台湾の民進党は、議会選挙では敗北し総統選挙では勝利した。5月8日、頼清徳氏は、新総統就任演説を行った。これに対して中国の外交・台湾関係機関は、「民進党は完全な台湾独立組織である」と厳しく非難した。
23・24 日に中国軍による台湾周辺海空域での軍事演習「聯合利剣2024A」が実施された。軍事演習は急にはやれないから、以前から民進党勝利を予測して準備していたものである。
2022 年 8 月にはアメリカ下院議長ペロシ氏の台湾訪問への抗議として、大規模な演習があった。2023 年 4 月にも、蔡英文総統が米国でマッカーシー下院議長と会談したことへの抗議としての軍事演習があった。今回の演習は前の2回よりも小規模だったが、台湾政府支配下の金門・馬祖など大陸沿岸の島が含まれるとともに、海警船が参加しており、海警局が中央軍事委員会の直接の指揮下にあることがあらためて確認された。
中国は、このたびの演習について「決して台湾同胞に向けられたものではない」という一方で、CCTV(中国中央電視台)や共産党機関紙人民日報、また環球時報などは、「『聯合利剣2024A』演習は台湾地区領導者の独立挑発に対する断固たる懲罰である」とか、「東部戦区は『殺台独の伝家の宝刀』を出動させた!解放軍の台湾包囲演習は『台独』懲戒だ」など、軒並み台湾を威嚇した。
日本の国会議員31人が新総統の就任式に出席するため、台湾を訪問した。わたしには、曲がりなりにも「ひとつの中国」を原則とする対中国外交を考えるうえで、これが適切な行動だとはとうてい思えない。
呉江浩・駐日中国大使は、これをめぐって「台湾独立勢力に公然と加担するものだ」と批判した。そのなかで、「日本という国が中国分裂を企てる戦車に縛られてしまえば、日本の民衆が火の中に連れ込まれることになる」と発言した。
この種の発言は、22年8月の大規模軍事演習のときにもあった。中国軍少将で国防大学教授の孟祥青氏は、6カ所の区域の「(台湾の)北のエリアは沖縄に近い」「演習は実戦的な色合いが強く、いつでも実戦に移行することができる」と発言した。
これは武力統一を行動に移したとき、沖縄の米軍・自衛隊基地を攻撃する可能性を示唆したものである。保守・革新を問わず日本の政党には、呉江浩大使らの発言が単なる脅しではないことに注目してほしい。
さて、このたびの演習を「聯合利剣2024A」と呼ぶからには、2028年の次期総統選挙までに、B、C、Dと続く可能性がある。あるいは年号が2025,2026などに変わるかもしれない。これは台湾世論を動揺させるようとする軍事演習の常態化である。当然、台湾周辺の海空で偶発的衝突の危険性は日常的に増すだろう。
演習が常態化した場合、中国は日米両国政府の出方を見るために、たとえば台湾の蘭嶼や緑島、あるいは澎湖諸島など離島への実弾射撃、もっと拡大して一時的な上陸、あるいは占拠を試みる可能性がある。――こうなると演習とはいえないが。
その時は、台湾封鎖期間は今まで以上に長くなり、南シナ海や尖閣諸島でも軍事行動があり、フィリピンや日本も直接間接の被害を受けるだろう。
21世紀の今日、ロシアのウクライナ侵略やイスラエルのガザ侵攻という、よこしまな暴力による戦争が勃発している。中国は民進党政権をすでに「台湾独立」とみなしているから、次期総統選挙が行われる2028年以前に、いつ台湾への武力侵攻を起こしても不思議ではない。
一般的には、武力侵攻の可能性が高まるのは、深刻な自然災害が続いたり、経済不振が長期化することなどによって、政権の動揺や社会不安がうまれるときである。たとえば、大躍進による4000万人ともいう大量餓死、文化大革命による社会の混乱、それから改革開放路線への移行の時期などには、中国はソ連やインドと国境紛争を起こし、ベトナムへ侵攻している。
しかし、今日、ウクライナ戦争やガザの民族殲滅戦を見れば、台湾の「武力解放」はもっと切迫し身近になっている。秋のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が勝利し、「アメリカ・ファースト」路線を維持してウクライナと台湾から手を引いたり、ウクライナ東部4州のロシア占領地域がロシア領になるなど、ウクライナ戦争がプーチン大統領に有利に終結した場合はどうなるか。欧米日の力の限界が明らかになり、習近平政権は誰に遠慮することなく、台湾制圧にむかうことができる。
今日まで日米両国政府は、一旦台湾海峡で戦争が勃発すれば、中国の軍事力を壊滅させられる力を誇示することで、中国に「武力解放」をあきらめさせ、外交交渉にもちこもうとしてきた。いわゆる抑止力論である。
これに対して、護憲勢力は、「台湾有事は日本有事だ」という前に、中国との外交努力をするべきだ」とか、「(相手国に対して)通常兵器であれ、核兵器であれ、軍事的抑止力で対応するという立場を私たちは断固拒否する」といってきた。
立憲民主党は2022年8月の中国の軍事演習のとき、中国軍が我が国のEEZにミサイルを撃ち込んだことに対して強く抗議した。共産党志位委員長(当時)は、台湾に対する中国の軍事的威嚇の強化に反対し、アメリカの台湾問題に対する軍事的関与にも反対した。今回の軍事演習に対して、同党の田村委員長は、「軍事対軍事のエスカレーションを止めるため、憲法9条を生かした外交を真剣に行うべきだ」と述べている。
いつもながらの「正しい」主張である。だが、「憲法9条を生かした外交」とはなにか、有権者にはこれがわからない。あなた方もこれがわかって発言しているのだろうか。革新リベラル派は、いままで「軍備増強の口実に『台湾有事』が使われている」としながらも、台湾の「武力解放」にどう対処するかの真剣な議論をしてこなかった。立憲民主党にせよ、共産党にせよ、本当に台湾問題に取り組むつもりがあるなら、日本はアメリカとともに台湾防衛作戦に参加するのか、それとも軍事的中立を維持するか、第三の道があるとすればそれはなにかを示すべきである。
自衛隊を参戦させれば、米軍と自衛隊の基地への中国のミサイル攻撃によって、琉球列島を中心に多くの人が死傷し、経済基盤に多大の損害が生まれる。日米共同作戦が実行されないとすれば、民主主義の台湾は消え香港と同じ道をたどり、東シナ海は中国の内海になるだろう。いずれを選ぶにせよ、事態の深刻さにふさわしい覚悟が必要だ。この重大な課題を避けてはならない。
わたしは、国政選挙において革新・リベラル政党が勝利するためにも、今が「台湾有事」にどう対処するかを明らかにする時期だと思う。 (2024・06・14)
初出:「リベラル21」2024.6.19より許可を得て転載
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