「平和を追求して(Pursuing Peace)」のスローガンで行われたアラスカ首脳会談

戦争を終わらせる、もっとも手っ取り早い方法は、戦争に負けることである。(仮訳)

 〈原文: The quickest way of ending a war is to lose it. 〉

[ジョージ・オーウェル  –  ”Second Thoughts on James Burnham“から』

8月15日にアラスカで行われた米露首脳会談

〈レッドカーペットが敷かれた滑走路でプーチン大統領を歓迎するトランプ大統領〉

     [Screenshot – Youtube: https://www.youtube.com/watch?v=qfUdvmII_Qo]

ひょっとしたらと、ウクライナ和平への一縷の望みがあるかのように見えたアラスカ米露会談が終わり、あれから数週間経った今、この微かな望みは、微風を受けてフッと消えてしまうロウソクの灯のように、儚く消え失せてしまったようである。

しかし、2022年以来ずっとバイデン前大統領はプーチン大統領とのコミュニケーションを完全に断ってきたという前政権の”外交不在”の政策に鑑みれば、アラスカで、トランプ米大統領がプーチン大統領と直接、顔と顔を向き合わせて会談したということは大いに歓迎すべきことであると思う。

ウクライナ紛争は、ヨーロッパに居住する私のような者にとって、決して他人事ではなく、紛争がさらに拡大し第三次世界大戦を勃発させることになるかもしれないという危機感を抱かせる重大事である。 とりわけ、ロシアとの和平交渉を頑なに拒み、戦争を続行させることに固執するヨーロッパのエリートたちの異常な振る舞いに、その危機感がますます高まる一方の今日この頃である。

オーストラリアの歴史家、クリストファー・クラーク (Christopher Clark) 氏が自著『The Sleepwalkers – How Europe Went to War in 1914 ー 夢遊病者たち – 1914年、ヨーロッパはいかにして戦争へ突入したか 〈仮訳〉』の巻末でこう述べている:

『…..1914年の主唱者たちは夢遊病者のようであった。用心深かったが、見ることはせず、夢が脳裏から離れず、彼らが世界にもたらそうとしている恐怖の現実には盲目であった。〈仮訳〉』 [Source: P.562 – 2012年出版 ”The Sleepwalkers – How Europe Went to War in 1914”]

ヨーロッパのエリートたちは、夢遊病者のように振る舞った1914年の戦争主唱者たちと同様に、「反ロシア」のイデオロギーが脳裏から離れず、”外交”という和平への道があるという事実を無視し、彼らが固執する「軍国化・戦争への道」がヨーロッパだけでなく世界に大惨事を招くであろうという恐怖の現実に盲目であるように思える。

《首脳会談について》

事実を知ることは重要なことである。 8月15日にアラスカで行われた米露首脳会談について、西欧のマスメディアは相変わらず「なぜロシアは停戦しないのか」とロシアを批難する報道を続けている。ロシアが停戦を受け入れないのは、ミンスク合意で西欧諸国に欺かれた苦い経験があるからである。 その背景には、2022年12月、メルケル前独首相が独誌 ”ディ・ツァイト” のインタビューで、「ミンスク合意はドンバスの平和確保のためではなく、ウクライナが軍事力を強化するための時間稼ぎに過ぎなかった」と告白したことがある。これが事実である。

アラスカの首脳会談については、元イギリス外交官のアレスター・クルック氏〈*註〉が、シンボリズムについて言及された興味深い解釈をなさっているので、それを簡単に要約してご紹介させていただく:

1)会談で、ロシア側の立場が初めて傾聴され尊重された。トランプ大統領がプーチン大統領から直接、話を聴いたことは重要な転換点である。これは北アイルランド和平交渉での「突破口」に類似している。

2)クルック氏は”シンボリズム”として、滑走路にレッドカーペットが敷かれ、トランプ大統領がプーチン大統領を直接出迎えたことに言及し、これは極めて異例であり、敬意を示した象徴的な行為であると述べている。

3)  さらにボディランゲージから、トランプとプーチンの間の信頼関係と共感が見られた。これは、ロシアの孤立(“戦争犯罪者”というナレティヴ)を打破し、リセットを暗示するものであった。

