「砂川事件判決は無効」 免訴判決を求めて再審請求をしています

著者: 吉沢弘久 よしざわひろひさ : 伊達判決を生かす会
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安倍政権は、2014年に強行成立させた安保法の合憲の法的根拠に砂川事件最高裁判決(1959年12月17日・田中耕太郎最高裁長官・裁判長)を持ち出しました。しかし、伊達判決(1959年3月30日)を破棄・差戻しにしたこの最高裁判決は、田中裁判長が裁判中に米国に裁判情報を漏洩していたことが明らかになったことから、憲法37条1項が定める「公平な裁判」とは言えず「免訴」(裁判自体を無効とする)とされるべき裁判の判決で、法的に無効なものだったのです。私たち「伊達判決を生かす会」は、この最高裁裁判と判決を「免訴」にすることを求めた再審請求を2014年6月17日に東京地裁に提出しました。東京地裁は2016年3月8日に、この請求に対し全くひどい理由を作って「棄却」の決定を出しました。私たちは、この決定は不当であるとして直ちに東京高裁に即時抗告をし、東京高裁は間もなく「再審開始」か「棄却」の決定を出すと思われます。

最高裁判決は安保法合憲の根拠とはなりえない

「日米安保条約に基づく在日米軍は憲法9条2項が禁止する日本の戦力にあたる。米軍基地への侵入に対して、軽犯罪法より重い刑罰を科す安保条約に基づく刑事特別法を適用することはできないので全員無罪。」という東京地裁1審・伊達判決(1959年3月30日)が出ました。安保条約の改定交渉を急いでいた日米の政府は、この判決が改定の妨げになることを恐れ、案件を高裁を飛ばす跳躍上告を行いました。これを受けた最高裁は、田中耕太郎最高裁所長官が裁判長となりわずか9か月後に破棄・原審差戻しの判決を出しました(1959年12月16日)。その結果、1960年1月に日米安保条約・日米地位協定(行政協定)改定の調印が可能になり、60年の安保闘争がありましたが、今日まで続く日米安保条約・地位協定が成立したのです。

最高裁判決では、「国連憲章が個別的・集団的自衛権を認めているので、軍備を持たない我が国は自衛のために日米安保条約を結んでいる。安保条約のような高度な政治的事項は司法の判断にはなじまない」として、安保条約の締結権を日本が持っていることを認め、条約が合憲か否かの判断は政府や国会が行い、司法の判断の外である(統治行為論)としています。60年近く前のこの判決に、集団的自衛権行使容認の根拠を求めるのは全くのこじつけ以外の何ものでもありません。

さらにもっと重大なのは、この最高裁の裁判は、裁判長の田中耕太郎が裁判期間中にこの裁判での被害者にあたるアメリカの大使らと3度にわたって密かに会い、判決の時期、公判の期日と回数、一審批判や判決内容の予測、裁判官評議内容や自らの訴訟指揮方針などを伝えるという憲法31条1項(被告の権利)が定める「公平な裁判」ではなかったことです。裁判長が裁判の一方の当事者である被告側にはもちろん同僚裁判官にも隠れて、アメリカに情報漏洩をしていたことは、刑事訴訟法や裁判所法が求める裁判官の倫理に反し、田中裁判長が行った行為は、当時判っていれば弾劾の対象になる行為です。

田中裁判長がアメリカに伝えていた事実

伊達判決や最高裁判決が出された1959年から半世紀経った2008年に日米安保関係の資料を米公文書館で調査中の国際問題研究家・新原昭治氏が、さらにそれに続きジャーナリスト・末浪靖司氏と元山梨学院大学教授・布川玲子氏が、安保改定交渉の米国側代表であったマッカーサー駐日大使が国務省宛に送っていた伊達判決から最高裁判決までの砂川事件裁判に関する報告書簡計18通を発見入手し、公表しました。

この中に、田中耕太郎から密かに会って得られた裁判情報をマ大使が本国に報告したものが、4月26日付、8月3日付、11月5日付の3通あります。4月26日付では「田中が内密の会話で、砂川裁判は優先して扱うが結論を出すまでには数か月かかるだろう」、8月3日付では「公判を9月に集中して開き弁護団の引き延ばしをさせない。結審後の評議が実質的に全会一致となり、少数意見が回避されることを希望する」、11月5日付「判決は来年初めまでに出す。評議で一審は支持されていない。憲法問題で一審が判決を下すのは間違い。」などがその概要で、田中の直接の言及や彼の表情・態度から得た裁判情報を報告しているものです。

無茶苦茶な東京地裁決定

私たちの再審請求は、この3通のマ大使の報告を新証拠として「免訴判決」を求めたものです。これに対し東京地裁は、昨年3月8日に、この新証拠の存在は認めたものの、この新証拠を勝手読みをして「請求棄却」の決定を出したのです。地裁のこの新証拠の読み方はまったくひどいもので、そのいくつかを示します。

マ大使の報告には、「内密の会話で」「共通の知人宅で」と書かれているのに「最高裁長官が米国大使らと会うのは『国際礼譲』(儀礼的公式的な催し物)で会ったのであろう」としています。マ大使の報告は田中から得た裁判情報を具体的に述べているのに、「田中が最高裁裁判の一般的な制度的な話をしたのを、マ大使らが勝手に推測をして砂川裁判の具体的な情報として報告したのであろう」というのです。いやしくも外交官が、裁判長の一般的な説明から推測しで作り上げた具体的な裁判情報を本国に報告するなどということはあり得ません。外交官が根拠のない間違った情報を報告することなど許されることではありません。地裁はこのことを全く考慮せずに決定を書いたのです。11月5日付の報告について、地裁決定は、「田中が『一審が憲法判断をするのは間違い』と言うのであれば、「田中ほどの人だから、その結論の『一審破棄』という筈なのに『破棄』という結論を明言されていない。だから、田中の話の中に、一審判決の憲法判断是非論はなかったのであろう」と、報告に書かれていることを無かったことにしてしまっています。

司法界の一部には「神様」的存在として今日まで祭られている田中耕太郎の違法行為は何としても認められない、あるいは安倍政権が今の政治状況を作り出すのに使った法的根拠は守らなければならない、ということから、地裁は、「田中の不法行為はなかった、裁判は公平であった。」という先に出している結論に結びつくように、新証拠の無茶苦茶な解釈をしたことが歴然としています。こんなことが今日の司法で通るのを許すわけにはいきません。

東京高裁決定が間もなく出ます

不当な地裁決定に対し2016年3月11日に私たちは、東京高裁に即時抗告をしました。今年の2月17日には、請求人の意見は文書で出すのが通例で再審請求では異例なことだそうですが、非公開ではありますが法廷で請求人(土屋源太郎・元被告ら4人)の意見陳述が行われました。この時に裁判長から「決定は2~3か月後に出すだろう」と言ったのですから、遅くとも5月中には高裁決定が出るであろうと想定されます。

吉永満夫弁護士(横浜事件の再審裁判弁護団で「司法は崩壊している」日本評論社刊の著者)が代表を務める5人の常任弁護団は、高裁の即時抗告にあたっても、地裁決定の内容のでたらめさ(新証拠の勝手読み、弁護人意見書の無視、判例の誤引用など)を明らかにし、新証拠の読み方、新証拠が語る田中の行為の違法・不法性、「公平な裁判」論、「免訴」論など、免訴判決を求める再審請求の必要性・正当性を、種々の判例や学説に言及しながら、提出した即時抗告書・補充意見書を数度にわたって高裁に提出してきました。弁護団は、高裁が地裁と異なり、「再審開始決定」という正しい結論を出すような法廷活動を展開してきました。検察側は、地裁で審理の際に出した意見書のみで高裁審理では何も新しい意見書を出してはいません。高裁が純粋に司法の立場を貫けば「再審開始」の結論を出す筈です。「棄却」の決定を出すとすれば、どんな理由をつけるにしても高裁も政治的に動いたと言わざる得ません。

仮に、高裁決定が「再審開始決定」であれば検察側が、「棄却決定」であれば請求人側が、最高裁に特別抗告をすることになるでしょう。いずれにしても、再審開始までの道のりは長く険しいものでしょうが、私たちは、最高裁判決は「法律上無効」なものであることを世論にも訴えながら、安保法を成立させ、憲法改悪、「戦争ができる国」から「する国」への道を走っている安倍政権に、砂川事件裁判の再審・「免訴」判決を実現して、反撃の一つにしたいと思います。

6月4日(日)13時半~16時半 文京区民センターで「伊達判決58周年記念集会」でこの再審請求に関する報告も行います。ぜひお越しください。

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