「緊急声明:問題を放置したままの住友商事の撤退は許されない 株式売却前にフィリピン・バナナ生産現場での労働・人権問題に責任ある対応を!」 2019 年 6 月 19 日

 2019 年 6 月 18 日、住友商事株式会社(以下、住友商事)はバナナ取扱量 No.1を謳うスミフル(旧:住商フルーツ)グループの親会社にあたる Sumifru Singapore Pte. Ltd の株式の全持分 49 パーセントを 2019 年度上半期の間に売却することを発表しました。私たちは、住友商事がその株主としての権利と責任を有する間、つまり、株式の売却完了前に、国連グローバルコンパクト署名企業(※)として、しかるべき対応の下に自社のグループ企業がフィリピンで行ってきた人権侵害による被害を清算し、問題解決を図った上で完全撤退することを強く求めます。具体的には、昨年 10 月にストライキに参加し、現在も事実上解雇された状態にある労働者らを速やかにスミフル・フィリピンが直接雇用する正規職員として復職させ、労働環境の改善に向けた団体交渉に真摯に臨むことを求めます。

 スミフルグループのフィリピン法人 Sumifru (Philippines) Corporation(以下、スミフル・フィリピン)は、その管理下にあったミンダナオ島コンポステラ・バレー州のバナナ梱包工場において協同組合を請負事業者とし、当該工場で働く労働者らを自社の社員ではなく請負事業者における非正規労働者としていました。しかしながら、当該工場の労働者らは、この請負構造が Labor Only Contracting、すなわち日本で一般的に知られるところの「偽装請負」にあたるとして、スミフル・フィリピンとの直接の労使関係が存在することを主張し、伴ってスミフル・フィリピンにおける労働組合を結成するための手続きを2008 年から進めてきました。この労働者らの主張は労働雇用省南ミンダナオ地域事務所によって同年 6 月に認められており、その後スミフル・フィリピン側が異議申し立てや控訴を繰り返したものの 2010年には労働雇用大臣が、2012 年には控訴裁判所が、そして最終的には 2017 年に最高裁判所がいずれも会社側の申し立てを棄却。当初の労働雇用省南ミンダナオ地域事務所の判断を支持し、労働者らの主張を認めました。そのことで、労働者らのスミフル・フィリピンにおける正社員化と労働組合結成選挙の有効性を最高裁判所が認めるところとなりました。

 しかし、2019 年 6 月 19 日現在、直接の正社員となる権利を獲得した当該労働者の中で実際にスミフル・フィリピンの正社員として雇用されている労働者は一人もいません。結成された労働組合 NAMASUFA との直接の団体交渉にもスミフル・フィリピンは一度も応じていません。最高裁判所による判決を経てもなお不履行が続いている状況を受けて、労働者ら 749 名は 2018 年 10 月 1 日にストライキを決行しました。しかし、10 月 3 日と 11 日、ピケを張っていたストライキ中の労働者らをフィリピン警察・国軍に支援されたならず者が襲撃し、労働者に対して殴る・蹴るなどの暴行を加え、ストライキ中の労働者計 27 名が負傷しました。以降もストライキに参加する労働者のもとへ様々な嫌がらせが続いており、10 月 31 日午後 18 時ごろには NAMASUFA 組合員でストライキ参加者でもあった Danny Boy Bautista 氏が何者かに殺害され、11 月 11 日にはやはり組合員である Jerry Alicante 氏が銃撃され、11 月 30 日と 12 月 15 日の二度にわたって組合委員長 Paul John Dizon 氏の住宅が放火されています。多くの労働者やその家族の下にならず者が訪れ、「組合を辞めなければひどい目に合う」と脅す事件もしばしば起きています。

 さらに、ストライキへの参加を事由とした解雇通達が労働者らの元に 10 月中旬より届き始め、以降労働者らは 749 名が一斉に懲戒解雇されています。この事態に対して国家労使関係委員会(NLRC)が調査と仲裁に当たっており、2019 年1 月にはスト参加を事由とした懲戒解雇が無効であることをその調査報告書で明確に示しています。しかしながら、懲戒解雇された労働者らへの復職手続きは遅々として進んでいません。3 月 25 日には NLRC が懲戒解雇無効を再度通達するほか、仲裁の元での労使交渉を試みましたが、スミフル・フィリピン側が欠席しています。以降も復職手続きは進まず、749 名の当該労働者のスミフル・フィリピンへの正規雇用化は一人も実現していません。組合員やその家族への嫌がらせも続いており組合活動に参加する労働者の安全も保障されていません。この間にもスミフル・フィリピンは不当な懲戒解雇で減らされた人員を他の請負事業者の下での非正規労働者で補填して操業を続けており、多額の利益を得ています。そしてその利益は半数近くの株式を有する住友商事へも配当されているとみられます。

 住友商事はこれまでに何年間もそのように利益を吸い上げながら、これら問題が表面化し、国内外で事態の異常性が報道され始めるや否や労働者への暴力行為を含む人権侵害を放置したままで株式を売却し、株主としての責任を逃れようとしています。しかし、それは無責任以外の何物でもありません。住友商事は、長年利益を吸い上げ、住友グループとしての名を冠するバナナ事業を展開してきた相応の責任を完全なる撤退の前にとるべきです。

以上

<署名団体>
エシカルバナナ・キャンペーン実行委員会
/国際環境 NGO FoE Japan

<本声明に関する問い合わせ>
特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
担当:田中 滋
〒101-0036 東京都千代田区神田淡路町 1-7-11
TEL:03-5209-3455
/FAX:03-5209-3453
/office@parc-jp.org

※ビデオ「甘いバナナの苦い現実」(アジア太平洋資料センター製作)

http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/banana_new.html

※国連グローバル・コンパクト(United Nations Global Compact)とは、1999年の世界経済フォーラムにおいて、当時国連事務総長であったコフィー・アナンが企業に対して提唱したイニシアチブである。グローバル・コンパクト(GC)は企業に対し、人権・労働権・環境・腐敗防止に関する10原則を順守し実践するよう要請している。(ウィキペディア参照)

※国連のGlobal Compactのウェブサイト

https://www.unglobalcompact.org/

2019年6月19日現在、9913社が署名している。

※エシカルバナナ・キャンペーン

https://www.e-banana.info/

 

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/

〔opinion8740:190620〕