マスコミで報道されないこと   戦後補償、慰安婦問題

著者: 関千枝子 : ノンフィクションライター
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近頃のマスコミはマスコミでなくマスゴミと評判が悪いが、それでも書き方に問題があっても、とにかく書いてくれればいいと思うこともある。問題があっても書かなければ、掲載されなければ、メディアリテラシーなどいってもやりようがないからだ。今、マスコミが大嫌いで、とことん書きたくないという問題がある。それは、戦中の強制動員とその補償問題で、その中でも大嫌いな筆頭は「慰安婦」問題である。

様々な裁判が終わってしまい、ことごとく退けられてしまった今、メディアで見る限り、一般の人には問題も見えず、若い人の中にはそんなことがあったことも知らない人が増えている。教科書に慰安婦問題の記述がなくなっている今、本当に恐ろしいことだと思う。それでいて、この問題を何とかしたいという運動はしぶとく続いているのだが。私はこれを書きながら「原発」のことを思い出している。原発にも長い長い反対運動があった。専門の学者も加わっている質の高い運動だった。だがそうした運動はマスコミから徹底的に無視された。あの事故が起こってから、人々は原発が絶対安全ではないと知った。原発反対の運動がもっと真剣にマスコミで書かれていたら、と、腹立たしい思いがある。

マスコミから除外されていた慰安婦の問題が久し振りに報道されたのは、韓国の憲法裁判所がこの問題に真剣に取り組まない韓国政府は違憲という決定を下してからだった。しかしこの後もマスコミは「日韓請求権協定で解決済み」という日本政府の立場を一方的に流すのみだった。昨年12月14日、韓国の日本大使館前で行われている水曜デモが1000回を迎え、日本、もほかの外国でも連帯行動が開催された。日本では女性たちが外務省を取り囲み、人間の鎖を作った。これは相当のことと思われ、多くの新聞、テレビも取材に来ていたが、出来上がった新聞は、韓国に作られた「少女像」(韓国では平和の碑と言っている)への誹謗ばかりだった。

その後も日韓関係はこじれっぱなしだ。これについて3月26日の朝日新聞は2面「座標軸」で、主筆の若宮敬文氏「かつてアジア女性基金につけられた首相のお詫びの手紙を生かし、何とか道を打開しよう」という文章をのせた。一般紙がこれだけ多くのスペースを先。慰安婦問題を書くなど異例のことだし、若宮氏の善意はよくわかる。しかし氏は、あまりにも「基金」のやったことの間違い、多くの当事者を傷つけ、当事者団体同士で争いを起こしてしまった悲しい歴史にあまりに疎いと思った。この問題の解決は「法的解決」しかなく、それは民主党の野党時代8回も提出、[都留市]に会い、廃案にされている。驚くことに民主党が政権を取ってからこの法案は一度も提出されていないのである。

私はこうしたことを朝日の「私の視点」欄に投稿してみた。案の定というか、予想通り、この投稿はボツらしい。もう構わないと思うので、この投稿を、この文章の最後に乗せる。このところ、「慰安婦問題」に関しては朝日は一番スペースを割いて報道している。もう一歩、前進してほしいのだが。

3月26日、貴紙「座標軸」従軍慰安婦問題について、若宮敬文氏の「お詫び(歴代首相の)手紙を生かし、打開しよう」を読んだ。この問題の解決を望む若宮氏の熱意は理解できたが、残念ながら、これでは当事者たちの怒りに火を注ぐだけだろうと思った。

これは、韓国李大統領が3月21日の国内外マスコミ6社との共同会見で、「法律問題より人道問題として解決すべきだ」と発言したことを受けての文章だが、この大統領発言に対して、韓国挺身隊問題対策協議会が「被害者の気持ちを無視し、本質から離れた発言」と批判するなど韓国内の反発は激しい。

若宮氏はかつての「アジア女性基金」の償い金(民間からの募金)につけた、橋本竜太郎氏から小泉純一郎氏まで4代の首相のお詫びの手紙を生かすべきだという。この手紙が広く行きわたっていないので、日本は謝罪しないというイメージを与えたと。しかし、当事者たちの望みは、あくまで「公式の謝罪と法的賠償」で被害者の名誉と人権を回復することで、民間の募金では解決ではないと怒った。結局、いたずらに混乱を招いただけで基金は失敗した。これにつけた首相の手紙がきちんとした「謝罪」と認められないのは仕方がないことで、まして、その後の首相の中には、この「おわび」にさえ反する発言をした人もいた。いまさらこんな手紙を持ち出して「日本の真意」を言っても、さらに怒りをかうだけだろう。

打開の道はある。2001年3月、民主、共産、社民、当時の野党の3党が共同で「戦時性的強制被害者問題解決促進に関する法律案」を提出した。これは、問題の調査、国による謝罪、政府の責任での補償等を言ったもので、韓国、フィリピン、インドネシア、台湾、オランダ等の被害者たちも支持した。しかし、同法案は、8回も提出されたが、いわゆる[つるし]に会い、8回とも廃案にされた。

政権交代が起こった時、当事者も日本の支援団体も、すぐにもこの法案が提案され、審議されると思った。しかし、現実には、民主党が与党となってから、この法案は国会提出すらされていない。当事者、支援団体の失望は大きい。

昨年8月の韓国憲法裁判所の「判断」以来、「慰安婦」問題はマスコミにまた登場するようになり、朝日新聞はかなり詳しい報道をしている。しかし、問題解決のもっともよい「打開策」であるこの「促進法案」について、触れたマスコミの記事は皆無に等しい。これは、マスコミの不勉強だろうか。まして、政権党の民主党が、自党が出したこの法案について、話題にもしないのは不思議を通り越して、呆れるだけである。私は「促進法案」の一刻も早い国会提出しか問題解決の道はないと思っている。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0855 :120412〕