「ふくしま集団疎開裁判」について IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン博士から受け取った返答

私は、IPPNWドイツ支部のアレックス・ローゼン博士にも「ふくしま集団疎開裁判」についてアピールしていましたが、最近、ローゼン博士からご返答を頂きましたので、それを和訳しご紹介させて戴きます。

親愛なるグローガー理恵さん
メールを有り難うございました。
私は多大の興味を持って貴女のメールを読みました。

我々の研究調査がフクシマ・アクション・プロジェクトや日本における他の市民団体のために役立ったことを聞き、嬉しく思います。
私は、これらの2つの分析リポートをフォローアップして、近い将来には、もっと実質的な出版物を発行できることを願っています。

また、郡山で現在進行中の「ふくしま集団疎開裁判」に関してインフォメーションを下さったことに感謝します。私がこれから、この裁判の成り行きを見守っていくことは確かです。また、この訴訟の結論がどのようになるのか、大いに関心を抱いています。

では、ベルリンからごきげんよう!将来も連絡を取り合 っていくことを望みます。

Alex Rosenより

(2013年5月16日)

* * * * * * *

下記が、私からローゼン博士に宛てたメールです。(2013年5月9日付):

親愛なるアレックス・ローゼン博士
はじめまして!私の名前はグローガー理恵と申します。私はドイツに在住する日本人で、ドイツ、日本における反核運動の支持者です。

おそらく、ローゼン博士はこのことをご存知ではないと思いますが、私は幸運にも、IPPNWドイツ支部のアンゲリカ・ヴィルメンさんから博士の論文「WHOのフクシマ大災害リポートの分析」を日本語に翻訳する機会を与えられた者です。

http://www.fukushima-disaster.de/fileadmin/user_upload/pdf/japanisch/WHO-Analysis_Alex-Rosen-IPPNW_Japanese.pdf
このローゼン博士の論文は、子供たち、友人、家族の健康被害を憂慮する多くの日本人に高く評価され感謝されています。去年の11月、「フクシマ・アクショ・プロジェクト」が結成されました。フクシマ・アクション・プロジェクトの目標は、2012年12月にIAEAがフクシマを訪れる目的は何なのであるかを確定することでした。その際、彼等の教材の一つとしてローゼン博士の論文が使われています。

また、博士の論文に関して、IPPNW日本支部のメンバー、三宅成恒医師(ひょっとしたら三宅医師をご存知でしょうか?)からも大変にポジティヴなフィードバックを頂いています。: 三宅医師は、「ローゼン博士の論立ては簡潔で科学的であり、しっかりとした構造を持っています。また、ローゼン 博士 の小児科医と しての子どもに対する愛を蔑ろにする者たちへの怒りも感じられました。」とコメントしています。

今回、私が貴方にメールを書こうと思い立った理由は、現在フクシマ郡山で進行中の14人の子供たちによって起こされた訴訟について貴方のご注意を促したかったためです。下記に、この裁判の経過及び現在の状況を概説してあります。

また、この裁判に関する情報を下記のリンクから得ることができます。

http://www.ajc.com/news/ap/health/lawsuit-seeks-evacuation-of-fukushima-children/nXLs7/?nmredir=true

http://ktar.com/?nid=123&sid=1629658

http://fukushima-evacuation-e.blogspot.jp/

http://fukushima-evacuation-e.blogspot.de/2012/01/message-from-noam-chomsky-about-support.html

http://www.greenpeace.org/international/en/news/Blogs/nuclear-reaction/fukushima-nuclear-crisis-update-for-april-12t/blog/44831/
どうぞ宜しくお願い申し上げます。

Rie Groeger

——————–裁判の経過概要—————————

福島県郡山市は、事故破損したフクシマ第一原発から凡そ60キロ離れたところに位置する。原発事故から数ヵ月後、郡山に住む14人の小中学生たちが、郡山市を相手に訴訟を起こすことを決意した。訴訟の目標は簡単明白である。: 子供たちは年間被曝量1mSVを超えない安全で健康な環境に住みたい。-それだけのことなのである。

2011年6月、子供たちは両親の支持のもと、子供たちにとっての法的権利である「安全な環境での教育」を要求し郡山市を訴えた。原告は、郡山市には義務教育下にある小中学生を汚染危険区域から避難させるべき法的義務があると申し立てた。