4)ロシアは、持続可能な平和を実現するためには、ロシアの安全保障上の懸念に対応する必要があると主張した。トランプ大統領はこの主張を真摯に受け止めたように見える。

5)クルック氏は、ロシアがドイツによって資金提供されたウクライナの長距離ミサイル生産施設を破壊したことに触れ、これによりヨーロッパ側の立場が弱体化されたと語っている。

- 要約終わり -

〈*註〉アレスター・クルック(Alastair Crooke)氏について:元イギリス外交官。ベイルートを拠点とした”Conflicts Forum“の創設者/代表者。 同団体は政治的イスラムと西欧の対話を促進する活動を展開している。 以前は、イギリス諜報機関(MI6)と欧州連合の外交分野で要職を務めていた。[Source:Wikipedia]

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プーチン大統領とトランプ大統領の共同記者会見

さらに事実をそのままお伝えする意味で、首脳会談後に行われた記者会見で両首脳が語った会見内容を全訳してご紹介させていただく。 会談でアメリカ側とロシア側がどのような合意に辿り着いたのかは明らかにされていないが、共同記者会見の内容から判断すると、米露会談は友好的な雰囲気の中で進められたことが窺えると思う:

トランプ大統領との共同記者会見で最初にスピーチを行ったプーチン大統領。 壁にはPURSUING PEACE(平和を追求して)のスローガンが書かれてある。〈 Screenshot-Youtube link: https://www.youtube.com/watch?v=mAJiRd-MehE 〉

プーチン露大統領: 大統領閣下、皆様、私たちの交渉は相互尊重の精神に基づく建設的な雰囲気の中で行われました。

私たちは大変有益な非常に徹底した交渉を行いました。ここで再び、アメリカ側の相手方に対し、アラスカまで来訪する提案をいただいたことに感謝申し上げたいと思います。私たちの国々は海で隔てられていますが、近い隣国であるため、ここで会ったということはまったく道理にかなったことであります。

それで私は飛行機から降りて私たちが対面した時、こう言いました:『こんにちは、親愛なる隣人。お元気で、生き生きとしていらっしゃるのを見て、とても嬉しく思います」と。私は、それはとても隣人らしい親しみある言葉だと思っています。 これは私たちがお互いにかわせるような思いやりのある言葉だと思っています。 私たちは、ベーリング海峡で隔てられてはいますが、ロシアの島とアメリカの島との間にはたった2つの島しかありません。それらの島を隔てる距離はたったの4キロメートルなのです。私たちは近い隣国であり、それが事実なのです。

また、アラスカは、ロシアとアメリカ合衆国との共通の遺産や共通の歴史と深く結びついており、その地域に関連する多くのポジティブな出来事があるのは重要なことです。まだ、ロシア・アメリカ時代から受け継がれる膨大な文化遺産が存在します。例えば、正教会や、ロシア語由来の地理的名称が700件以上あります。第二次世界大戦中、アラスカはレンドリース・プログラムに基づいた、軍用機やその他の軍事機材供給のための伝説的エアブリッジ・空輸ルートの発祥地でした。

それは、広大な氷の荒野を横断する危険で過酷なルートでした。しかし、両国のパイロットたちは勝利に近づくために全力を尽くしました。彼らは命を懸け、共通の勝利のために全てを捧げました。私はちょうどロシアのマガダン市にいたところです。

そこには、ロシアとアメリカのパイロットを偲ぶ記念碑があります。さらに、そこには2旒(りゅう) の旗が掲げられてあります。アメリカの国旗とロシアの国旗です。私はここにもそのような記念碑があることを知っています。ここから数キロメートル離れたところに戦没者墓地があります。そこには、あの危険な特命任務中に亡くなったソビエトのパイロットたちが埋葬されてあるのです。

私たちは、アメリカ合衆国の市民と政府が彼らの記憶を大切に守ってくれたことに感謝しています。それは非常に価値があり、尊いことだと思います。私たちの国々が、互いを支え合い、協力し合う戦友の精神と同盟の絆のもと、共通の敵を打ち破った他の歴史的な例を、私たちは常に記憶に留めておくでしょう。この遺産は、最も厳しい状況下でも、この新たな段階において、相互に利益をもたらし、平等な関係を再構築し、育成する上で、私たちを助けてくれるであろうと確信しています。

