大変悲しくて残念なことですが、この1月26日に田中正司先生が肺炎でお亡くなりになりました。享年95歳でした。
先生の学問的な業績については、今さら多言を弄するまでもなく、イギリス古典経済学(特に、アダム・スミス)、哲学(ジョン・ロック)などの分野を第一級の研究者として広くカバーされてきたことは周知の事実です。
また、数多くの研究論文、あるいは啓蒙的な論著を残され、今なお我々後人を啓発し続けていることも皆様ご承知の通りです。
更に、先生は実践活動の分野でも、多くの仕事をなさってきました。学術会議などを組織され、そこで多くの気鋭の学者を育てられたこと、また在野の研究会にも積極的に参加され、一流の学者としての気取りもなく、いつも「横浜の田中です」といいながら気さくなご発言をなさっていました。
かつての全共闘の時代には、被告席に座らされた学生の弁護に、裁判所まで出向かれたこともあります。
ウェブサイトちきゅう座というミニメディアを立ち上げるときには、初代の運営委員長をお引き受け下さり、今の日本で必要なのは、広範囲な議論を喚起する場をつくることであり、議論を通じて自らの頭で考える力を養うことだとの信念から、自ら意見論文もお書きになり、「終戦特集」などの特集も企画されていました。
しかも、80歳を過ぎてから始められたコンピューター操作も、ご子息のご指導によって、少なくとも「ちきゅう座画面」のチェックまたメールの閲覧ができるまでに習熟されていました。
先生の情熱と剛直な気概には只管頭が下がるばかりです。
混迷の度を深める今、先生を失うことは限りない損失ですが、いつまでも嘆き悲しんでいるばかりでは、それこそ先生の教えに背くことになりかねません。
前を見据えて、今の住みづらい世の中を少しでも住みよい方向に切り開いて行く、その決意を込めながら田中正司先生の教えを改めてかみしめる会として、この「田中正司先生を偲ぶ会」を呼び掛けたいと存じます。
2020年2月10日
「田中正司先生を偲ぶ会」実行委員会
呼びかけ人:橋本盛作(御茶の水書房)、松田健二(社会評論社・ちきゅう座事務局長)、野沢敏治(千葉大学名誉教授)、和田重司(中央大学名誉教授)、岡本磐男(東洋大学名誉教授、ちきゅう座前運営委員長)、岩田昌征(千葉大学名誉教授)、内田 弘(専修大学名誉教授)、的場昭弘(神奈川大学教授)、竹本 洋(関西学院大学名誉教授)、只腰親和(中央大学教授)、早川洋行(名古屋学院大学教授、横浜市立大学OB・教え子)川口 顕(横浜市立大学OB・教え子)、渋谷要(元・実践社)、久富可美(ちきゅう座元事務局長)、合澤 清(ちきゅう座運営委員長)、田中聡太郎(遺族)
「田中正司先生を偲ぶ会」
日時:2020年3月8日(日)午前11:00(開場/受付)、11:30開始~15時終了
場所: アルカディア市ヶ谷(私学会館)内、中国料理「翆(スイ)」電話03-6685-0544
JR総武線「市ケ谷」駅下車、九段方向に徒歩5分
会費:5000円(料理と飲み物代を含む)
参加、不参加のご返事は2月29日までに下記宛に電話、メールまたはFaxでお願いいたします。
電話番号: 090-4592-2845(松田)又はFax03-3818-2808(社会評論社)
メールアドレス:matsuda@shahyo.com (なお、当日ご都合で出席できない方は、ぜひメッセージを左記アドレス宛お送り頂ければ幸甚です)
田中正司先生の略歴と学問実績
東京生まれ(1924年3月19日)。昭和第一商業学校(現昭和第一高等学校)を経て、戦時中の1943年、横浜市立横浜商業専門学校(旧制)(現横浜市立大学)を繰り上げ卒業後、三菱石油に入社。1945年3月に召集されるが、まもなく終戦。翌年退社し、東京商科大学(現一橋大学)本科に入学、1949年3月同卒業。実践女子学園高等学校教諭を経て、1949年6月横浜市立大学助手、1953年横浜市立大学商学部専任講師、1955年同助教授、1967年同教授、1969年横浜市立大学学長代行補佐。1970年経済学博士(専修大学)。1978年横浜市立大学図書館長等を歴任。1984年横浜市立大学を退職し横浜市立大学名誉教授の称号を受ける。同年から1987年まで杉山忠平の後任の一橋大学社会科学古典資料センター教授。1987年一橋大定年退官。後任は古賀英三郎。神奈川大学短期大学部教授、1990年同学部長。1994年神奈川大定年退職。(『ウィキペディア(Wikipedia)』より引用)
単著
- 『現代の自由–その思想史的考察』評論社、1964
- 『増補ジョン・ロック研究』未來社、1968。新増補版、2005
- 『市民社会理論の原型–ジョン・ロック論考』御茶の水書房、1979
- 『現代の自由–思想史的考察』御茶の水書房、1983
- 『アダム・スミスの自然法学—スコットランド啓蒙と経済学の生誕』御茶の水書房、1988。第2版、2003
- 『アダム・スミスの自然神学—-啓蒙の社会科学の形成母体』御茶の水書房、1993
- 『市民社会理論と現代-—現代の思想課題と近代思想の再解読』御茶の水書房、1994
- 『アダム・スミスの倫理学—『道徳感情論』と『国富論』』上下、御茶の水書房、1997
- 『アダム・スミスと現代』御茶の水書房、2000 増補版 2009
- 『経済学の生誕と『法学講義』—アダム・スミスの行政原理論研究』御茶の水書房、2003
- 『日本の明日を考える—21世紀の救世主はケインズかアダム・スミスか』実践社、2004
- 『現代世界の危機とアダム・スミス』御茶の水書房、2009
- 『アダム・スミスの認識論管見』社会評論社、2013
編著/翻訳
- 『ジョン・ロック研究』(イギリス思想研究叢書、平野耿共編)御茶の水書房、1980
- 『ロック道徳哲学の形成』新評論、1985
- 『スコットランド啓蒙思想研究—スミス経済学の視界』北樹出版、1988
- J.S.ミル「ベンタム論」、スピーゲル編『古典学派–経済思想発展史2』東洋経済新報社、1954
- ジョン・ロック『利子・貨幣論』(竹本洋と共訳)東京大学出版会、1978