「これから世界は地獄を見ることになる」。2008年のリーマンショックを半年前に見事に予測したあるエコノミストは話す。欧州ソブリンリスク、米国財政金融危機、そして中国のかつての黄巾の乱を思わせる「民衆反乱」と世界中に異変が起こり、それらの危機が終息する見込みはない。
「時限爆弾の信管ははずせない」とこのエコノミストは指摘する。
リーマンショックはFRBなど世界の中央銀行が信用創造することで、民間金融機関のリスクを引き受け「克服」したかに見えた。実態経済も回復した。「リーマン前の80%から90%の生産水準に戻った」。多くの日本の自動車、電子機器関連部品メーカーは語る。「よくここまで戻ったな」というのが筆者の実感である。
リーマンショック後の最悪期、日本の自動車メーカーの生産水準は半分以下になった。
世界経済が回復した原因は、FRBの金融政策である。マネタリストのバーナンキ議長が量的金融緩和を大胆に行った。この結果、①金融経済が回復、②資源インフレと新興国バブルが起きた。
BRICSと呼ばれる新興国の成長が日本経済にも波及して、自動車、電子機器などの消費財や、それらを生産する部品や生産財の輸出が急増した。
ところが、量的金融緩和は当然基軸通貨であるドルの信認を低下させる。石油、金属、穀物など資源価格が暴騰する。国民の40%が一日購買力通貨ベースで5ドル以下で暮らすというエジプトでは、物価上昇が引き金になって、「民衆革命」が起きた。本場の米国ですら、金融経済は回復したが、実態経済の回復は鈍かった。生産、消費、雇用の改善は限定的なものにとどまり、量的金融緩和の副作用である物価上昇が米国や中国、インドなどの庶民を襲っている。
この結果、米国でも茶会運動と呼ばれる保守的な草の根運動が盛り上がる。インフレリスクがFRBの量的金融緩和第3段階(QE3)の発動を抑制している。
米国の議会と大統領が対立したデフォルトリスクは、世界中の人々がやがて妥協するプロレスごっこだと見ていたので本気に受け止めなかった。
だが、今回は違う。「FRBはQE3を発動できない。発動しても半年から1年後に効果は消えて、もっと大きなリスクを抱え込むことになる」という。
大げさにいうと、1971年のニクソンショック以来形成された、金から離脱したペーパーマネーのドルが変動相場制と海外からの資金還流をたくみに利用して維持してきた世界経済システムが崩壊しようとしている。
こうなった大きな原因は、米国が1997年のアジア通貨危機以後、基軸通貨国の特権を乱用して、自国の利益追求したことにある。
思い起こしてみよう。2000年以降、どれほどのバブルが演出されことか。ITバブル、住宅バブル、資源バブル、新興国バブル・・・・・。再生エネルギー、排出権取引という環境バブルもそこに入るかもしれない。
しかし、奇妙な現象がある。世界恐慌になれば、日本も当然影響を受ける。だが、日本は先にバブル発生と崩壊を経験して地獄を見ているので、「時限爆弾がない」ということだ。国民も若い世代を中心に、「モノ離れ、不況慣れ」という状況だ。
スペインの有名リゾート地であるコスタ・デル・ソル。熱海や伊豆とあまり変わらない景観だ。ここのリゾートマンションは、20年前には筆者の記憶では1000万円程度(当時のペセタと円で換算)だった。だが、欧州バブルの最盛期、ユーロ高の時期には2億円くらいに上昇した。
コスタ・デル・ソル以上にインフラが整い、景観も豊かな伊豆の中古リゾートマンションは1000万円以下で買えるだろう。数百万以下かもしれない。
「日本は世界経済の負け比べ競争の勝ち組になる」というのが、筆者の見立てだ。
とはいえ、生活者にとってはさらに厳しい時期を迎える。インフレ、増税、年金・医療など社会保障の縮減などが容易に想像されるからだ。
余談になるが、世界恐慌になっても、少なくとも日本では、団塊の世代の一部が期待するような革命運動は起こらないというのがこのエコノミストの見立てである。その理由は、就職氷河期や、ワーキングプアなどの経験で痛めつけられた若い世代が、「モノ離れ」「贅沢をしない」「他人やイデオロギーを受け付けない」ということで悟りを開き、解脱しているからだという。解脱とはノーリタンという意味である。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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