2011年12月16日、郡山地方裁判所はこの訴訟を却下した。裁判所の判決は、被曝量が年間100mSVを 超さない限り、子供たちは危険に曝されてはいないとの見解を示していた。これに対して原告は、国際/日本基準の年間被曝許容量に従い、子供たちは1mSv以上の 被曝をしてはならないと要求していた。

原告14人の子供たちの代理人は、2011年末、 この判決は全く受け入れられないものとして、仙台高等裁判所に控訴した。

そして2013年4月24日、仙台高等裁判所は、またもや原告の申し立てを却下する決定に至ったのである。

仙台高裁の抗告却下決定理由の骨子は次のようになる。:

(1) 現 在の郡山市における空間線量率によれば,子どもたちは,低線量の放射線に間断なく晒されており,これによる,その生命・身 体・健康に対する被害の発生が危惧され,由々しい事態の進行が懸念される。この被ばくの危険は,これまでの除染作業の効果等に鑑みても,郡山市から転居し ない限り容易に解放されない状態にある。

(2) もっとも,中長期的には懸念が残るものの,現在直ちに不可逆的な悪影響を及ぼす恐れがあるとまでは証拠上認め難い。

(3) 子 どもたちは,学校生活以外の日常生活において既に年1ミリシー ベルトを超える被ばくをしており,引き続き郡山市に居住する限り,郡山市内の学校施設における教育活動を差し止めてみても,被ばく量を年1ミリシーベルト 以下に抑えるという目的を達することができないから,子どもたちにこれを差し止める権利が発生する余地はない。

(4) 子 どもたちに対して郡山市の学校施設で教育活動を継続することは,直ちにその生徒の生命身体の安全を侵害するほどの危険があるとまで認め得る証拠もないか ら,直ちに不当ではない。子どもたちの避難先での教育は地元の教育機関により行われるのが原則であり,避難元の公的教育機関がわざわざ地元の教育機関を差 し置いてまで別の学校施設を開設する必要はない。子どもたちが自主避難した場合は,子どもたちは避難先の公的教育機関で教育を受けることで被ばく被害を回 避する目的は達成される。言い換えれば,子どもたちは郡山市に対し避難先での学校教育を求めることはできず,また,郡山市は避難先で教育活動を実施すべき 義務を負うものでない。

(5) 子どもたちに自主避難が困難とすべき事情は認められず,保全の必要性がない。

2013年4月24日の判決が下された後、ふくしま集団疎開裁判弁護団の代表、柳原敏夫弁護士は次のように語った。:

「一言で言うと狐につつまれたようです。

前半の裁判官の判断では、このまま福島の郡山市に子供たちが居ては、彼等の生命、身体、健康に対する被害の発生が危惧され、由々しい事態の進行が懸念されると、はっきりと被曝の危険性、健康被害の危険性について明言しました。

で、その後各論に入るところで、とたんに論調が変わりまして、いろんな理由をつけて、結局この裁判の徹したことは、原告には避難する権利を求める権利もなければ郡山市には避難させる義務もないということです。」

2012年1月12日に既に「ふくしま集団疎開裁判」を支援するとのメッセージを送ったノーム・チョムスキー氏は、この抗告却下判決に対して次のようにコメントしている。:

「裁 判所が、健康のリスクを認めていながらも、フクシマから子供たちを避難させようとする試みを阻んだということを知り、ただならぬ不穏な気持ちに襲われてい ます。『社会が、最も傷つきやすい人々をどのように取り扱っているのか?』 -これ以上に、その社会における道徳的水準を明示するものはありません。最も 傷つきやすい人々とは、この場合、社会が所有する最も貴重な財産である子供たちのことです。私は、この苛酷な判決が覆されるであろうと希望を抱き、また、 そうなるものと信じています。」

”It is deeply disturbing to learn that the courts have blocked efforts to evacuate children from the Fukushima site, though acknowledging the health risks.  Nothing tells us more about the moral level of a society than how it treats the most vulnerable, in this case its most precious possession, its children.  I hope and trust that this grim decision will be reversed. Noam Chomsky”

* * * * * * * * * * * * * *

もし、この訴訟が成功すれば、他にも数多く存在する放射能汚染された市町村にとっても(避難権利を持てるという)法的立場が強くなるというサインを送ることになり、この成功がもたらす効果は決して過小評価できないものがある。

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔eye2266:130524〕