近況報告&ご相談:オリンピック間近の総仕上げとして、被ばくによる健康被害は「なかったことにする」福島県の統計不正疑惑の報告書、これに代わるシンプルな解決策の提案(柳原)
- 2019年 7月 24日
- 評論・紹介・意見
- 柳原敏夫
*都合により掲載が大幅に遅れてしまいましたことを心よりお詫びいたします(編集部)
今週、私どもの裁判で山下俊一と鈴木眞一の証人喚問が内定するなど、福島の水面下で地殻変動の兆しが起きていることの報告とご相談です。
長ったらしい表題のメールで申し訳ありません。
まず、今週の事件の報告です。
「原発事故は二度発生する」その2度目の原発事故(「人間と人間の関係」で発生する)の山が動く地殻変動がありました。
それが、8日(月)、福島市で「県民健康調査」検討委員会が開かれ、先月3日に、検討委員会の下に設けられた甲状腺がんの評価部会で公表された「被ばくと小児甲状腺は関連性なし」という報告書が提出され、了承するかどうかが議論されました。
福島県の委員の中から、「納得できない」「おかしい」という異論が出されたのに対し、福島県外の専門家は報告書を絶賛するという構図となり、星座長の「私の任期中にまとめたいので、報告書の修正を座長一任で」という要望もまとまらず、結局、7月末までに、委員が意見を出し、集約することに決まりました。
甲状腺がん報告書を一部修正へ〜 「被曝と関係認められない」見直し
http://www.ourplanet-tv.org/
しかし、その夜のNHKニュースは
「福島 子どもの甲状腺がん「被ばくと関連なし」検討委が了承」 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190708/k10011986821000.html
と「健康被害はなかった」とめでたく一件落着したかのようなニュースが流されました。
来年に迫った東京オリンピックを前に、原発事故は終わったことにするためには、スケジュール的に、ここで福島で多発する小児甲状腺がんと原発事故は「関連がない」と、「健康被害はなかったことにする」必要があり、そのシナリオに沿って、検討委員会もマスコミも事実を捻じ曲げてまでも連携行動を取りました。
私が、福島県が「健康被害はなかったことにする」と判断したのは、「被ばくと小児甲状腺は関連性なし」という評価部会の報告書がどれくらい科学的根拠に基づいているのか、自ら検証した結果によるものです。
検証した結論は一言で、「被ばくと小児甲状腺は関連性」について、黒(あり)の可能性が高い灰色の状態なのに、これを白(なし)とすり換える統計不正の報告書だというものです(以下、その全文です)。
【第2話】「福島の小児甲状腺がんと被ばくの関連は認められない」とする福島県の報告書の作成者と承認した人たちが座る場所はそこじゃない?!
https://seoul-tokyoolympic.blogspot.com/2019/07/blog-post.html
しかし、それ以上に問題なのは、もっとずっと簡単に、「被ばくと小児甲状腺は関連性」の有無を証明できるのに、その方法を(私からみると、敢えて)採用せず、わざわざ検出困難な方法を採用していることです。
それは誰もが思いつく、至ってシンプルな方法でして、汚染地と非汚染地のグループで甲状腺検査の結果を比較するというアイデアです。これに対し、今回の報告書が採用した方法は、汚染地の中で、線量がより高い地域とより低い地域同士を比較しているのです。
そもそも2011年に県民健康調査を立ち上げる時、その制度設計を検討する中で、なぜ、こんな単純明快なアイデアを検討しなかったのか、それとも、したけれど採用しなかったのか(もしそうなら、なぜなのか?)不思議、不可解と言うほかありません。
たとえこの点は譲っても、今からでも遅くありません。このアイデアを実行すればよいのです。 そしたら、これまで「放射線の影響とは考えにくい」とする根拠の1つにされてきた、「検査(スクリーニング)をすれば福島県のように手術が必要な多数の小児甲状腺がんが見つかる」かどうかも分かります。
とはいえ、国が自ら進んでこのアイデアを実行することは100%期待できません。自ら墓穴を掘るような真似は決してしないからです。
かといって、このまま手をこまねいて「健康被害はなかったことにする」ことを認めるわけにはいきません。
そこで、思案の末、次のアイデアに至り、これを提案したいと思いました。
