【東電前アクション!声明】吉田昌郎福島第一原発元所長の死に寄せて

【東電前アクション!声明】

吉田昌郎福島第一原発元所長の死に寄せて
「英雄視」による死者の政治利用がもたらすものを危惧する
http://antitepco.ldblog.jp/archives/29471779.html

■ 7月9日、吉田昌郎福島第一原発元所長が死去されたとの報にふれて、私たちは一人の人間の早すぎる死を哀しみをもって受け止めるものである。また、吉田元所長が、2011年3月11日に発生した福島第一原発事故において、生死のはざまの極限の状況で事故の拡大を原子力発電所所長という立場でなしうる最大限の努力で極力抑えようととしたであろうことについては疑いなく、私たちはその努力に敬意を表明するものである。たとえ、後に政府事故調査・検証委員会に「判断ミス」と指摘されるような対応があったとしても、その努力自体を否定することにはならないと考えている。

■ 福島原発事故直後、吉田元所長は「東電本店の意向に逆らって原子炉への海水注水を続けた人物」あるいは「東電本店の指示に対して、時には声を荒げ怒声をもって拒否することも度々ある」などと報じられてきた。しかし、私たちは、その死をもってしても忘れるわけにはいかない。吉田は東電の執行役員という役職の「幹部中の幹部」の一人であり、原子力ムラの一員として自民党に「個人献金」していた熱烈な原発推進論者であったということを。

また、吉田は原発事故による原子炉内の「メルトダウン」を2011年5月12日まで隠蔽し続けた現場における最高責任者であるということも指摘しなければならない。何より、吉田は事故発生前に、「安全対策」について東電本店に対してどれだけ「声を荒げ」、「怒声をもって」その実行を求めたというのだろう。吉田は本店に「安全対策」を求めるどころか、原子力設備管理部長だった2008年に「最大15.7メートルの津波の可能性」を認識しながら、「仮定の話に過ぎない」として津波対策を怠った張本人である。自ら推進した原発の施設の所長におさまり、事故が起きた際には最先頭で指揮を執るなどそれ自体は至極当然のことでしかない。

■ 私たちは、死者に鞭を打つために指摘しているのではない。そうではなく、死者たる吉田を過剰に賛美し、「日本を救った」(民主党:海江田万里代表)などと「英雄視」することこそ、原発事故が発生した原因究明と責任追及を妨げるものであるし、もはや語ることのできない死者を「政治利用」することによって侮辱すらするものだと指摘したいのだ。そして「日本を救った吉田所長」などという軍国美談じみた自己犠牲の礼賛は、「収束」作業の現場における「特攻隊」=生きて還れぬ作業の強制につながりかねないものであるし、日本社会全体に「国家奉仕のイデオロギー」を蔓延させることになりかねないことを私たちは危惧する。

吉田を「日本を救った」と持ち上げる海江田は、経済産業相として福島原発事故発生のわずか3ヶ月後には玄海原発の再稼働を強硬に主張していた人物であることを想起しないわけにはいかない。このような人物にとって、福島第一原発周辺の「警戒区域」および重度放射能汚染された宮城南部から福島、そして茨城北部はもはや「日本」の一部とは考えていないことが、この「日本を救った」というコメントから透けて見えるというものではないか。原発再稼働を主張する者たちはすべて、このような「福島」を切り捨てる思考の上にその主張が成り立っていると言わざるを得ない。

そして、吉田の原発事故の「現場責任」をその死をもって免責するような賛美と「英雄視」は、戦死者の存在をもって侵略戦争を賛美する論法と瓜二つであることも指摘しなければならない。戦争指導者として処刑されたA級戦犯すらも「英霊」として賛美し、その他の「戦争推進勢力」を戦後政界・財界において延命させ、「原発推進勢力」として姿を変えた彼らが原発を55基も建設した結果が福島原発事故だ。そして、戦争の責任を誰も自ら負わなかったように、原発事故の責任をいまだ誰もとっていない状況こそ「侵略戦争と原発」が通底している証左ではないか!

■ 私たちは、死者を賛美し「英雄視」し、原発事故の責任を免責するあらゆるグロテスクな言説に強く反対する。そして、「少なくとも789人」と言われる原発関連死(東京新聞調べ2013年3月11日段階)を強制された人々よりも、原発を推進し、その最大の「現場責任」を負うべき人物の死が美談とともに語られることを原発事故の原因と責任を覆い隠すものとして警戒するものである。

時あたかも、原子力規制委員会の穴だらけの「安全基準」が策定されて、4電力5原発10基が再稼働を申請し、東電が恥知らずにも柏崎刈羽原発の再稼働方針を打ち出し、また参議院選挙の選挙期間のさなかに吉田元所長の死が伝えられることになった。また、同じこの日に福島第一原発の地下水のセシウム濃度がこの三日間で90倍の1リットル最大1万8千ベクレル検出されたことが伝えられている。

私たちは吉田の死に際して、「少なくとも789人」と言われる原発事故関連死を強制された人々、甲状腺異常に苦しむ子どもたちに思いを馳せながら、けたたましく叫び続けなければならない。

「福島原発事故は終わっていない」

「原発推進政党・候補を打ち負かして、原発再稼働を阻止しよう」

「福島原発事故の原因と責任の徹底究明を」

「東電旧経営陣・勝俣前会長・清水前社長を逮捕しろ」

…と。誰の死もこの叫びを覆い隠すことはできない!

(7月13日)