(2022年6月5日)
一昨日(6月3日)、東京高裁(渡部勇次裁判長)が「ニュース女子ヘイト報道事件」での控訴審判決を言い渡した。判決の結論は、当事者双方からの控訴を棄却し、昨年9月の一審判決をそのまま維持するとした。
このところ選挙ムード一色の赤旗が、4日の社会面トップでこの記事を報道した。その見出しが、「DHCへの賠償命令維持」「辛淑玉さんへの名誉毀損認定」である。簡潔さがよい。形式的には、一審被告の法人格名は「株式会社DHCテレビジョン」である。そのとおり表記すべきが正確とも言えるだろうが、実質において「DHCテレビ」は、DHCの一部門に過ぎない。「DHCテレビ」はDHCの一人会社である。全株式を所有しているのが親会社DHC。もちろん、 「DHCテレビ」 の代表者はDHCのワンマンにして差別主義者として知られる吉田嘉明(取締役会長)である。このデマとヘイトに満ちた恥ずべき放送は、いくつもの部門をもつDHCの部門の一部に、その社風ないしは体質が表れたと見るべきであろう。違法と断定され、550万円の支払を命じられたのは外ならぬDHCなのだ。
赤旗は、本日も続報を掲載している。「一歩踏み込んだ」「『ニュース女子』訴訟控訴審判決」「原告の辛淑玉さんら評価」という、原告・弁護団の記者会見記事。
一般紙では、東京新聞の報道が、長い見出しで主要な論点を押さえている。「DHCテレビ『ニュース女子』の名誉毀損を認定」「高裁も一審判決支持『番組に真実性は認められない』」
東京新聞の報道は、注目されたところ。何しろ、DHCテレビとならんで被告にされたのが、元東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋なのだから。長谷川はこの番組の司会を務めていた。それでも東京新聞は真摯な報道姿勢を貫いている。そして見出しに「DHCテレビ」を出している。以下、一部を引用する。
「判決は、辛さんが組織的に参加者を動員して過激な反対運動をあおっているという番組の内容に、真実性は認められないと判断。現在もDHCのサイトで番組が閲覧できる状態で「韓国人はなぜ反対運動に参加する?」などとテロップで表示されているとして、「在日朝鮮人である原告の出自に着目した誹謗中傷を招きかねない」と言及した。
番組の司会者だった本紙元論説副主幹の長谷川幸洋氏の責任については「番組の制作や編集に一切関与がなかった」とし、一審と同様に認めなかった。長谷川氏が辛さんに損害賠償を求めた反訴も同様に退けた。
番組は東京メトロポリタンテレビジョン(TOKYO MX)で2017年1月に放送された。昨年9月の一審判決は、DHCに賠償と自社サイトへの謝罪文掲載を命じた。
判決後の会見で辛さんは「名誉毀損が認められてうれしいが、沖縄に対して申し訳ない気持ちもある。平和運動や沖縄を、在日である私を使ってたたくという、二重、三重に汚い番組だった」と振り返った。金竜介弁護士は、判決が出自に絡む誹謗中傷に言及した点に「人種差別をきちんと認めたことは評価できる」と話した。
朝日の見出しは、「東京MXの「ニュース女子」、高裁も「名誉毀損」 賠償命令を維持」である。これはいただけない。この見出しだけだと、東京MXが被告になっているように誤解されかねない。DHCの責任が浮かび上がってこない。
この番組を巡っては、BPO放送倫理検証委員会が 東京MX に対して、「重大な放送倫理違反があった」とする意見を公表。遅れてのことだが、 東京MX は番組の放送を打ち切り、辛淑玉さんに不十分ながらも謝罪している。DHCが頑強に、謝罪もせず、番組の削除もしなかった結果が訴訟での決着となった。朝日の見出しは、「東京MX」を「DHC」か「DHCテレビ」とすべきではなかったか。
毎日の見出しも、面白くない。「『ニュース女子』訴訟、制作会社に550万円賠償命令 東京高裁」である。「制作会社」とはそりゃ何だ。「DHC」も「DHCテレビ」も出て来ない。デマとヘイトの企業に、いったい何を遠慮しているのだと言いたくもなる。
当然のことながら、沖縄の報道は辛口である。沖縄タイムスは「沖縄差別 裁判問えず 辛さん勝訴 笑顔なし ニュース女子訴訟」と見出しを打った。辛さんが、「沖縄に対して申し訳ない気持ちもある」と言った点に、沖縄からの共感である。
そして、琉球新報が下記のとおり伝えている。「『プチ勝訴』ニュース女子制作会社が主張、上告も示唆 控訴審判決受け」という見出し。この明らかな敗訴判決を「プチ勝訴」というDHC側の異常な感覚を曝け出している。
「ヘイトスピーチ反対団体の辛淑玉共同代表への名誉毀損を認めた東京高裁の控訴審判決を受け、被告側のDHCテレビジョンが3日午後、東京高裁前で番組の収録を行った。同社の山田晃代表(社長)は「プチ勝訴」などと主張する一方、「金銭的な部分で不服」として賠償責任を負う点に不満を示し、上告を示唆した。
勝訴とは言わない。プチ勝訴と考えている。山田代表は同日午後の控訴審判決後、東京地裁前に姿を現し、報道陣に独自の主張を展開した。「プチ勝訴」とした理由について、同社ホームページで掲載を続ける番組の削除が命じられなかった点を挙げた。一審に続き550万円の賠償命令が出た点には「会社としてはね、やっぱり1円でも」「金銭的な部分で不服とするのは当然」と述べて「不当判決」とした。今後の方針を問われると「もうワンチャンスある」「上告に向けて検討する」として、「事実認定」の変更が期待しにくい最高裁の判断に望みを懸けた。」
この会社の体質がよく表れている。判決理由で「放送内容の真実性は認められない」「現在もDHCのサイトで番組が閲覧できる状態で『韓国人はなぜ反対運動に参加する?』などとテロップで表示されている。だから『在日朝鮮人である原告の出自に着目した誹謗中傷を招きかねない』とされていることに何も反省しないのだ。一・二審とも、謝罪文の言い渡しを命じられていることにも意に介している様子はない。
この会社は、つまりはDHCとその経営を牛耳っている吉田嘉明は、根っからのレイシストである。法や判決で命じられない限り、「ヘイトのどこが悪いか」と居直る体質なのだ。一つは判決で、そしてもう一つは良識ある民衆の批判とDHC製品不買で矯正するしかない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2022.6.5より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=19267
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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