「宿営型表現活動」と表現の自由(上) ―いわゆる[経産省前テントひろば」裁判に関する憲法学的考察―

*注のつけ方など、多少変更いたしました(編集部)

 

目次

. 序論

1. 「経産省前テントひろば」事件訴訟

2.  2015年2月初日東京地裁判決

3. 「宿営型表現活動」とは何か

II. 「宿営型表現活動」と集会の自由

1. 「集会の自由」の内容と意義

2. 「集会の自由の実現行為」としての「宿営型表現活動」

3. 「宿営型表現の自由Jの特質一「やむにやまれぬ意見表明」

.「パブリツク・フォーラム」としての「経産省前テントひろば」

1. アメリカにおける「パブリック・フォーラム」の法理

2. 日本における「パブリック・フオーラム論」の可能性

3. 「パブリック・フォーラム」としての「経産省前テントひろば」

.本件訴訟のもう一つの問題―「スラップ訴訟」にあたるか?

1. スラップ訴訟とは何か―「裁判」を利用する言論抑制-

2. スラップ訴訟としての経産省による提訴

V. 結論

 

 

Ⅰ.序論

1. 「経産省前テントひろば」事件訴訟

東日本大震災・福島原発事故発生から半年後の2011年9月11日,原発政

策を推進した経済産業省(以下, 「経産省」とする)の北側角の敷地内に,

原発再稼働に反対する市民らが反原発・脱原発の意思表示を目的としてテ

ントを設営した。

テント設営の場所は,経産省の北側の交差点角に位置し,経産省の敷地

ではあるが,敷地を区切る柵外にある半円形をした形状の空間である。面

積は89.63平方メートルあり,経産省ピル前庭との間には柵を挟んで、ベン

チ本石が置かれており,霞ナ関付近の建物の案内板が設置されている場所

であり,いわゆる「ポケットパーク」である。

同年10月27日からは,このテント前で,反原発・脱原発を主張して,福

島から避難してきた女性たちを中心とする100余名が座り込みを行ったの

を皮切りに.11月5日までに延べ3000人がテント前に座り込み,これを機

にテントは三棟に増設された。その後,主催者たちは,このテントに寝泊

まりをはじめ,反原発・脱原発の集会を定期的に開催するなどの意見表明

を行い,いつしか,テント前は「経産省前テントひろば」(以下.「テント

ひろば」) と呼ばれるようになり,民原発・脱原発を主張する人々の交

流・行動の場となっていった。

これに対し経産省側は. 2013年3月29日に.「テントひろば」で活動し

ていた二人の市民を相手取り,テントの撤去と「テントひろば」の明渡し

を求める訴えを東京地裁に起こした。さらに4月25日には,経産省の敷地

を不法に占拠し経産省の所有権を侵害したとして,これまでの土地使用料

として約1140万円と,敷地明渡しまで一日あたり約2万2000円の土地使用

料の支払いを追加請求した(以下「本件訴訟」とする)。

他方,被告となった市民側(以下「市民ら」とする)は,テントは,憲

法が保障する請願権,表現の自由(主権者宿営権).幸福追求権,生存権,

抵抗権の行使であり,正当な占有の権限があると主張して,テント設営の

正当性を主張するとともに,この訴訟は,国が市民側の脱原発・反原発の

運動を威嚇することを目的とする,いわゆる「恫喝訴訟(スラップ訴訟)

であり.「違法な裁判」であると主張して,固に真っ向から対抗した。

 