ロシアとアメリカの間で4年間首脳会談が行われていないことは周知の事実であり、これは非常に長い期間です。この期間は両国関係にとって非常に困難な時期であり、率直に言って、冷戦以来最も低い水準まで落ち込みました。私は、これが私たちの国々や世界全体にとって利益にならないと考えています。いずれにせよ、対立から対話へと移行するため、状況を改善する必要があることは明白です。この場合、首脳間の個人的な会談は、真剣で地道な努力を条件に、当然ながら長年待たれていたものです。そして、その努力は既に進められてきました。

一般的に、私とトランプ大統領は直接的な非常によい連絡を取り合っています。私たちは何度も話し合いました。電話で率直に話し合いました。また、大統領の特別大使であるウィトコフ氏は、ロシアを数回訪問しました。私たちの顧問と外務大臣たちは常に連絡を取り合っており、ウクライナ周辺の状況が主要な課題の一つであったことを私たちは十分に理解しています。

私たちは、行政とトランプ大統領が個人的にウクライナ紛争の解決を促進するために尽力されていることを認識しています。また、彼が問題の核心に迫り、この歴史を理解しようとする努力は貴重なことです。

先ほども述べましたように、ウクライナ情勢は私たちの安全保障に対する根本的な脅威と関連しています。さらに、私が何度も述べことですが、私たちは常にウクライナを兄弟とみなしてきました。このような状況の下で奇妙に聞こえるかもしれませんが、私たちは同じルーツを共有しており、起こっているすべてのことが私たちにとっては悲劇であり厳しい痛手となっているのです。したがって、国は、この状況に終止符を打つことに強い関心を抱いています。

同時に、私たちは、紛争の解決を永続的で長期的なものにするためには、その紛争のすべての根本原因を排除し、私が何度も申し上げましたように、ロシアの正当な懸念をすべて考慮し、ヨーロッパおよび世界全体における安全保障の公正な均衡を回復させる必要があると確信しています。また、トランプ大統領が本日述べられましたように、ウクライナの安全保障も当然ながら確保されるべきであるという点についても、私たちは同意しています。当然ながら、私たちはそのために協力する用意があります。

私は、私たちが共に達した合意が、その目標に近づき、ウクライナにおける平和への道を拓いていくことに役立つよう願っています。キエフと欧州の首都[複数]がこの合意を建設的に受け止め、妨害行為をしないことを期待しています。 彼らが、裏取引を使って、挑発行為を仕掛け、芽生えた進展を妨害することを試みるようなことはしないでしょう。

ちなみに、新政権 [トランプ政権]が生まれて、二国間の貿易は成長し始めました。それは、まだ、非常に象徴的なものです。それでも二国間の貿易成長率は20% です。先ほども述べましたように、私たちの共同作業にはさまざまな局面があります。米国とロシアの投資およびビジネス協力には、大きな可能性が秘められていることは明らかです。ロシアと米国は、貿易、デジタル、ハイテク、宇宙探査の分野で、お互いに多くのことを提供し合うことができます。国際的な状況からも、北極圏での協力も非常に可能だと考えています。例えば、ロシアの極東と米国の西海岸の間などです。

全体として、両国が新たなページを開き、協力関係に戻ることは非常に重要です。ここからそれほど遠くない、ロシアと米国の国境間には、いわゆる国際日付変更線があったことは象徴的です。文字通り、昨日から明日へと踏み越えることができると思います。そして、それが政治の分野でも成功することを願っています。トランプ大統領に私たちの共同作業、私たちの会談の友好的で信頼に満ちた雰囲気に感謝申し上げます。

両者が結果重視の姿勢を持つことが重要であり、私たちは、米国大統領が何を成し遂げたいのか、非常に明確な考えを持っていることがわかります。彼は自国の繁栄を真摯に願っています。さらに彼は、ロシアにはロシア独自の国益があることを理解しています。

私は、本日の合意が、ウクライナ問題の解決だけでなく、ロシアとアメリカの間で実際的でプラグマティックな関係を回復するための出発点となるものと期待しています。

最後に、もう一つ付け加えたいことがあります。2022年に前政権と最後の接触があった際、私は前任のアメリカ人同僚 [バイデン前大統領]に、状況を「後戻りできない段階」にまで至らせるべきではないと説得しようと努めました。つまり、軍事行動に至るような状況を受け入れることは、当時から見て大きな誤りだったのです。本日、トランプ大統領が「もし私が当時大統領だったなら、戦争はなかっただろう」と述べていますが、私はその通りだと確信しています。その点を確認できます。全体として、私とトランプ大統領は、非常に良好でビジネスライクな信頼できる関係を築いてきました。この道を歩み続けることで、ウクライナでの紛争の終結に向けて、より良い結果をもたらすことができると確信しています。

