「パレスチナ問題の現在――植民地主義としてのシオニズムが行き着くところ」
パレスチナ情勢から目が離せない。普段からパレスチナ報道を細かくフォローできていない私たちからすれば、10月7日にハマース(イスラーム抵抗運動)が突如イスラエルを攻撃したように見える。しかし背景には1948年のイスラエル独立宣言以来のパレスチナへの強引な入植地化と中東戦争があり、この30年で見てもオスロ合意(1993年)の崩壊とインティファーダ闘争の継続以降の情勢の混迷がある。イスラエル政府はハマースによる攻撃の翌日に宣戦布告を宣言、これ以降連日のようにガザ地区住民を標的にして相当の被害者を出している。これに飽き足らずイスラエル軍は11月2日の時点で「新たな重大局面に入った」との声明を発表しガザ地区への突入を示唆している。パレスチナ人の命がこれまでになく危険にさらされている。こうした絶望的状況にまでハマースが突っ走った背景には、パレスチナ問題へのこれまでの国際社会の冷淡さがあることは言うまでもない。しかしまた、昨年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻により顕在化した国際平和秩序の流動化も寄与しているだろう。米ソ冷戦の終焉以降のこの30年続いた国際秩序の漂流が行き着いた先がウクライナ戦争と今回の事態だとすれば、新たな国際秩序が形成されつつある局面に至っているのかもしれない。イスラエルに対してはレバノンのヒズボラ(シーア派武闘組織)やイエメンの武闘組織フーシも攻撃を加えており、背景にイランが控えていることも考えると中東規模の大規模戦争へのエスカレートもあり得ないことではない。これは紛争と限定的戦争が20~30年続く時代の到来なのだろうか。
日 時:12月12日(火)18:30開始(3時間弱)
会 場:専修大学神田校舎7号館7階773教室とハイブリッド型研究会(当日会場に来られる方は後述の会場に直接お越しください。オンライン参加ご希望の方は後述の方法で参加予約をください。招待メールを送ります)
資料代:500円
報告者:早尾貴紀さん(パレスチナ/イスラエル関係論、東京経済大学教員)
著書に『ユダヤとイスラエルのあいだ』(青土社)、『パレスチナ/イスラエル論』(有志舎)ほか。訳書にイラン・パぺ『パレスチナの民族浄化』(共訳、法政大学出版局)など。
「「ユダヤ人国家」を目指すシオニズムは、ヨーロッパ近代の排外的人種主義と、中東世界にプレゼンスを打ち立てようとする植民地的帝国主義との複合体である。思想的としては19世紀後半に、本格的な運動としては20世紀の第一次世界大戦のあと、オスマン帝国が解体してパレスチナが英国統治になったときに始まる。またそのことは同時に、欧米列強と東アジアのあいだで植民地帝国として振る舞うこととなった日本とも無関係ではないし、パレスチナの英国統治には南洋群島の日本統治と相互支持という形で手も貸していることも忘れるべきではない。この人種主義・植民地主義の複合体としてのシオニズム運動にとって、1948年のユダヤ人国家イスラエル建国は歴史的一段階にすぎない。領土的な面積拡張と排外的な純ユダヤ化はともに「100%」という究極目標へと進み続けてゆく。1967年の占領も、1993年のオスロ合意もそこに向けての一段階だ。パレスチナ側に何も得ることのなかったオスロ体制は日本も含めた国際的枠組みであり、そのもとで入植活動は加速してゆき、パレスチナは支援漬けとなって無力化した。いわばオスロは「和平」と「自治」という美名のもとに進められた新しい占領システムであり、またしても日本はその共犯者となったのである。それを「ネオ・コロニアリズム」と呼ぶこともできるだろう。ガザ地区の存在は、そしてハマースら武装勢力の蜂起は、このコロニアル/ネオ・コロニアルな世界の欺瞞を炙り出すものとして受けとめるべきものだろう(早尾貴紀)」
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