2. 2015年2月26日東京地裁判決

2014年12月3日,東京地裁は,審理の終了を宣言し本年(2015年) 2

月26日に,テントの設営は「表現の自由の行使という側面はあるが,固有

地の占有は認められず,国が明け渡しを求めることは権利の濫用ではな

い」として,形式的に民法を適用して,国側の国有地の管理・使用権を認

め,テントその他の物件の撤去と土地明渡しを命ずるとともに,土地使用

料相当損害金として1142万7152円,土地明渡しまでの遅延損害金として1

日あたり2万1917円(うるう年については2万1857円)の支払いを命じる

判決を下した。①

以下では,東京地裁判決で,憲法論にかかわる論点、に絞って,本件の結

論に至った判決理由をまとめてみる。

第1に,国側による「本件訴えが訴権の濫用に当たるか」という論点に

関連して,東京地裁は, 「被告らは,本件訴えの提起が,原告の原子力発

電政策についての意見表明を妨害する意図によるものであると主張する」

が, 「そのような意図を認めるに足りる証拠はなく,本件訴えが提起され

ても,その他の意見表明の手段は何ら阻害されるものではない」とした。

第2に,被告の市民らに「本件土地部分の専有権原があるか」という論

点に関連して, (1)被告市民らのテント設置が原子力発電政策についての

誇願権の行使であるという主張に対し, 「請願は,請願の事項を所轄する

官公署に請願書を提出しなければならないとされているので、あって(請願

法2条, 3条1項前段),国有地上にテントを設置して占有を継続する行

為が請願権の行使に当たると見ることはできない」とした。また, (2)表

現の自由の行使であるという主張に対しては, 「本件各テントの設置によ

り本件土地部分が排他的かつ長期的にわたって占有され,その用途が害さ

れていること」などが認められるのであるから, 「本件各テントを設置す

 

注① 平成25年(ワ)第8000号土地明波請求事件,平成26年(ワ)第27324号当事者参加事

件,判例集未登載。

 

ることに表現の自由の行使としての側面があるとしても, そのことから本

件土地部分の専有権原が認められるということはできない」とした。さらに

(3 )本件原発事故によって多くの医民が幸福追求権及び生存権を侵害

されるという事態、が生じているにもかかわらず,原子力発電所の再稼働を

行おうとする経済産業省に対する抗議のために本件各テントが設置された

のであり,幸福追求権及び生存権の行使であるjという主張に対しては,

「本件テント急設置して経済産業省に対する抗議活動を行うことが幸福追

求権及び生存権の行使であると認めることはできない」とした。

第3に,本件で問題となっている土地の部分はポケットパークであり,

経産省の事務には供されておらず, これを専有したとしても経産省に損害

は生じないとする被告市民らの主張に対して, 「本件土地部分は,一般に

歩行者が周辺の地図を確認したり,一時的な休憩を行ったりするための場

所として使用されている」のであり, 「被告らを含む本件テントの関係者

がデモや記者会見等を行った際,多数の者が本件各テント前にあふれで歩

行者の通常が妨害されていることが認められるのであ」り, 「本件土地部

分の使用が妨げられていることは明らかであるから,原告に損害が生じて

いないということはできない」とした。

 

3.「宿営型表現活動」とは何か

本件市民らによる, テントを設営し, そこに寝泊まりして意見表明活動

を行う, いわば「宿営(エンキャンプメント)型表現活動②」は,集会や

デモ行進とならんで,表現活動の有効な方法である。また, 一時的な集会

 

注② 本稿で使用する「宿営型表現活動」とは聞き慣れない言葉であろう。具体的には

「テント設営および泊まり込み」による表現活動を指す言葉として使用している。

「宿営」とは英語のEncampmentにあたる言葉であり,通常は「(とくに軍隊)の野

営あるいは露営」としての意味に使われるが.本稿では「テントにより作られた一

時的な治まり込み(The temporary quarters,formed by tents)」(The Oxford English

Dictionary,Vol.Ⅲ,1969,p. 142)の意味として使用する。

 

やデモ行進とは異なり,長期的・継続的に意見表明や政府に対する異議申

立て活動を行い社会的注目を集めることにより,多元的な議論を喚起する。

さらには,そこに集まる人々が起居を共にすることにより連帯感を高め,

意見交換や情報交換を可能にして議論を深めることが期待される。まさに,

表現の自由の有する「自己統治の価値」と「自己実現の価値」に合致する

活動といえよう。

こうした「テント設営と泊まり込み」による宿営型の意見表明活動は,

国内外で,注目を集めている。

2014年7月,沖縄の辺野古基地移設問題で,辺野古移設反対派が,座り

込みなどの反対の意思表示と反対運動の拠点にするため,キャンプ・シュ

ワブゲート前の歩道にテントを張ったことは記憶に新しい。

海外でも, 2011年に,アメリカのニューヨーク・ウオール街で,財界の

経済政策を批判する市民らが近くの公園にテントを設営し,泊まり込みに

より反対の意思表示を行っている。また2014年には,中国でも,香港の選

挙制度の改善などを要求する市民らが,中心街を占拠した。

筆者は,本件訴訟について,被告の市民らの要請に応じ,本件を担当し

た東京地方裁判所民事第37部に,憲法学的視点から「いわゆる『経産省前

テントひろば』に関する憲法学的意見書一表現の自由とエンキャンプメン

トの自由」と題する意見書を提出した。東京地裁判決が下された今,筆者

は,意見書に若干の加筆修正を施し学術論文として,世界的な潮流となり

つつある「テントの設営および泊まり込み」による「宿営型表現活動」の

憲法的位置づけをめぐり,憲法が保障する表現の自由を基軸に,憲法学界

に問うべく公表することとした。

本稿では,以上のような宿営型の市民運動が,市民の直接行動による新

しい民主主義運動の起点になることを期待しつつ, 「経産省前テントひろ

ば」における本件市民らによる「宿営(テントの設営および泊まり込み)」

とそれによる意見表明・請願活動を,一時的に公開の空間(パブリック・

フォーラム)を利用した「集会活動」の一類型と位置づけた上で,憲法21

条l項の「集会の自由」の保障を受けるものであるのか否か,また「集会

の自由」による保障を受けるとした場合,経産省による本件提訴は,本件

市民らの「集会の自由」を違法に制約するものであるのか否かについて,

憲法学的視点から検討する。

 

Ⅱ. 「宿営型表現活動」と集会の自由

 

1. 「集会の自由」の内容と意義

憲法21条l項は, 「集会,結社及び言論,出版その他一切の表現の自由

は,これを保障する」と規定し, 「集会の自由」を表現の自由の一形態と

して保障している。

第1に,集会とは, 「多数人が政治・経済・学問・芸術・宗教などの閑

題に関する共通の目的をもって一定の場所に集まること③」をいう。

集会を行うためには, 一定の空間(場所)を必要とするが,それは公園,広場,

公関空地など屋外の公共施設から公会堂など屋内の公共施設を含む。

また集団示威運動が「動く公共集会④」とされ,集会の自由に含まれると

解されていることから,遭路もその本来の利用目的の一つとして集会およ

ぴ意見表明のための施設として位置づけることができる。

第2に,表現の自由の一形態としての「集会の自由」とは,単に「多数

人が共通の目的をもって集合する自由」のことをさすのではなく, 「集団

としての意思形成やその意思を実現するため集団としての行動をとること

 

注③ 芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法・第六版』(岩波書店. 2015年)213頁。芦部は

続けて次のように言う。「集会する場所は,公園・広場などの屋外のものから公会堂

など屋内のものにわたる。特定の場所でなくても,集団行進,集団示威運動(デモ

行進)のような,場所を異動する場合を含めて考える説が有力である」(同)。

注④ 宮沢俊義『憲法Ⅱ・新版j(有斐間. 1971年)378頁。

 

がその自由の内容となっている⑤」といえる。

したがって, 「集会の自由」で保障されるべき内容をより厳密にいうと,

「目的,時間,方法のいかんをとわず,集会の開催,集会への参加,集会

における集団の意思形成とその表明,さらにはそれへの実現行為などを公

権力が妨げてはならない」こと,つまり「公共施設の管理者たる公権力に

対し集会をもとうとする者は,公共施設の利用を要求できる権利を有す

る」ものとされている⑥」

言い換えれば, 「集会の自由」が保障されるためには,集会の開催・参

加・意見形成と表明に対する公権力による規制はもとより,集会の「実現

行為」をも公権力により妨げられではならないものとされているのである。

第3に, 「集会の自由」は, 「多数者が集合する場所を前提とする表現活

動であり,行動をともなうこともあるので,他者の利益と矛盾・衝突する

可能性が高いので,それを調節するためには必要最小限の規制を受けるこ

ともやむを得ない⑦」といえる。

こうした目的を持つ「集会の自由」の意義としては,以下の点が重要で

あることが指摘されている⑧。

第lに,巨大な資金力を持つマス・メディアによる言論市場の支配的独

占状慈により阻害されている「一般市民」の意見表明権の保障という点で

ある。

すなわち,情報の「送り手」であるマス・メディアの言論市場の支配状

 

