「茶会旋風」なんて茶化しているのではないが(三) 11月10日
アメリカ社会の衰退ということには多くの見解があると思うが、僕はそれが基本的に進行していると認識している。今回のアメリカの中間選挙の根底にはそれがあったのだと思える。アメリカは外交(軍事)的にも経済的にも行き詰まりにあり、その(チエンジ)を期待しオバマ政権の誕生を支えたリベラル派は失望し、選挙に消極的であった。オバマの進める医療制度改革、金融制度改革、あるいは景気対策としての財政出動に保守派は反発した。オバマ政権はリベラル派の失望と保守派の反発に挟撃される形で大敗したのである。この構図は日本で今、総選挙をやったならば同じような姿となって現れるかもしれない。政権交代に期待した人々は失望し、菅政権に背を向けている。そして,外交政策での失態(?)は右派勢力を勢いづかせているようにみえるからである。もっとも日本の保守勢力に「茶会運動」を組織するだけの力がるかは疑問であるが。
オバマ政権の誕生過程で発生したリーマンショックによる金融投機経済の破綻の顕在化は緊急の財政出動を不可避とした。ヘリコプターからドルをばら撒くと言われた財政出動は金融収縮を避ける緊急避難といわれた。金融収縮による恐慌的状態は回避できたにしても不況を解決はしなかった。不況の深化よる失業率の拡大は改善されたはいない。アメリカは財政出動(政府の支出による景気刺激策)から金融緩和策(貨幣の増刷による景気刺激策)取り始めている。そしてドルの増刷は過剰な資金となって新興国経済のインフレを誘発する懸念を生じている。財政出動策はともかく金融緩和策は非難の声が上がっている。基軸通貨としてのドルが通貨の安定性を自ら破壊する所業であり非難されて当然である。これはアメリカにとってはドル安による輸出の増大と借金の減額であり、一石二鳥かもしれないが、ドルの信用の失墜を意味する。これはドルの基軸通貨としての地位を不安定なものにする。アメリカはユーロの通貨としての不安定さによってこれを相殺し、日本や中国に対しては政治的に対応することで信用の維持をはかろうとしてきた。アメリカは民主党政権に存在した日米同盟の見直し派の排除を画策し、中国と接近を内包する東アジア共同体志向を潰してきた。日米同盟の墨守と中国脅威論の画策はアメリカにとって基軸通貨ドルの信用の失墜を防ぐ目的であり、尖閣列島騒動は格好の事件だった。中国の内部問題[統治権力上の問題]は日本との関係や東アジアでの共同体の成立を困難にしているが、このこととアメリカの画策は別である。アメリカからの自立は一層切実になる。オバマの敗北をこのように受け止めなければならない。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0208:101112〕
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茶会旋風」なんて茶化しているのではないが(二) 11月6日
「茶会旋風」は新聞の報道で知ったくらいなのでよくわからないところがある。だから、想像力を働かせるしかないが民主党側の対抗運動は不発であったらしい。オバマの登場を可能にした「チエンジ」を求める動きが保守側に移行したかに見える「茶会旋風」に対して民主党側の対抗運動が成功しなかったことに僕の興味はまずある。民主党やオバマが政権の座に就き、その具体的動きがかつての「チエンジ」を支えた人たちの期待を失望させたであろうことは想像できる。その場合にオバマの取ったどのような政策が失望を誘ったかであるが、緊急の経済対策(財政出動)や医療制度・金融制度改革などがそうであったと思われない。外交上での一定の協調政策がそうであったとも思わない。
オバマ勝利の可能にした「チエンジ」の要求の中にはイラク戦争やアフガニスタンでの戦争政策の転換が含まれていた。ブッシュ大統領と共和党の進めてきた反テロ戦争の転換の要求が強かったはずである。泥沼化を深めるだけの戦争からの脱出が期待されていたのだ。オバマは結局のところブッシュの戦争路線を転換させるのではなくそれを継続した。この面でオバマを押し上げていた熱気は冷めて行ったのではないどろうか。マスメディアは今回の中間選挙の争点が経済問題であって、外交問題はそれになっていないと報じていた。これはオバマの外交路線をかつての支持者が満足し納得したためであろうか。そうではないと思う。外交問題の中心に位置するイラクとアフガンスタンでの戦争に対してブッシュの路線とさして変わらないところに失望したのではないのだろうか。かつてのオバマ支持者はこれで熱が冷めたのである。戦争問題が中間選挙の争点にならなく背後にある民主党やオバマの支持者の失望と選挙離れが存在したのではないのか。
リーマンショックによる不況の深化や失業者の増大に対するオバマ大統領と民主党政権の政策に対してアメリカの保守層(白人を中心にした中間層)が伝統的意識から反発したのが「茶会旋風」と伝えられている。これについては共和党の内部でも対立があり、奇妙な振舞いといわれるが、これに対抗する民主党側の運動の不在こそが敗北に要因だったように思う。これは経済問題での解決を展望できる構想がオバマや民主党にないということもあるが、それ以上に先の戦争処理での失望が重なったのである。この旋風がアメリカ人の現在意識の表現であるというより、対抗の不在がそれを際立たせただけではないのか。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0203:101107〕
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茶会旋風」なんて茶化しているのではないが(一) 11月5日
人は期待するものがあると失望する。といって期待を持たずにはいられない。人に期待せず期待もされずというのがいい生き方なのだろうがなかなかそうはいかないのである。政治家は一種の人気稼業というところがあるから、人気を看板のように背負うし、自己過大評価化(自尊心の誇大化)という宿業を持つものだ。アメリカの白人はそういう傾向が強いと言われるが中間選挙における「茶会旋風という報道から最初に得た印象である。アメリカでは選挙のたびに現政権が批判されるという傾向がみられる。これにはアメリカ人の現状と先行きに対する不安感が深刻度を増し、政党や政治家はそれに対する対応力を失い、政局という名の政治対立の道にはまり込んでいることがあるのだと推察される。別段、これはアメリカだけのことではない。日本の政治も同じような状態にあることは誰もが知ることである。あまり詳しい内情は伝えられていないが、中国やロシアだって似たような状況にあるのだと察することができる。
アメリカが経済的にも政治的にも苦境にあり、これはアメリカの歴史的衰退に根拠づけられている。あるアメリカの高官は「アメリカの衰退はあり得ない」と声高に言っていたが、こういう発言そのものが衰退を表しているのだと思えた。アフガニスタンやイラクでの戦争の行詰まり、あるいは金融投機経済の破綻(リーマンショックと金融恐慌の発生)はこれを物語っている。この衰退故の危機感が自己過大評価という病として現象したのが「茶会旋風」ではなかったのか。「アメリカは特別な国家である」「米国は史上類を見ない偉大な国家である」など、茶会の支持を受けた共和党議員の発言ではないか、確かにアメリカは新世界として第一次世界大戦後に世界から期待されてきたし、この幻想は長らく存続してきた。自由を信奉し、アメリカンドリームが夢見られていた。しかし、9月11日事件を契機とするアフガニスタンやイラクへの侵攻と戦争の継続は偉大な国家、自由な国家アメリカの幻想をはがし、幻滅を深めた。これは何よりもこれらの現地に派遣された兵士の4割が心的外傷を負うてることが証明している。経済的にはドルの増刷と垂れ流しに関わらず経済の好転はなく、貧困の広がりすらみられる。アメリカの白人中間層がこの危機に敏感に反応したのが「茶会旋風」であると伝えられるが、自己過大評価という病ではそこからの脱出は不可能ではないか。アメリカの衰退という現実の認識がなければ危機を超える道は見えてはこないだろう。僕らの好きだったアメリカは自己過大評価という病の克服なしに再生されることはないと思える。
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
〔opinion0198:101105〕