安倍政権は明瞭な形で中国の現在の国家の動向を認識し、それとの関係をどう作り出して行くかの考えを持っているわけではない。ただ、一定の形で浸透してきた中国の脅威感が国家意識やナショナリズム拡大になっている側面を政治的に取り込んでいるとはいえる。中国の発展はかつて想像しなかったような中国との関係を構想できるか、という問いをもたらしている。中国の脅威論から生み出される国家意識やナショナリズムに対抗した中国との関係はどのように構想されるのかとお言い換えてもよいのである。僕らの東アジアでの平和的関係を構築するとはどういうことなのか、言ってもよいのである。民主党が政権時代に掲げた東アジアでの共同体的な関係はどのように可能か、という問いでもいいのだ。
民主党が政権時に掲げた対アメリカ関係の見直しと東アジア共同体へという構想はアメリカのアジア重視戦略であっという間に潰された。沖縄の普天間基地移転問題が発火点にあったとはいえ、アメリカはこの民主党の動向に驚いてアジア重視戦略に切り替えたともいえるのであるが、ここからは日米同盟深化論と中国脅威論が進んできた。アメリカの戦略に対応して日米同盟深化論になって行ったのは鳩山後の民主党政権からであったが、この背後で中国への対抗意識がかつてとは違った形で進行してきたこと、そして、これが現在の安倍のというよりは国民意識における右傾化の基盤になってきたことに僕は注意を喚起したいのである。例えば、過日の都知事選のおける田母神の得票数のことを考えてみてもよいのである。中国との対抗意識から国家意識やナショナリズムが高まって行く事態があるのだ。これを先にも述べたように反共や全体主義としての中国への対抗意識とは違うものである。戦後の右翼や保守派の反共、あるいは反共ナショナリズムを高めようとして出てきた中国との対抗関係の意識ではないのだと思う。かつての民主党の東アジア共同体構想が広がり、深まらなかった要因にはアメリカの動向とともに、中国への対抗意識の高まりがあることをみておきたいのである。僕は第一次安倍政権のころ、韓国・台湾・中国・北朝鮮などの東アジアで憲法9条を国家間関係の基軸にしていけないかと考えたことがある。これは構想であるが、東アジア共同体に可能性があるとすれば、憲法9条のような非戦条項を共有していくことにおいてであるということになる。その場合に中国が何らかの形でこうした構想を持つことは可能かが一番肝心なことのように思えた。中国とは、中国関係とは何かが問われるのである。
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