それは、私たちの住むまち(市町村)で、私たち住民・市民の手で、自治体レベルの小児甲状腺検査を実施することです。
なぜなら、私たちの住むまちが福島原発事故による被ばくの影響を殆ど受けなかった非汚染地の場合、その非汚染地の自治体レベルで実施した検査結果を基準(疫学の言葉では「対照群」)にして、福島の検査結果と対比すれば、福島県の「被ばくと甲状腺がんの関連」がずっと容易に証明できるからです。
のみならず、この甲状腺検査は、今後起こり得る、未来の原発事故から子どもたちの健康を守る最低限のセイフティネットになります(これは、私たちの住むまちが福島原発事故による被ばくの影響を受けた汚染地の場合でも妥当します)。
なぜなら、今週8日の福島県の「県民健康調査」検討委員会がやったことを見れば明白ですが、 通常、百万人に数名の小児甲状腺がんが原発事故後に、福島県に異常に多発しても、それは検査(スクリーニング)したからで、被ばくが原因ではないと、「健康被害はなかったこと」にさせられ、苦しみの中にいる人々は救済されないという政策・政治が取られるという残忍酷薄の現実です。
この残忍酷薄の現実が存在するからこそ、将来の原発事故に備えて、今、日本各地の自治体レベルで、子どもたちの甲状腺検査を実施することが意味を持ち、不可欠となります。 その理由は、もしこれを実施すれば、検査(スクリーニング)したからといって、小児甲状腺がんの手術が必要な子どもたちが多くいないことがきっと証明されるでしょう。
このような証拠を握っていれば、将来、たとえ原発事故が発生して、福島県の「県民健康調査」のように、子どもたちの甲状腺検査を実施することになったとしても、今週8日の福島県のように「多発する小児甲状腺がんの原因は検査(スクリーニング)したからだ」という茶番を言わせないこと、スクリーニングを理由にした残忍酷薄な政策・政治を取らせないことができるからです。
以上のプロジェクトは、311までなら、それは唐人の寝言と片付けられたのですが、311以後、私達は生き延びるために生き方を変える必要があり、その1つとして、これがとても大切なものになりました。
以下は、このプロジェクトへの呼びかけです。もしこれに賛同いただけるようでしたら、賛同者としてブログに名を連ねていただけたら幸いです。また、一言、賛同のメッセージを寄せていただけたらなお嬉しいです。
【第4話】 【NOでは足りない、つつましいYESの提案】みんなで作る「日本各地の自治体レベルで、子どもたちの甲状腺検査」プロジェクトに参加しませんか(2019.7.12)
https://seoul-tokyoolympic.blogspot.com/2019/07/noyes.html
ご面倒をおかけしますが、ご検討、どうぞよろしくお願いいたします。
追伸
今週のもう1つのニュース。
紛糾した「県民健康調査」検討委員会の翌日の9日(火)、福島地裁で、子ども脱被ばく裁判の20回目の弁論が開かれ、次回からスタートする証人尋問を前に、証人採用の大詰めの作業をやり、裁判所は、私たちが当初から要求してきた山下俊一氏、そして福島県立医大の甲状腺部門のリーダー、「県民健康調査」の甲状腺検査の責任者だった鈴木眞一氏の証人採用が内定しました。
鈴木眞一氏の採用は被告国と福島県にとって寝耳に水で、「鈴木眞一の尋問は書面で足りる、必要ない」と猛反発。しかし、裁判所は聞く耳を持たず、「健康被害はなかったのかどうか、俺たちは聞きたいんだ!」と真相解明に積極的に取り組む姿勢を鮮明にしました。
これは私たち原告にとっても想定外の展開でして、理不尽の連鎖、不正義の連鎖の中から、・理不尽・不正義への反動のリアクションの芽が育っているのではないかと感じさせる瞬間でした。
ずっと真実を隠されてきた、長い、暗い8年間の時間の流れの中から、その壁を突き破り、真相解明に突き進もうとする人たちの声、行動があちこちから伝わってくるのを感じる今週の福島でした。
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もうひとつの復興は可能だ 福島原発事故とモンドラゴンの挑戦 http://anotherreconstruction.blogspot.jp/
もうひとりの日本人は可能だ
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