注⑤ 伊藤正己『憲法・第三版』(弘文堂, 1995年)293頁。最高裁判例も, 「集会は,

国民が様々な意見や情報等に接することにより自己の思想や人格を形成,発展させ,

また相互に意見や情報等を伝達,交換する場として必要であり,さらに対外的に意

見を表明するための有効な手段であるから,憲法二一条一項の保障する集会の自由

は,民主主義社会における重要な基本的事件の一つとして特に尊重されなければな

らない」と判示している(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)。

注⑥ 伊藤・前掲注⑤『憲法・第三版』,296-297頁。

注⑦ 芦部・前掲注③『憲法・第六版』1213-214頁。

注⑧ 伊藤・前掲注⑤『憲法・第三版』. 295-296頁。

 

況のもとで,もっぱら情報の「受け手」に置かれ,資金力を持たず有効な

意見表明手段を持たない一般市民が,とりわけ政治・経済・社会問題につ

いて,自らの意見を政府や市民社会に向けて表明し,異議申立てを行う方

法として, 「集会の自由」や「集団行動(デモ行進など集団示威運動)の

自由」の保障が位置づけられる。

第2に,現代の議会政治における少数派の意見表明権の保障という点で

ある。

現代の民主政治のもとにあっては,政治的少数者は,政府の政策決定に

参加する機会がしばしば閉ざされがちである。

彼らにとっては,集会(あるいは結社)という集団を形成し,意見形成

を行い,連帯して政府に対して批判や自らの意見表明を行わざるをえない

ことになる。すなわち, 「政府や社会の支配体制に対する少数派による批

判を保障することは,民主制の維持・発展のための基本要請であり, また

少数派個人の権利や利益を保障するという人権の基本原理から生ずる要請

でもある⑨」といえる。

こうした集会の自由が有する少数者の意見表明権の保障という意義を

さらに一歩進めて, 「民主政の過程を活性化する役割」に着目し, 「選挙権

を補う参政権的要素」を重視する考え方も強く主張されている⑩。

 

注⑨ 伊藤・前掲注5『憲法・第三版』 296頁。この点に関連して,次の指摘は重要で

ある。「集会や集団行進あるいは結社といった集団的表現行為は,それじたいとし

ては無力な一人ひとりの個人の意見に政治や社会を動かしうるようなカを与える

ものとして,こんにちでは,とりわけ重要性を増しているといえる。民主主義政治

は,文字どおり一人ひとりの意見が反映されてこそ,真に実現されうるものである。

こうした集団的表現行為の自由は,こんにち,民主主義をより実質的なものとする

ための自由として, とくに強く保障されなければならないと考えるべきである。」

(浦部法穏『憲法学教室[全訂第2版]』日本評論社, 2006年. 174頁。)

注⑩ 芦部信喜『憲法学直人権各論(l) [増補版]』(有斐隠. 2000年)481頁。芦部は,

次のようにいう。集会の自由が「マスメディアを容易に利用できない一般大衆の思

想表明,とくに新しい意見,少数派の意見,または世のしきたりに反する意見など

の伝達に,不可欠な手段を提供するものとして,すぐれて民主政の過程を活性化す

る役割を果たすことは疑いない。その意味で,代議政治の運営にとって, 『選挙権

を補う参政権的要素』があると言うことができる。」

 

