9/30ちきゅう座掲載(https://chikyuza.net/archives/77092)よりの続き
序論
2.日本の現状(大まかなデッサン)
先述したように、今日の日本社会が抱える問題は、世界が抱える普遍的な問題の特殊日本的な現れだとすれば、大まかにもせよそれらの有機的な連関をイメージしておく必要があるだろうと思う。もちろんこの図式は厳密に検討されたものではなく、まだ感覚や悟性に映現した限りのものでしかない。
まず今日の世界の潮流は、矢吹晋が『チャイメリカ―米中結託と日本の進路』((花伝社2012)の中で指摘するように、米・中の二極に大きく収斂されているように思う。この大きな流れは、明らかに日本の現状を構成する主要な契機の一つであろう。それ故ここで米・中の関係について矢吹を参照にしてほんの少し触れることにしたい。
もちろん米・中関係の具体的な場面に踏み込んでの議論ではない。詳細は、直接矢吹の上掲書に当たるか、ちきゅう座に掲載された筆者の書評(「世界情勢の新たな局面(「チャイメリカ」)と日本の進路」https://chikyuza.net/archives/73643)をご笑覧いただきたい。
ここではただ次の諸点のみの指摘にとどめたい。
米・中ともに国内に大きな問題を抱えながら、外面上の相互批判と、それにもかかわらず内面的には相互依存の関係(運命共同体的関係)を取り続けていること。
国内の大きな問題とは、言うまでもなく、米国においては「新自由主義政策の破綻」であり、その結果の格差拡大と国家負債の増大である。
最近のロイターによると、「米ニューヨーク連銀が公表した第2・四半期(4-6月)の家計債務残高は前年同期比5520億ドル増の12兆8400億ドルとなり、過去最高を更新した。金融危機により落ち込んだ水準からは約14%拡大している。」「債務の返済延滞比率は4.8%で、前四半期から横ばい。ただしクレジットカードの延滞率は上昇が目立ったという。」
もともと「軍事ケインズ主義」といわれるように、大量の国家予算をつぎ込んだ民間の軍需産業と、中国、日本などによる米国債買いに支えられてかろうじてドルの世界通貨としての地位を維持してきた国である。自動車、電機、鉄鋼産業の凋落に端的に見られるように旧来の重厚長大型産業の行き詰まり(「赤さびベルト地帯」と呼ばれるかつての大工業都市デトロイトに象徴される)から、大量の失業者を抱えながら、国際競争力を海外での生産に頼り(産業空洞化)、国内ではIT産業など先端技術産業への切り替え(産業再編成)もままならないのが「貧困大国アメリカ」の現状であろう。
重厚長大型産業にこだわりながら、国内での雇用をも確保し、なおかつ貿易戦争に勝利しようとする虫がよすぎる「アメリカファースト」のトランプ大統領の登場は、全くの茶番でしかないが、この辺の事情を雄弁に語っているのではないだろうか。
一方の中国は、矢吹が指摘しているように、「飢餓輸出」による資本の蓄積(官僚資本主義の形成-強引な原蓄の歪み)が、その結果として米国以上とも言われる格差の拡大と腐敗しきった党官僚層と管理社会を生み出している。しかもこの点を放置したままで、軍事大国化を図ろうとする太子党と呼ばれる二世、三世の党エリート官僚が国を牛耳ろうとしているのである。
米・中両国の関係は、アメリカから見れば「中国は米国の銀行であり、逆らえない」し、また「中国当局はアメリカの覇権を批判し、アメリカのグローバリズムやその他の規制から自由な独立の経済圏を主張しながら、実際にやっている政策は日本以上の対米追随である」(矢吹:同書)なのである。
こうした情勢を見据えた上で、日本の現状について考えてみる。
対外的な関係から考えるなら、「戦後の日本はアメリカの属国と化している」という見方が圧倒的に強いように思う。実例としてしばしば挙げられるのは、戦後70年以上にわたり存在し続けている沖縄の米軍基地と新たな基地建設(辺野古)問題、また「思いやり予算」といわれる莫大な額の駐留米軍維持費の全面負担(グアム移転費まで日本側が負担しようとしている)、欠陥軍用機オスプレイの採用と飛行認可等々である。それ以外に、(米国の意に沿った)自民党による保守一党独裁の長期政権、司法、行政(官僚)、労働組合の体制内化、また古くは、「砂川裁判」における米国との密約や田中耕太郎最高裁長官による「跳躍上告」など、政治、経済、司法など殆ど全ての領域で、アメリカ政府の極めて強い意志が感得しうるのである。確かに対米追随だという指摘は容易に首肯しうる。(注2)
