IPPNWドイツ支部議長・アレックス・ローゼン医学博士の論評: 自然の暴威がフクシマの放射能を拡散
- 2019年 11月 30日
- 時代をみる
- グローガー理恵
はじめに
「 広範囲に除染作業が行われた場所であっても、山や森が常に放射性粒子の貯蔵庫となっていますので、天候条件が悪くなれば、除染された場所が再び汚染されてしまうという可能性が、いつでもあります。(Even places that have undergone extensive decontamination efforts could be recontaminated at any time by unfavourable weather conditions, as mountains and forests serve as a continuous depot for radioactive particles.)」との懸念を、IPPNWドイツ支部は、去年の7月に打ち出した「国際キャンペーン”東京2020-放射能オリンピック」宣言の中で表明している。
アレックス・ローゼン医師著の論評「自然の暴威がフクシマの放射能を拡散 (Naturgewalten verbreiten Radioaktivität in Fukushima)」は、「最近、日本で暴威をふるった台風19号が、まさに、この懸念を現実のものにしてしまったこと」に言及している。さらに、論評は、「ドイツのオリンピック連盟(DOSB)の会長が、IPPNWドイツ支部にあてた書簡の中で、『DOSBは、オリンピック競技が催される会場の周辺地域は環境災害に対して安全であると推測する』と、述べた」という驚くべき事実を明らかにしている。
なお、この論評を翻訳するについては著者のアレックス・ローゼン医師が快諾してくださったことをお伝えさせていただく。
原文 (独文)へのリンク:https://www.ippnw.de/atomenergie/artikel/de/naturgewalten-verbreiten-radioaktivi.html
著者:アレックス・ローゼン(Alex Rosen) 医学博士/IPPNWドイツ支部議長/小児科医
〈和訳: グローガー理恵〉
2019年11月7日
10月中旬、台風ハギビス(第19号)が日本を襲った。台風は数十人の人々の命を奪い、数百人の負傷者を出した。[*訳注1] しかし、台風ハビギスによってもたらされた長期的な被害は、これまでに推定された被害よりも、もっと深刻になる可能性がある。なぜなら、この台風によって、とりわけ甚大な被害を受けたのが、2011年に発生したフクシマ原子力災害のために放射能汚染された日本の東岸地域であるからだ。
台風ハビギス(第19号)によって氾濫した郡山市を流れる阿武隈川。右岸の地域が泥水に浸かっている。画像下部を左右に通る高架は東北新幹線で、画像中央の橋梁は国道49号が通る金山橋。
ソース: 国土地理院 (GSI) CC 表示 4.0
台風ハビギスは、激しい風津波や高波を引き起こした。 風津波や高波で海岸線沿いの海面がさらに1メートル以上も高まったため、洪水に襲われた地帯もあった。このような台風においては、海底から堆積物が巻き上げられ、陸地に洗い流される。
日本の災害防止当局や東電運営者による努力にもかかわらず、福島第一原発の原子炉(複数)からは、今も、毎日、放射能汚染された水が海洋へと流出していっている。放射性粒子の大部分は- とりわけ放射性ストロンチウム – セシウム同位体 – は、 福島の沖合いの海底に蓄積する。
その上、陸地には、放射能汚染された土嚢の入った無数のフレコンバッグが、荒天やその他の自然の暴威に対して何の防護もされないまま、保管されているのである。[*訳注2] 日本の新聞の報道によると、「これらの放射性廃棄物が入ったフレコンバッグが、何袋かはっきりしないが、福島県田村市で仮置場から古道川(ふるみちがわ)に流出された」という。[*訳注3] ここで危惧されるのは、この台風の影響によって、日本の東岸沿いの住民が受ける放射線被ばく線量が新たに上昇する可能性があり、再び、多くの場所で除染を行わなければならないということだ。
来年、日本で開催される東京オリンピックを考えると、すでに除染された区域が再び放射能汚染されるというリスクには重大な問題が伴う。ドイツオリンピック連盟 (DOSB)のアルフォンス・ホェルマン会長 がIPPNWドイツ支部にあてた書簡には、「ドイツオリンピック連盟 (DOSB)は、オリンピック競技が催される会場の周辺地域は環境災害に対して安全であると推測する」との見解が述べられてある。しかしながら、「最近、来襲した台風や地震・洪水・津波のような自然災害が、あらたにフクシマの放射能を拡散すること」や「福島県の立ち入り困難な山・森林地帯から放射能が放散されること」への警報を、これからも、鳴らし続けていくことが必要なのである。
以上
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[*訳注1] 台風ハギビスがもたらした人的被害:2019年11月21日7時00分現在で、死者99人、行方不明者3人、負傷者 - 重傷者40人、軽傷者441人となっている(ソース:Wikipedia)
[*訳注2] 放射能汚染廃棄物が入ったフレコンバッグが、野ざらし状態で保管されている状況を示す、毎日新聞提供のYoutube クリップ (空撮された2016年2月の時点では、福島県内の11万カ所以上に900万袋超のフレコンバッグが保管されていた): https://www.youtube.com/watch?v=3P7BWzmd4VA
[*訳注3] 河北新報の報道(2019年11月2日付)によると:「台風の影響で、福島県内で流出した放射性廃棄物の入ったフレコンバッグの数は90袋以上に上る」という。https://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201911/20191102_63034.html
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参考情報
NHK World Japan. “Decontamination waste bags swept into river.” 13. Oktober 2019.
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔eye4669:191130〕
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