて、数週間後に大震災の現場を見て回った。勿論、人道援助のために来たのではないことに気がとがめたのは事実だ。
戦争の破壊は、破壊する者も破壊される者も人間集団である。時と所で攻守反転するとは言え、共通するのは、両者の間に人間的憎悪が増幅することである。国際的人道支援でさえ宗教、価値観、歴史を共有するか否かで一方的になる。人道支援が自発的で市民的になればなるほど、国際官僚制から遠ければ遠いほど一方的になる。日本の仏教系の人道援助は、現地の宗教的・文明的対立と歴史的に無縁であったが故に、夫々の戦争被害者に平等に接していたと言う印象を強く受けた。しかしながら、スリランカの内戦のように一方が仏教寺院を破壊する集団であった場合、旧ユーゴスラヴィアにおけるように平等性を貫き得たか否か、疑問である。外国に滞在するある戦争当事集団の一市民は、その外国が戦争相手側と同じような宗教、価値、文明を有する場合、白い眼で見られる。1992年のことだった。クロアチア共和国のクライナ地方(セルビア人多数派地域、クライナ・セルビア人共和国を樹立したが、1995年8月にクロアチア共和国軍によって制圧され、消滅)出身のセルビア人女学生(ザグレブ大学法学部)が日本にいる姉夫婦を頼って日本へ逃げて来た。彼女と銀座の印度レストランに招待会食して、研究者として現地状況を色々質問していた時、「セルビア人、セルビア人と大きな声で言わないで。みんなが聞いている。こわい」とこわばった顔付きで泣き声で頼まれた。「ここは日本ですよ。心配しないで」と私。それは、彼女が西ヨーロッパを経て日本へやって来たからだ。もしも、ロシアを経てやって来たのであれば、西欧派ロシア知識人ではないロシア人庶民の多くに同情されつつ旅が出来たはずであるから、銀座であんな神経症を見せなかったであろう。
今回の超大震災、それに伴なう原発人災の場合、当然のように日本人は団結する。被災者の不運を自分のそれのように感じる。憎悪の気持ちがわくとすれば、東電幹部に対してのみであろう。世界各国に滞在している日本人は、ニューヨーク、上海、パリ、北京、ソウル、モスクワ、台北・・・・・のどこにいようと、あたたかく声をかけられ、はげまされ、援助を申し出られ、「こんなに優しい人々だったのか」と滞在地の人々の気遣いに感動している。また、日本国内における最強の外国人、すなわち在日米軍の「ともだち作戦」の人道的救援活動は、極めて有益・有効で、自衛隊に限らず各界の多くの日本人に感銘を与えている。そして、日米同盟の重要性と実効性が日本社会に再認識されつつある。もっともアメリカは、「このような大悲劇に直撃された日本から『思いやり予算』をアメリカの名誉にかけて受け取れない。復興のために使ってくれ」と直ちに通告できたはずなのだが。
私、岩田はこのようなアメリカ軍の大規模な支援に感謝するし、水を差すつもりは全くないが、この作戦は、あくまで自然が引き起こした破壊・原発事故に関して実行されている事に注意を向けたい。と言う事は、戦争、ましてや核戦争となれば、事情が異なるであろう。仮に、自然が国家であれ、政党であれ、テロリスト集団のように戦略的駆け引きをするとして、「日本近海で意図的に大地震を起し、日本を攻撃した。日本の同盟国であるアメリカが日本の側に立って行動するのであれば、我国=自然国は、ただちにニューヨークの沖合でM.9の大地震を引き起し、ニューヨーク市から50kmしかはなれていない原子力発電所をも破壊するであろう」と脅迫したならば、どうであろうか。米軍は、ニューヨークを犠牲にして、日本を救援するであろうか。私達日本人は、米軍の「ともだち作戦」をニューヨーク市民、上海市民、ソウル市民が日本人に対して示してくれたおもいやり、同情、気遣いと質的に同じレベルで心から感謝しつつ受け止めるべきであろう。自然災害とは性質を異にする戦争問題にかかわる日米同盟の評価は、「ともだち作戦」とは独立に行われるべきであろう。超震災の影にかくれてしまったが、アメリカの対日関係の直接責任者がアメリカ人学生に正直に語った言葉の方が同盟関係の本質を考える上でより重要であろう。2010年12月3日、アメリカ国務省ケビン・メア日本部長の発言(共同)。
――私は日本国憲法9条を変える必要はないと思っている。憲法9条が変わるとは思えない。日本の憲法が変わると、日本は米軍を必要としなくなってしまうので、米国にとっては良くない。もし日本の憲法が変わると、米国は国益を増進するために日本の土地を使うことができなくなってしまう。日本政府が現在払っている高額の米軍駐留経費負担(おもいやり予算)は米国に利益をもたらしている。米軍は日本で非常に得な取引きをしている。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0409:110408〕
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