「核兵器禁止条約を忘れるな

著者: 角田暢夫  つのだのぶお : 無職(77歳)
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国連安保理の常任理事国で核を保有する五ヵ国は、世界に対して「核戦争に勝者はいない」とする共同声明を発表した。軍事的な対立を避けるために、外交的なアプローチを追求する姿勢を示したのだ。ロシアは「共同声明はわれわれのイニシアチブで作成された」と強調した。今年一月初めのことだ。
その舌の根も乾かぬ翌二月、ロシアは隣国を侵略し、プーチン大統領は「核の先制使用」を公言した。ロシアはおそらく世界で初めて、先制核使用を国家の基本姿勢とする体制となった。国際社会はウクライナ戦争を通じて、未知の領域に入ったといえる。
この春を境に、世界はいつどの国が核兵器を使うかわからなくなった。これは「核抑止力」の論理が無力化したことを意味する。核抑止力の骨組みは「戦力の均衡」を条件に成り立っている。とりわけ核抑止力の局面では「先制使用はしない」という不文律が前提となっていた。
この前提が崩れた今、頭上に核兵器をぶら下げたこの世界は、ウクライナ戦争に胸を痛めている間に、さらに危険な水域に一歩近づいたのではないか。
しかし手はある。私たちは核兵器禁止条約という、世界を安全と安心に引き戻す国際法体制を持っていることを忘れたくない。核保有有国も日本も不参加だから「役に立たない」とするのは冷笑的に過ぎる。すでに署名国・地域八十六、批准国・地域六十に達している。(二◯二二年三月現在)
初出「東京新聞2022、4、14」(許可を得て転載しました)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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