兵庫県の斎藤元彦知事は12月19日、2期目就任から1カ月を迎えた。全国紙の見出しを並べてみると、毎日新聞は「兵庫知事2期目 就任1カ月、斎藤県政 混迷なお」「公選法違反疑惑、議会・職員と修復模索」、朝日新聞は「2期目始動1カ月、兵庫県職員 きしみ今も」「斎藤知事『感謝』 関係改善を模索」「鳴りやまぬ電話 『泥舟』転職者も」、日経新聞(関西版)は「斎藤兵庫知事2期目1カ月、『丁寧な対話』議会は注視」「調整役不足、2月議会が正念場」というもの。いずれも先行きは不明、情勢は混沌としているというのが共通した見方だ。
毎日新聞は、ノンフィクションライター・松本創氏の言葉を引用して長文の記事をこう締めくくった。
――「既得権への不信を背景に、知事の座から一敗地にまみれた男が立ち上がるストーリーが共感を得て、(NHK党の)立花氏のネット動画やSNSで増幅された」と分析。斎藤氏を「アジテーション(扇動)するわけでも強い発信力があるわけでもなく、新しい、薄いポピュリズムの政治家だ」と見る。県政正常化の見通しについては、こう語った。「斎藤氏のコミュニケーション能力が本質的に改善されるか否かにかかっている」。
朝日新聞は、県庁への苦情電話と職員の疲弊について詳報している。
――県庁には、告発者の元西播磨県民局長が亡くなった7月以降、苦情の電話が殺到した。県によると、斎藤氏が失職した9月末までに約6400件の電話があった。知事選後も電話は鳴り続け、11月18日~12月16日で1200件余り。斎藤氏を応援する意見、批判する意見、それぞれあるという。ある中堅職員は「毎日電話を受けている」とこぼす。10年以上働いてきた県庁を辞め、別の自治体へ転じた職員もいた。別の職員は「いつまで混乱が続くのか。職員は疲弊している」と県庁の現状に懸念を示した。
日経新聞は、議会との関係や執行部体制についての懸念材料を列挙した。
――議会との関係では、就任直後に斎藤氏が各会派に挨拶回りし、3日には各会派の方から25年度当初予算編成に向けた申し入れをした。議会が全会一致で不信任を決議したころに比べれば、対話ができる環境にある。ただ、看板政策を進めるにあたり「民意を盾に、意見を十分に聞かず押し切ろうとするのではないか」との疑念を持つ県議は少なくない。
――議会調整の要となる副知事の人事提案は見送られた。ある県議は「斎藤氏は自分で議会と交渉しようとしない。周りの職員がカバーするには限界がある」と懸念を示す。別の県幹部は「火中の栗を拾って引き受けようという人がいないのが実情だ」とみる。
このことと関連して先日、先輩研究者たちが続けてきた京阪神自治体の幹部が集まる研究会が大阪で開かれた。長い歴史のある研究会なので、当時は現役バリバリの幹部たちもいまでは退職後の静かな生活を送っている。それでも元の職場の情報には詳しく、研究会は貴重な情報交換や意見交流の場になって参考になることが多い。今回はもちろん、兵庫県知事選とその後の政治状況が話題の中心になった。レジュメを用意してきた県元幹部は、「混迷の歴史(兵庫県知事選挙)」とのテーマで、戦後代々の県知事選の流れとその特徴を解説してくれた。それによると、これまでの知事選も決して平穏なものではなく、後継者と目された副知事に対しては庁内あるいは在野から数多くの対立候補が立ち、激しい選挙戦が展開されてきたという。以下は、その要旨である。
長年、副知事が後継者として前任者の政策を受け継ぐという兵庫県のこれまでの伝統が今回崩れたのは、前知事の評価を巡って与党の自民党が分裂し、後継候補の副知事が落選したからである。維新と自民党離党組が担ぎ上げた斎藤氏は知事就任直後に「新県政推進室」を設置し、「行財政運営方針見直し案」を公表して前知事の施策を全否定する荒療治に乗り出した。その時に側近として重用されたのが、東日本大震災復興に兵庫県から派遣されていた職員たちだった(斎藤氏は当時宮城県財政課長だった)。斎藤氏の手法は「パワハラ」と言われても仕方がないほどの強権的なもので、それが発端になって西播磨県民局長の告発文が出されることになったという。しかし、斎藤氏はあくまでも自らの正当性を譲らなかった。
問題は、百条委員会が審議を尽くして結論を出す前に県議会で全員一致の不信任が可決され、斎藤氏が失職を選んで知事選に再び立候補したことから始まった。研究会でも百条委員会の措置の是非をめぐって議論が白熱したが、2期目の選挙戦では結局そのことが立花氏らの付け入る隙となり、SNS発信によって不信任決議が不当なものであり、斎藤氏こそが「県議会=既得権力」に立ち向かうヒーローだとする構図が作られる原因になったのである(以下、経過は省略)。
だが、問題はこれで終わらなかった。斎藤氏の再選後初登庁の翌11月20日、斎藤陣営の選挙戦の中心を担ったPR会社の女性社長が、インターネットで「広報全般を任せていただいた」などと発信して衝撃が広がった。斎藤氏は11月25日、PR会社に「ポスターなどの製作費」として70万円を支払ったことを認めたが、公職選挙法違反には当たらないと強弁した。しかし、12月2日には大学教授らが斎藤氏とPR会社社長を公職選挙法違反(買収、被買収)容疑で県警と神戸地検に告発した。
たまたま12月上旬に知事選に関わった弁護士たちと会う機会があり、そこでもこの告発が話題になった。弁護士たちの意見では地検はおそらく受理しないだろというものだった。だが、彼らの予想に反して県警と神戸地検は異例のスピードで2週間後に受理したのは驚きだった。政界は「一寸先は闇」だというが、兵庫県政の先行きの予断は許されない。先の研究会での議論では、県職員の大半は「様子見」あるいは「面従腹背」の状況にあるという。県議会はもとより県職員の間でも知事選はまだ終わっていないのであり、結果が出るのはこれからのことなのである。
一方、壊滅的大敗を喫した共産党兵庫県委員会は、11月20日の赤旗報道以来ダンマリを決め込んでいる。ホームページを見ても、県委員会としての選挙総括がどこを探しても見当たらない。これでは責任ある国政政党としての有権者に対する責任が疑われるが、そんなことはお構いなく県委員長が来年の参院選への投票を呼び掛ける行動に出ているというのである。こんな話を聞くと、兵庫選挙区での得票数は県知事選の7万票余りからさらに減少してもおかしくない。それでも県委員会は相変わらず党勢拡大を叫び続けるのであろうか。(つづく)
初出:「リベラル21」2024.12.21より許可を得て転載
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