2. 「集会の自由の実現行為」としての「宿営型表現活動」

前述のように, 「集会の自由」の保障の目的が, 「集団としての意思形

成」と「その意思を実現するため集団としての行動をとること」にあり,

また少数者の政治参加を実質化する参政権的役割を担うことにあること,

さらには「目的,時間,方法のいかんをとわず,集会の開催,集会への参

加,集会における集団の意思形成とその表明,さらにはそれへの実現行

為」を保障することを内容とする自由であるとすれば,集団の意思形成と

その表明を行うための「実現行為」の保障が最も重要な要素となる。

その「実現行為」の保障には,政府が,集会の主催者たちに「すべての

人々に開かれた集会の場」の提供の保障を前提とし,彼らの主張する多様

な意見,政府に対する批判的見解や要求を最も効果的に政府や社会に対し

表明できる方法や手段を保障する必要がある。

その方法は,他者の自由や権利を害しない平和的な方法であることを前

提とする,集団行進や示威運動をはじめ,多種多様な形態が考えられる。

「経産省前テントひろば」における「宿営型表現活動」も,集会を行う

ための「実現行為」として効果的な方法と考えられる。

すなわち,誰もがアクセスできる「公開の空間」に簡易テントをはり,

そのテントを利用して寝泊まりしながら,自らの意見表明を常時行い,ま

たテントを利用して定期的に集会を開くことにより, 「恒常的・持続的な

集会」を可能にし、さらには「公開の討議の場の創設」を作り出すことか

ら,マス・メディアのように充分な資金力を持たない一般市民によるきわ

めて簡便かつ効果的なコミュニケーション活動と評価できる。

そしてこうした「テント設営および泊まり込みjによる「宿営型表現活

動」は, 「集会の自由の実現行為」の有効なる方法であるが故に,憲法21

条l項が保障する「集会の自由」の一類型として, 「宿営型表現の自由」

と命名されるべき表現権として保障されるべきである。

言い換えれば, 「宿営型表現の自由」は,一般市民が,誤った政策を強

行する政府に対して,その政策の修正変更を求めて,その意思を伝えるた

めに緊急かつ一時的に泊まり込みをする権利である。

その具体的行使にあたっては,①長期・短期を問わず持続的に,公共的

な空間を平和的に占拠して泊まり込みをすること,②複数の人聞による討

議空間を確保することによって,政府の政策に関して,意見表明を行いつ

つ,事実上の請願権を直接的に行使することを,その特徴としている。

 

3.「宿営型表現の自由」の特質一「やむにやまれぬ意見表明」

2011年3月11日の東日本大震災とそれにともなう原発事故は,現在およ

び将来にわたる甚大な被害をもたらした。

原発事故にともなう放射能汚染により,多くの市民は長期的に避難を余

儀なくされ,故郷を離れて避難所暮らしを強いられている。

これにより,避難民は,家や財産の喪失,失職,家族の離散,自治体や

隣近所などのコミュニテイの崩壊などの被害を被った。

さらには,放射能汚染は.住民に,とりわけ子どもたちに現在から将来

にわたる放射能被爆による健康被害をもたらす危険性をはらんでいる。

すなわち,原発事故は,文字通り人々から「生存の基盤」を奪い去るも

のであり, 「人間に値する生存」の基礎を大きく突き崩す, 「戦争被害」に

匹敵する「重大な人権侵害」をもたらしたのである。

このように考えると, 「宿営型表現活動」による反原発・脱原発への政

策転換の主張と政府への直接請願行為は, 「人間に値する生存」を確保す

るための原発事故の被害者による「やむにやまれぬ直接行動」であると理

解できる⑪。

さらに,こうした「テント設営および泊まり込み」による継続的な表

現・請願活動が,原発政策の直接の推進者であった経産省前で行われるこ

とは,政府および市民社会に,主張の重要性と事態の深刻さを示すために

大きな効果を持つ象徴的表現行為ということができる。

このように「経産省前テントひろば」における「宿営型表現活動」が,

「人間に値する生存」を確保するための「やむにやまれぬ直接的表現・請

願行動」であるという点を考慮した場合,憲法21条1項が保障する表現の

自由のより強い保障が求められるべきものと言わなければならない。

なぜならば,基本的人権および権利の行使および人権侵害の被害回復は,

それを強く主張して初めて実現するものであり,ましてや「人間に値する

生存」の確保を求める意見表明と請願は,まさに人権保障の根幹にある

「個人の尊重(尊厳)」に直接的に関わる問題であるからである。

 

Ⅲ. 「パブリック・フォーラム」としての「経産省前テントひろば」

1.アメリカにおける「パブリック・フォーラム」の法理

前述のように,表現活動の一類型である集会には,それを行うための手

段(言論・出版・集会・集団示威運動など)とともに,それを行うための

物理的空間,すなわち誰もがアクセスすることのできる「公共空間」(場

所)の利用が保障されなければならない。こうした言論のための「公共空

間」を「パブリック・フオーラム(公共の言論広場)」と呼ぶ。

この「パブリック・フォーラム」の概念は,アメリカの判例の中で,集

会や集団行進の自由とその場所的(空間的)限界を論じる際の法的概念と

して主張され,展開されてきた。

 

注⑪ この点について,エイエム企画編『生命たちの悲鳴が聞える福島の怒りと脱原

発テント』(エイエム企画. 2012年)を参照。この文献から,福島の原発事故の被

害者を中心とする「テントひろば」における「宿営型表現行為」が,やむにやまれ

ぬ「生命を守り,民主主義を取り戻す闘い」であることがわかる。

 

以上初出:専修大学法学会紀要『専修 法学論集』第124号 2015年7月より転載

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔study653:150828〕