2011年3月23日 柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会
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福島第一原発では、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震発生から10日以上を過ぎた今も、原子炉炉心の冷却が進まず、この重大事故がどのように収束するのか予断を許さない深刻な事態が続いています。
現在の事態が示しているのは、日本全土に立地する原発が、地震・津波に対して、いかに脆弱であるか、他の場所で大きな地震が起これは、第二、第三の「福島原発震災」が再現する可能性が十分あるということではないでしょうか。とくに、2007年の新潟県中越沖地震で被災した柏崎刈羽原発、想定東海地震の震源断層真上の浜岡原発などで、近い将来、福島原発と同様の事故が起こる危険性を過小に見積もることはできません。
先の地震で被災した柏崎刈羽原発の安易な運転再開を危惧してきた私たち「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学昔・技術者の会」では、この深刻な事態をどのように受け止めるべきか、また、事業者や政府に何を要求すべきかを議論しました。私たちの考えは以下の通りです。
1.福島原発では何が起こり、今どういう状態にあるのか
情報の公開が不当にも極めて不十分な現状において、明確な事故進展経過を描くことはできない。また、炉内の計測器(温度計など)の多くが破損されたと思われる状況では、今後とも真相が分からぬままに終わるという可能性もある。知りえた情報のもとでの私たちの現状認識は次の通りである。
福島第一原発では、1号・2号・3号機が運転中であり、4号・5号・6号機は定期検査中であった。また、第二原発では全4基が運転中で、運転中の原子炉は、地震の際、いずれも制御棒が自動挿入され、燃料の核分裂反応は停止した。しかし、福島第一原発では外部電源が喪失し、しかも、非常用のディーゼル発電機が故障し、燃料タンクも流出したと伝えられている。その結果、停止後直ちに必要な炉心冷却が不可能になった。
・原子炉圧力容器と格納容器
冷却水を喪失した福島第一原発の1号・2号・3号機内では、核分裂生成物の崩壊熱によって炉水が蒸発して水位が下がり、燃料棒が水面上に露出してしまった。この状態が継続すると、燃料棒の溶解(メルト)は時間の問題であった。
東京電力は、外部から消防ポンプを配管につなぎ原子炉内に水を注入しようとしたが、給水タンクから水を供給できなかったためであろう、注水に失敗し、炉の水位は低下し続けた。1号機においてそのような事態が確認された時点で海水を用いての給水が検討されたが、原子炉が廃炉となることを怖れて見送ったと伝えられている。海水による給水が決断されたのは1号機の水素爆発が起こってからであった。この間に事態は急激に悪化していた。
炉水が蒸発して原子炉圧力容器内の圧力が上昇すると、その圧力を低減するため、安全弁が開き、圧力容器内の水蒸気が、格納容器の圧力抑制室(サプレッションチェンバー)に送られるようになっている。そのとき、圧力容器内の水位が下がるので、安全弁を継続的に開いていると、燃料棒が水面の上に露出する。冷却水を失った燃料棒の温度が上昇し、燃料棒の被覆管であるジルコニウム合金(ジルカロイ)が、水蒸気と化学反応を起こし、水素が発生したと考えられる。
この格納容器に送られた水素が、1号、2号、3号機の爆発の原因であると考えられるが、1号と3号では建屋上部で水素爆発を起こし、2号は下部の圧力抑制室で爆発がおこった。なぜそのような違いが生じたかは検証が必要である。2号機の圧力抑制室をけじめ、各号機の原子炉や配管などが、地震の影響で、すでに破損していた可能性がある。
・使用済み燃料プール
3月15日に、4号機の使用済み燃料プールで水素爆発が起こり、続いて16日に3号機が白煙をあげた。これは、炉内から取り出して保管されていた使用済み燃料が、プール内の水が減ったことにより大気中に露出し、水蒸気と反応して発生した水素が酸素と反応して爆発を起こしたと考えられる。
プール内で燃料棟が露出した原因としては、通常の蒸発だけでなく、地震の際のスロッシング(燃料プールが揺さぶられたことによって水面が上下すること)によって、プール内の水が、大量にこぼれて出だのではないかと考えられる。
3号機・4号機の燃料プールには、その後、消防車等による海水の放水がおこなわれたが、最終的には電源を回復してポンプを起勤し、冷却水を循環させることが不可欠である。
なお、3号機、4号機への大量の放水によって、放射能に汚染された水が海や地下水に流れ込むことが懸念され、実際、すでに原発近辺の海からは規制値を大幅に超えるヨウ素ならびにセシウム等の放射性物質が検出され始めた(3月22日 東電発表)。
・さらなる事故拡大の懸念
3月21日こなって原発サイトには外部電源が引かれたが、23日朝の段階で、いまだ機器への接続はなされていない。いつになったら原子炉内の冷却水の循環が正常に行われるのか、見通しは立っていない。崩壊熱の量は時間とともに減少するとはいえ、現在かろうじて維持されている放熱と冷却とのバランスが崩れて、溶けた燃料が沈下し、圧力容器や格納容器の底を抜く危険性は消えていない。また、再臨界の可能性もある。
東京電力は、3月14日と15日に中性子線の放出を観測したと報道されている。これが事実だとすれば、再臨界が起こって核分裂反応が生じた可能性かおる。再臨界は、原子炉内だけでなく、燃料プールでも起こりうる。地震の際、クレーンやマニピュレーターが落下し、燃料棒を隔離・保持していたラックが崩れ、燃料棒同士が接近した可能性が否定できない。
2.放出され続けている放射能の危険性について
福島第一原発からの放射能(放射線物質)の放出が続いている。原発敷地周辺で高濃度の汚染が観測されるとともに東日本の広い範囲にわたって原発事故に起因する放射能が観測された。福島県や関東各県では農産物(牛乳やホウレン草)で食品衛生法の暫定基準値を超える汚染が報告された(3月21日)。また、原発サイト周辺の海水の汚染も確認され、海産物への影響も心配である。
放射能汚染のレベルをどのように考えるべきなのか、避難の行動をとるべきなのかどうか、また農産物を食べてよいのかどうれそれらの問題について私たちの考えを述べたい。
放射性物質の放出量について東京電力は何らの発表を行っておらず、そのことが放射能汚染の全容を把握することを困難にしている。また観測モニタの測定値についての報告も不十分である。各都県の測定値と、それにもとづいた拡散シミュレーションも発表されていない。このような状況が、汚染についての適確な判断を下すことを困難にしている。
私たちが汚染状況を判断し、行動するに当たって、外部被曝と内部被爆とを明確に区別して考察することも不可欠である。原発サイト内あるいは上空での放射線量には、露出した燃料棒からの直接的な放射線量の寄与も大きいと考えられるが、原発近隣を含め、そこから離れた地域での放射線被爆は、大気中に放出された放射性物質からのものである。これらは外部から放射線をあびせるだけでなく、体内に取り込まれて内部被曝を起こす。
体内に取り込まれた粒子から放出されるアルフア綿々ベータ線は飛程が短く(アルフア線では40μm程度)その粒子からのごく近くの組織を集中的に破壊するので、がん発生率が大きくなる。そのような効果を考慮すると、被爆線量規制値はICRP報告より厳しく評価すべきだという見解も出されている。
・原発サイトにおける被曝労働
原発サイトでは、敷地内のモニタや上空で 100mSv/hを超す高い放射線量が観測され、作業も度々中断されている。原子炉を安定化させ危機を回避するための作業は、緊急に行わなければならないが、作業員(東京電力と下請け企業の社員、消防隊員、自衛隊員等)の被曝労働は極力避けねばならない。厚生労働省は被曝線量限度値(法定限度)を100mSVから250mSVに引き上げた。これが、作業における被曝線量を過小評価することや、被曝労働の強制につながるものであってはならない。
・周辺30km圏での退避の必要性
原子力安全委員会の定めた防災指針の規準(予測線量50mSV以上で退避、10mSV以上で屋内退避)を適用するに当って、どのような予測にもとづいて現在の退避範囲(福島第一原発から20km圏内は圏外への退避、30km圏内は屋内退避が設定されたのかが不明確である。事態を過小評価している危険が大きい。特に30km圏内の屋内退避を強いられている方々には、救援物資が滞る(運送業者が立入りを望まない)という事態が生じており、一刻もはやく圏外退避を決めるべきことを政府に求める。
・周辺80km圏内からの退避について
アメリカ政府は、福島第一原発周辺80km(50マイル)圏内からの自国民の退避を決め、多くの国々も同様の措置をとっている。この判断は一定の根拠にもとづいておこなわれたものであると考えられるので、その地域に居住する日本人にも何らかの危険が生じうると考えるべきではないか。
実際に圏外に退避できるかどうかは、生活環境や、周りの人びととのつながり、退避先の有無など条件はさまざまであろう。しかしながら、妊婦(胎児)・幼児・青少年など被曝の影響が大きく現れる人びとは、優先して退避させるべきである。
・首都圏など200km圏内での対応
首都圏など200km圏内でも、1μSv/hに達する放射線量が観測されている。この放射線量を1年間(8760時間)浴び続けると8.76mSvとなり、公衆被曝の法定限度1mSv/年を超える。日本人が浴びるとされる自然放射量1.2mSv/年と同程度であるとされるが、内部被曝が加わることを考えると、この線量を被曝し続けて安全だとは言えない。
問題は、事態がどのような期間ののち収束に向かうのかである。原発サイトで何か起こるか、放射能の放出量がどう変化するか、注意深く監視していく必要がある。
・農作物などへの影響
福島県内の牛乳、茨城県など関東各県の野菜(ホウレン草など)に食品衛生法の暫定基準を超える放射能汚染が検出され始めた。食の安全が脅かされつつある。また、原子力災害対策特別措置法の規定にもとづいて出荷停止措置が発動され、生産農家は農産物の廃棄を余儀なくされている。このような事態を招いた政府や東京電力などには、しかるべき補償を行う責任がある。この状態がいつまで続くのか、場合によっては東日本各地の農業生産が大打撃を受けようとしている。このような被害を最小限に抑えるためにも、これ以上の放射能放出の防止と、原子炉および燃料プールの冷却機能回復が急務である。
3.柏崎刈羽原発被災の経験は生かされなかった
今から考えれば、かろうじて大事故に至らなかった柏崎刈羽原発の被災は、日本の原発政策への警告であった。私たちはこの4年間、そのことを言い続けてきた。しかし、不幸にも、柏崎刈羽の経験は生かされなかった。そのことに私たちは強い憤りを感じている。
・地震・津波の過小評価
今回の原発事故はM9.0という巨大地震と津波によるものであって、想定外のことであったという「言い訳」が、今まで原発災害の可能性を否定してきた人たちの口から出はじめている。しかし、私たちは2004年12月26日にはM9.0というスマトラ沖地震と大津波を経険しているのであって、今回の地震を想定外のものというわけにはゆかない。津波(地震随伴事象という名称で審議されている)の予測は不十分であり、実際、流出したとされる第一原発の燃料タンクは水面近くに設置されていて無防備だった。
・海水注入の遅れ
伝えられるところによれば、東京電力は地震発生の翌日の3月12日午前という早い段階で、付近の海岸からの海水注入を検討したという。しかし、東電がそれを実施しだのは、炉内の状況が悪化して、1号機の爆発が起って、首相が海水注入を命じた同日の夜になってからだった。ほかの原子炉ではさらに遅れ、13日以降になった。燃料プールへの注水も火災爆発が発生した15日になってからだった。これらの注水の遅れが事故をさらに拡大させた。
東京電力が海水注入を渋ったのは、そのことにより原発施設が二度と使えなくなることを恐れたためだと言われている。もしそうであるならば、安全欧よりも利益を優先するこの東京電力の姿勢、それに追従する原子力安全・保安院、学者という構図は、柏崎刈羽原発の運転再開に際してのいいかげんな安全審査の構図と同様のものだった。
・情報公開の遅れ
発電炉内のさまざまな設備の破損状態や原子炉運転操作上重要な炉内各パラメータのデータがなかなか開示されず、現在でもまだリアルタイムでの開示がなされていない。これらの情報を広く開示することは、当事者のみならず、かたずを呑んで見守っている多くの科学者・技術者が、今後の状況を予測し、適切な助言をするためにぜひとも必要なことである。例えば海水圧入についての助言をより早く官邸に届けられた可能性かおる。
放射性物質の放出量についての情報についても同様である。今もって放出量の推定値が発表されていない。サイト内の放射線モニタリングポストのリアルタイムの情報も公開されず、それらのポストの増設や常時の監視ビデオ設置もされていない。また、政府は、福島県内外各地の放射線モニタリングポストのデータを集約し、放射能拡散予測のシミュレーションを行って結果を連やかに公開してゆくべきであるが、それもされていない。
4.柏崎刈羽原発の今後についての要求
柏崎刈羽原発に反対する地元三団体と「原発からいのちとふるさとを守る県民の会」は、新潟県知事、柏崎刈羽市長、刈羽村村長および東京電力社長宛に、運転再開された4基の原発の即時運転停止を求める申し入れをおこなった。私たちは、この申し入れを強く支持する。
また、このような原発災害を予測せず、その可能性を否定してきた学者たちが県技術委員会委員などとして安全審査に当たっていることに異議申し立てをしていることを、私たちは支持する。技術委員会メンバーを刷新し、原発の安全に対して懸念を示してきた学者や現場を知る技術者、および市民のなかから選ばれたメンバーによって再構成することを求める。
国の原発安全審査に当ってきた原子力安全・保安院と原子力安全委員会の責任は重大である。日本の安全審査の体制は、米国の国家規制委員会(NRC)などにくらべてもいちじるしく見劣りするものである。想定をはるかに上回った地震動を受けた柏崎刈羽原発の経験を踏まえて、国は全国各地の原発のバックチェック (見直し)を実行し、福島原発もそのなかに含まれていた。しかし、その見直しが甘いものであることが今回の「原発震災」で明らかになった。
「柏崎刈羽原発の閉鎖を訴える科学者・技術者の会」に結集した科学者・技術者は、市民と協力しながら、地震動評価や設備機器の耐震安全性評価について、折に触れ意見を述べてきた。自然を対象にした地震動評価のみならず、入が作る設備機器の安全性評価においても、未知な領域が存在することによる不確実性がかならず伴うものである。それを「まれ」な事象であるとして「工学的判断」の名のもとに切り捨て、被災した柏崎刈羽原発の運転再開が進められてきた。そのような評価のあり方が間違いであることを私たちは訴えてきたが、今回の「原発震災」でそれが明らかになった。
私たちは、日本から「原発震災」をなくす活動を今後も続けてゆく決意である。
以上
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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