本書のキーワードは、私たちの生活に深く関わりながら、その正体が定かとは
いえない「公共性」の概念である。
たとえば東日本大震災と福島第1原発の爆発では、「国策・公共事業」というも
のに根本的な疑念が浮上した。「公共の福祉」論は「公益と公の秩序」(自民党
改憲草案)への変質がもくろまれている。他方、だれもがアクセスすることを拒
まれない自由な空間・情報の公共性が、社会において不可欠なセイフティー・ネッ
トとしてポジティブに論じられている。
そして新自由主義のもとでは、資本が国家を利用し、その公共領域までも支配す
る。
本書はさまざまな場面に現れ、しばしば「国家=公共」を装って権利制限と
「受忍」を求める「公共性」に対して、本来の公共性とは“人間の生活・生存に
とって不可欠な要件・基盤のことである”という明快な尺度を提示する。
成田ではその出生から今日まで、「公共事業」の名による空港建設が、地元住
民の合意を得ないまま暴力的に進められてきた。その本質は、資本の利潤追求を
目的とした、人間生存のために不可欠な農業資源の収奪・破壊である。
TPPと企業の農業参入で日本農業が壊滅すると言われるなか、本書は成田の
空港問題とそこに生きる農民の姿を通して、農地と農業のもつ公共性を明らかに
し、人間社会のありようを問いかける。
1971年の強制代執行―戦後初の家屋農地の強制収用で知られる成田問題はいま
も解決しておらず、農地を守る農民の闘いは不屈に続く。発刊の契機となった市
東孝雄さんの小作地取り上げ問題は、3月26日に控訴審第1回が東京高裁で行
われた。この農地裁判は、全国にひろがる「日本農業を守れ」の声と重なり、成
田の農民闘争の新たな次元を感じさせる。
市東孝雄さんの小作地の来歴を語る序章にはじまり、成田空港の経済分析、鎌
倉孝夫氏の公共性論、石原健二氏の農政批判、三里塚ルポルタージュと、内容は
じつに多彩で読みごたえ十分だ。
(社会評論社 1,800円+税)
初出:『社会新報』2014年4月16日号より、許可を得て転載
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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