アメリカの軍備に守られ、核の傘の下で互いに抱合しあい、日米安保体制=「運命共同体」(実際にはアメリカの単なる前線基地にすぎないが)的共存共栄関係を図って来たというのが戦後の日米関係の体制側からする歴史ではなかったろうか。
しかし近年になって、こういう「日米蜜月時代」にもそろそろひびが入って来たように思われる。もちろん主要因は中国の台頭である。またEUやロシアの動向、アラブ、また南アメリカでの反米主義の広がり、などが外因として見過ごせない。
しかし、より根本的な問題はそれら外因に応対する日本自身の抱える深刻な状況にある。それは1970年代から表面化し始めたのであるが、1950年代から続いた日本産業の重厚長大型「重化学工業」主体の産業構造が大きな壁に突き当たったこと。つまり、「高度経済成長」が限界に突き当たり、「オイル・ショック」の追い打ちにあって、「減量経営」で切り抜けようとしたが、それすら一時的なものでしかなかったことが明らかになってきた(この事は例えば、奥村宏著『日本の六大企業集団』朝日文庫1994などを参照してもらえばわかる)。しかも国際情勢の急速な変化、中国産業の急成長、統一ドイツを軸にしたEUの貿易攻勢、韓国産業の飛躍的伸張、更にはインドや東南アジアの経済的躍進などによって、この壁が加速度的に重圧化してきたのである。自動車などの一部の産業はまだかろうじて持ちこたえているものの、鉄鋼産業は衰退し、造船、機械、電機、化学産業などの国際競争力は激減している。さりとて、新たな産業を中心にしての産業再編成構想は未だ緒に就く様子もない、というのが現状である。
結局のところ、日本の進路としては従来型の重化学工業を維持しつつ(つまり軍需産業への積極的な傾斜と原子力産業の死守)、海外市場の開拓(武器や原発の輸出など)、また海外への資本輸出(直接投資など)に活路を開こうとしている。
かかる事態から生じる国内の歪が、戦争のできる国への「憲法の改悪」であり、そのための布石としての「秘密保護法」や「共謀罪」といった言論弾圧である。また「減量経営」=合理化の流れは、ワーキング・プア、貧富の格差の拡大を助長し、職場内における過労死や自殺、単身赴任、長時間のサービス残業、ノルマ労働、更には非正規雇用労働者の増大につながって現れている。
因みに、好景気を演出する「アベノミクス」という虚飾に満ちた経済政策は、実際にはバブル期をはるかに超える12兆円ものカネが市場にばらまかれた結果でしかなく、2017年度上期の経常収支の黒字には海外投資による収益が多く含まれている。そのため今や日本は「貿易立国から投資立国」に変わったとも言われている。
こうした大きな構図の中で、今日的な問題を再度捉えかえしてみる必要があるだろう。ここでは「日本会議」的なものを生み出す根拠をも見据えて項を改めて検討してみたい。
(注2)米国防総省「共同防衛に対する貢献報告04年度版」によれば、日本は米国の同盟国の中でも米軍駐留経費負担で異常に突出した役割を果たしているという(「東京新聞」の半田滋のレポート)。
「02年度に日本が負担した米軍駐留経費負担額は44億1,134万ドル(5382億円、1ドル=当時の122円で計算)とされ、同盟国27ヵ国中でダントツの1位だ。続くドイツと比べ2.8倍、韓国と比べて5.2倍もの巨費を投じている。負担割合でみると、74.5%で、こちらも堂々のトップだ。
負担額は私有地の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策費などの「直接支援」と公有地の借料、各種免税措置などの「間接支援」に分かれ、それぞれ32億2,843万ドル(3,939億円)、11億8,292万ドル(1,443億円)となっている。」
「現在の負担額をみると、16年度の日本の防衛費のうち在日米軍関係経費は施設の借料、従業員の労務費、光熱水料、施設整備費、周辺対策などの駐留関連経費が3,772億円、沖縄の負担軽減を目的とする訓練移転費などのSACO関係経費が28億円、在沖縄海兵隊のグアム移転費、沖縄における再編事業などの米軍再編関係経費が1,766億円で、これらの総額は5,566億円だ。
これに他省庁分(基地交付金など388億円、27年度予算)、提供普通財産借上試算(1,658億円、27年度試算)を合わせると総額7,612億円となる。
これらが日本側の負担割合の74.5%にあたると仮定すれば、100 %の負担は1兆217億円なので、追加すべき負担は2,605億円となる。」
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion7009:171007〕