8月29日午後、府中市のグリーンプラザで低周波音問題研究会役員でもあり、低周波騒音研究会代表でもある藤田容子さんの本年6月8日から19日までのポルトガルを中心とした欧州被害者交流の旅の報告講演がありました。成果が興味深い物でありますので、詳細はご本人が『低周波音問題研究』に取り纏めて発表いたしますが、簡単にちきゅう座の場を借りてご報告いたします。
藤田さんは平成13年の5月に「ある日突然、夜中の3時半ごろ、私は目が覚めました。
その時も普通に寝ていたのですが、突然、脳味噌がブルブル、胃もブルブル、心臓もドキドキ、冷や汗をかいて、その時に音がグアー、ゴーと聞こえてきました」、「翌日になると安心して寝ていたのですが、3時半頃同じ症状が起こりました。三、四日、3時半頃から4時頃にかけて全く同じ症状が起きて、毎日眠れないので家族に『この音うるさくないの』と聞くと家族は何も聞こえないようでした」(低周波音問題研究第1号)と謂う形で、低周波音被害を発症された方です。自宅で、16Hz、30Hzぐらいの低周波音被害を受けていて、主として下水道管を疑っているものの正確には何処から発生している音なのか、まだ、わからない状態です。
それから以降、被害者の運動、行政との交渉、国際的な研究交流を続けてこられた方です。藤田さんは6月8日出発、英国滞在、15日ポルトガル入国、17日被害者交流会実現、19日帰国をされたと謂うことであります。当初、低周波音問題の国際学会に出席の予定であったようですが、諸事情で適わず、学会に後れて、学会の中心人物ドクター・ブランコとドクター・マリアナに会いに行った、と謂うことです。ドクター・ブランコはポルトガル航空業界の専門医で、乗務員に低周波音被害者が多いと謂うことで研究を続けており、既にその研究の一部は、藤田さんが翻訳発表済みです。
16日、17日と両者の論文説明を受け、パイロットとの比較の為に心嚢肥厚の検査を受け(幸い藤田さんには異常なし)、17日にポルトガル人3名、オランダ人6名(内スェーデン在住2名)、藤田さん(日本人1名)の計10名で医師研究者3名を交えて国際交流会を実現したと謂うことでした。この中には、日本の被害者のなかでも存在する、うつ状態にあった方も居られた様で、「被害者交流会」として情報を交換し、励ましあったとのことでした。
具体的なブランコ氏、マリアナ氏の研究によれば、①、ポルトガルでも風力発電の被害が出ている。ポルトガルでは伝統の闘牛用の牛が飼われ、闘牛士が乗るルシタニアン馬(リスボン地方の伝統種)が飼育されているが、風力発電開始後、この馬に奇形が発生するようになった。足の腱の成長が追いつかず、爪のみが伸び、爪が曲がる馬が発生し始めた。
②、リスボンの川の対岸にある穀物ターミナルから発生する低周波音によって、10歳の男子の心嚢が極度に老化と似た症状を示している。19年前に、夫婦と上の子が3人で現在の家に引っ越してきた。テージョ河から丘へ上った土地の3階部分の家。ある日、ご主人が河側に面したリビングで振動を感じた。数日後家族全員が、ドアがガタガタ揺れたのを見た。対岸の穀物ターミナルは週に3日ないしは4日稼動する。次男(10歳)の心臓の具合が悪くなり、検査によると60歳の人並みに老化していると診断された。
この2例をドクター・ブランコチームは低周波音が成長因子(growth factor)に影響するのではないかと考えている。
さらに、③、高い割合で低周波音は「耳下腺腫瘍を発症」させる。国籍に有意な差なく耳下腺腫瘍は10万人に一人ぐらいの割合で発生するが、ドクター・ブランコは航空専門医として11名のパイロットの耳下腺腫瘍罹患を確認した。異常に罹患率が高いので、ラットに対して、低周波音被曝実験を実施したところラットの耳下腺に腫瘍が発生した。パイロットは低周波音が満ちた中で操縦する職業である。
此れに関連して、④、藤田さんもパイロットとの比較で心嚢肥厚検査をしたが異常がなかったことは冒頭触れた。パイロットは、大量の低周波音を浴びるので心嚢肥厚が多くなるものと考えられている。藤田さん自身は自分の低周波音被曝はパイロットほど大量ではないから、と考えている。
この問題は1981年に久留米大学のマトバ教授が、振動を浴び続ける事で、心嚢が肥厚すると報告した。この研究から、ブランコ氏はパイロットの心嚢肥厚は飛行機の振動音のせいではないかと推理仮説を立てたとの事である。
さて、此れが、29日の藤田さんの報告の主要部分です。藤田さんは今回の一番の成果を、事実上の「第一回低周波音被害者国際交流会」が開けたことである、と考えています。そのとおりでしょう。日本以外にも、生活の場、職業生活の場で低周波音被害者が居るであろうと言うのは想像出来る事です。
藤田さん以外の9名の生活、被害状況は藤田さんが纏めるでしょう。そこからも更に、色々、考えられる事が出てくるでしょう。
此れに、三点総括として問題提起をして藤田さんは話を終えられました。
第一点。低周波音が、成長因子(growth factor)に影響を与えるとすると、胎児、乳幼児への影響も有るのではないか。成人が感じる心身の苦痛以上に、深刻な問題である。
第二点。低周波音が多量にある環境で、耳下腺腫瘍や心嚢が肥厚したという事実を認識すべきである。脳味噌が揺らされる、心臓がバクバクする、鼻血が出る、耳からの出血、体幹部の振動などと隣接していそうな話ですが、新しい被害症状です。問題意識を被害者も医師も支援者も、持って行かなければ為らない課題なのでしょう。
第三点。低周波音は、より広義に振動音(vibration acoustic)病といったほうが良いのではないか。日本ではおおむね100Hz以下を低周波音としているが、ドクター・ブランコチームは500Hz以下を研究実験の対象にしています。日本人の学者は、「500Hzからの使用では、低周波音と言えない」と批判するだけで、議論を避けています。周波数にこだわると、本質を見失ってしまうのではないか。議論不十分のまま、周波数の枠組みを決めてしまうのが早すぎるのではないでしょうか、と謂うことでした。
刺激的な、報告会であったと思いましたので、藤田さんの正式文章の前に、あえて御紹介させて頂きました。(以上)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion116:100903〕