「慰安婦」問題の最終的解決は日本政府の国際的責務

 増田都子さんが、「韓国紙:河野洋平氏「立場に変わりはない」VS産経紙」(9月6日「交流の広場」)の中で、朝鮮日報の2つの記事、すなわち「歴史問題、日本で「談話」修正論が浮上する背景」と「慰安婦:河野洋平氏「私の立場に変わりはない」」を紹介されておられます。

 そこで、私も同じ日(8月30日)の朝鮮日報のもうひとつの記事「慰安婦:日本政界の責任否定は国際社会への重大な挑戦」を紹介させて頂き、簡単な補足説明をさせて頂きたいと思います。

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慰安婦:日本政界の責任否定は国際社会への重大な挑戦
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2012/08/30/2012083000944.html
(朝鮮日報 2012年8月30日)

 日本の政界で、民主党指導部や安倍晋三元首相(自民党)が従軍慰安婦問題に関する日本政府の責任を否定したことをめぐり、国際社会に対する重大な挑戦だとの批判が出ている。

 国連は2008年、加盟国の参加の下で慰安婦問題に対する調査を行った。同年10月、国連のB規約(市民的および政治的権利)人権委員会が採択した報告書は「日本政府は第2次世界大戦中の『慰安婦』制度に対する責任を認めておらず、加害者を訴追していない」と指摘した。その上で「日本政府は法的な責任を認め、被害者の大半が受け入れ可能で、彼らの尊厳を回復させるような方法で率直に謝罪すべきだ」と促した。

 同報告書は具体的に▲全ての生存者に対する適切な補償▲生徒や一般人に対する慰安婦問題の教育▲被害者を中傷または事実を否定する行為に対し制裁措置を取ること-を要求した。

 また、09年には国連の女性差別撤廃委員会も日本政府の慰安婦問題に関する責任を指摘し、被害者への補償を促した。

 これに先立ち、米下院は07年に採択した「下院121号決議」で、日本政府に慰安婦問題の解決を促した。同決議は「日本政府による強制的な軍隊売春制度『慰安婦』は、残虐性と規模において前例のない20世紀最大規模の人身売買の一つだ」と批判。また「日本の公共・民間関係者の中には、慰安婦の苦痛に対する政府の真摯(しんし)な謝罪を盛り込んだ1993年の河野洋平官房長官による談話を弱めようとしたり、撤回させようとしている人がいる」と懸念を示した。

 慰安婦問題と関連し、韓国外交通商部(省に相当)の趙泰永(チョ・テヨン)スポークスマンは今月29日に発表した声明で「近ごろ日本の一部の指導者が、被害者の苦痛と国際社会からの厳しい指摘から目を背けている。歴史に目をつぶる国に未来はない」と日本政府を批判した。
(李河遠(イ・ハウォン)記者/朝鮮日報/朝鮮日報日本語版)
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(宇井のコメント)
この記事の中で李河遠記者が指摘している「B規約(市民的および政治的権利)人権委員会が採択した報告書」とは、以下の報告書A/64/40(Vol.1)
http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N10/490/20/PDF/N1049020.pdf?OpenElement
であり、自由権規約(=B規約)人権委員会は同報告書第85段落で、日本が提出した第5回定期報告(CCPR/C/JPN/5)に対して採択された結論的意見を記している。その中で人権委員会は、3項目の積極的側面と29項目の懸念事項と勧告を述べており、第22項で次のように述べている。

(22)委員会は、締約国が第2次世界大戦中の「慰安婦」制度に対する責任を未だ受け入れていないこと、加害者が訴追されていないこと、犠牲者に支給された補償金が公的基金ではなく民間の寄付金から支払われ、しかも不十分であること、「慰安婦」問題への言及を含む歴史教科書がごく少数しかないこと、一部の政治家とマスメディアが犠牲者を侮辱し続け、あるいは出来事を否認し続けていることを、懸念を込めて指摘する(第7、8条)。

 締約国は、犠牲者の大多数が受け入れられるような仕方で、「慰安婦」制度に対する法的責任を認め、率直に謝罪し、彼女たちの尊厳を回復すべきである。そして、まだ生存している加害者たちを訴追し、権利の問題としてすべての生存被害者に十分に補償するための、即時かつ効果的な立法上・行政上の措置を採るべきである。そして、この問題について生徒たちや一般公衆を教育し、犠牲者を侮辱したり、出来事を否認したりしようとするすべての試みに反論し、制裁措置をとるべきである。

 また、李河遠記者が言及している女性差別撤廃委員会の指摘とは、以下の意見(CEDAW/C/JPN/CO/6)
http://daccess-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/N09/461/10/PDF/N0946110.pdf?OpenElement
であり、委員会はこの意見の第37、第38段落で、次のようにのべている。

37.委員会は、締約国が「慰安婦」の状況に取り組むために一定の措置を採ったことに留意するが、第2次大戦中に犠牲になった「慰安婦」の状況に対する永続的解決策を締約国が見出していないことを遺憾に思い、学校の教科書におけるこの問題への言及の削除に懸念を表明する。

38.委員会は、締約国が、「慰安婦」の状況に対する永続的解決策を見出すよう早急に努力するようにとの勧告を繰り返す。そのような努力には、犠牲者への補償、加害者の訴追、これらの犯罪に関する公衆の教育が含まれるだろう。

 このように、「慰安婦」問題を日本政府が責任を持って解決すること(そこには当然、被害者への補償が含まれなければならないだろう)は、今や国際的責務なのである。このところ、石原慎太郎東京都知事、橋下徹大阪市長、野田佳彦首相、安倍晋三元首相、松原仁国家公安委員長ら極右政治家に大手マスコミまで加わって、93年の河野談話の見直し・撤回を求める主張が声高に唱えられ、軍による強制連行を直接示す文書が見つかっていないから日本軍「慰安婦」問題は存在しなかったというような歴史歪曲言説が流布されているが、このような言説は国際社会では全く通用せず、日本人はいつまで経っても歴史の真実を受け入れ反省することができない民族だ、という否定的評価を強めるだけの“売国奴”的言説にすぎないのである。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion979:120906〕