ありがとうございます。

トランプ米大統領:大統領閣下、大変ありがとうございました。非常に意味深いご発言でした。私は、今回の会議が非常に生産的なものだったと確信しています。多くの点で合意が得られましたが、そのほとんどは、いくつかの大きな点についてはまだ完全に合意に至っていないものの、一定の進展はありました。したがって、合意が成立するまで合意は成立しません。

まもなく NATO に電話をかけ、適切と思われるさまざまな人物たちに電話をかけ、もちろん、ゼレンスキー大統領にも電話して、今日の会議について報告しようとします。最終的には彼ら次第です。彼らは、マルコやスティーブ、そしてここに来たトランプ政権の素晴らしい人物たち、スコットやジョン・ラトクリフの意見に同意しなければならないでしょう。どうもありがとうございました。しかし、私たちには本当に素晴らしい指導者がいます。彼らは驚異的な仕事をしてくれています。

ここには、素晴らしいロシアのビジネス代表者もいらっしゃいます。そして、皆さんが私たちと取引したいと考えていることは、ご存知の通りです。私たちは、非常に短い期間で世界中で最も注目される国となりました。そのことを楽しみにしています。取引をスムーズに進めるため、できるだけ早くこの件を解決するよう努めます。

今日は本当に大きな進展がありました。私はプーチン大統領、特にウラジーミル氏との間で、常に素晴らしい関係を築いてきました。私たちは数多くの厳しい会談、良い会談を経験してきました。しかし、「ロシア、ロシア、ロシア」というデマ [訳注:ロシアゲートのこと] に妨害されました。それは対応を少し難しくしましたが、彼は理解していました。おそらく、彼は彼自身のキャリアの過程でそのようなことを経験してきたのでしょう。彼は全てを見てきたのです。

しかしながら、私たちは「ロシア、ロシア、ロシア」というデマに耐えなければなりませんでした。彼はそれがデマだと知っていたし、私も知っていましたが、デマによって為されたことは、きわめて犯罪的なものでした。それは、私たちが国として対応することを困難にしました。ビジネス面や対応したいと思っていたあらゆる事柄においてです。しかし、このことが終われば、私たちは良い機会を得られるでしょう。

では、簡単に説明します。まず、いくつかの電話をかけて、何が起きたかを伝えるところから始めます。しかし、私たちは非常に生産的な会議を持ち、多くの点が合意されました。残っているのはごくわずかな点だけです。そのうちのいくつかはそれほど重要ではありません。最も重要なのは一つだけですが、そこへ到達する可能性は非常に高いです。その点には至りませんでしたが、達成する可能性は非常に高いです。プーチン大統領とそのチームの皆様に感謝申し上げます。チームの皆さまの中には、知っている顔もありますし、そうでない場合もありますが、新聞でよく見かける顔の方々もいらっしゃいます。あなた方はボスと同じくらい有名ですが、特にここにいるこの方です。

私たちは過去に良い会議をいくつか持ちました、そうでしょう?過去には生産的な会談をいくつか持てたので、今後もそのような会談を続けていきたいと望んでいます。今こそ、もっともも生産的な会談をしようではありませんか。

私たちは週に5千人、6千人、7千人、1万人もの人々が殺されるのを本当に防ぐのです。プーチン大統領も、私と同様にそのことを望んでいるのです。したがって、大統領殿、再び感謝申し上げます。近いうちに、また話しましょう。おそらくまた近いうちにお会いするでしょう。ありがとうござます、ウラジーミル。

プーチン露大統領: 次回はモスクワで。

トランプ米大統領: おお、それは興味深いことですね。分からないです。その件については少し批判を受けるかもしれませんが、可能性はあるかもしれません。 ありがとう、ヴラディミール。そして皆さんにも感謝します。ありがとう。ありがとう。

プーチン露大統領:本当にありがとうございます。

ー翻訳終わりー

以上

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14410:250902〕