「ハーグ戦犯1号の日記」に期待する

 岩田昌征先生がスタディルームに投稿された「旧ユーゴスラヴィア戦争をめぐる、「ハーグ戦犯1号の日記」」を読んで驚いた。岩田先生が旧ユーゴ国際戦犯法廷(ICTY)第1番目の被告人ドゥシコ・タディチ氏から送られてきた著書の抄訳を「ちきゅう座」で紹介されるに至った経緯もドラマチックではあるが、何よりも衝撃的なのはその著書の内容である。
 旧ユーゴ紛争に関心を抱く人ならば、ドゥシコ・タディチ(またはドゥシュコ・タディッチ)氏の名前を記憶している人も多いだろう。その場合、おそらくは残忍非道なセルビア人、という印象とともに。私自身もそうだった。タディチ氏はボスニアの強制収容所の看守として囚人の虐殺・暴行など極悪非道な「人道に対する罪」を犯したとしてハーグにあるICTYに起訴され、禁固20年の有罪判決を受けた被告人である。
 ただ、私自身はかねてよりICTYの中立性・公平性には大きな疑問を持っていたので、その判決を無条件に信じるほどナイーブではなかった。しかし、岩田先生の抄訳を読めば、ICTYは中立性・公平性に問題があるどころではない。タディチ氏の記述が事実だとすれば、タディチ氏は強制収容所にいたことすらなく、全くの冤罪である。もちろん私は、タディチ氏の証言の真実性を判断できる材料を持っているわけではない。しかし、対立する主張がある場合は、まず「双方の言い分を聞く」というのが鉄則でなければならない。これまでタディチ氏を極悪非道の犯罪者と断罪するメディアの宣伝だけを聞かされてきたわけだから、今度はタディチ氏の言い分をじっくり聞いてみたい。その意味でも岩田先生のさらなる抄訳を楽しみにしている。