【集団的自衛権問題研究会 News&Review :特別版 第38号】 (2015年9月20日)

9月19日未明、違憲の法案が強行採決の連発の末に「成立」しました。集
団的自衛権問題研究会では、川崎哲代表による以下の声明を公表しました。
ぜひご一読ください。また、特別委員会での強行採決を受けての声明も発
表していますので、合わせてご参照ください。

———————————–

http://www.sjmk.org/?page_id=445

安保法案「成立」を受けて- 今後の4つの課題

2015年9月19日
川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表)

本日未明、参議院本会議で安保法案が「成立」した。国会前に集まる人々の声、
全国に広がるデモや世論調査で示された国民の反対、野党の申し入れなどすべて
を無視した強行的な手法によるものであった。この法制は、その内容のみならず、
それを成立させようとする政治過程じたいが戦後日本の平和主義と民主主義を根
底から揺るがしている。そのことを本研究会はもとより、多くの学者、有識者、
ジャーナリストたちが警告し続けてきた。

それにもかかわらず、法案「成立」という事態を迎えた。今後、日本の国民と
政策立案者が共に向き合わなければならない課題を4つ掲げたい。

第一の課題は、この「法案成立」の有効性を問うことである。この法案は憲法
違反であることが多くの学者によって指摘されてきた。また、強行採決が無効だ
との法律家の指摘もある。今後「違憲訴訟」が提起されるべきである。裁判所で
の徹底的な違憲審査を通じて、傷つけられた日本の立憲主義を回復していく必要
がある。

第二の課題は、安倍政権の政治責任を問うことである。40年以上にわたって
歴代内閣が維持してきた憲法解釈を一内閣の閣議決定によって大転換し、反対論
を押し切って法案を一気に強行採決した安倍政権に対して、国民自身が審判を下
す必要がある。来年夏の参議院選挙は、この問題を争点とするものでなければな
らない。

第三の課題は、この法制の施行と運用をめぐる問題である。この法制は、自衛
隊が米軍等と共に海外で武力行使することを可能とするものである。しかしそれ
がどう実施されるかは、政府の運用しだいであるばかりでなく、国民の監視と国
会の関与によって大きく左右される。

この課題はさらに、二つの次元に分かれる。一つは、集団的自衛権の行使とし
て自衛隊が出動し武力行使をするというシナリオである。これについては「我が
国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆され
る明白な危険がある事態」に限るとされ、さらに、「他国を防衛するための武力
の行使それ自体を認めるものではない」ともされた。とすると、個別的自衛権の
発動以外にいかなる状況でそのようなことが可能なのかは甚だ疑問である。政府
はこの点を明確にできていない。引き続き追及が必要だ。

もう一つは、いわゆる「平時」における自衛隊の活動の拡大に関してである。
安保法制は、さまざまな事態で自衛隊がこれまでよりも格段に前面に出ることを
可能にした。そのことで「戦争を未然に防ぐ」ことができるというのが、推進側
の主張だ。しかし、中国、北朝鮮、国際テロなどいずれの問題をとっても、日本
で法制度が変わったからといってこれらの脅威が減るわけもない。問題は、日本
が実際にどのように行動するかである。その行動いかんで、脅威はむしろ高まる
こともあるし、衝突や戦闘の危険性を生むことさえあるのだ。

尖閣諸島では、自衛隊の行動が迅速化される。南シナ海では、自衛隊と米軍の
共同警戒活動が計画され、そこでは自衛隊による平時の米艦防護が可能とされる。
さらには、自衛隊が紛争地で任務遂行のために武器を使用することが可能となり、
その使用基準が策定されていく。これらの運用を一歩間違えば、自衛隊の行動自
体が引き金を引いて、取り返しのつかない事態となる。たとえ戦争と宣言されな
い状態でも、事実上の戦死者は生まれる。その危機感をもって、今後の政府の行
動を監視しなければならない。

憲法9条は、非軍事的な問題解決を国の基本原則と宣言している。戦争防止の
基本は、外交と平和的解決である。そのことは何度強調しても強調しすぎること
はない。

最後に第四の課題は、明文改憲問題である。安保法案に対する批判の中には、
憲法を変えずに解釈変更で進めるその手法に対するものが強かった。ならば今後
は、自衛隊が海外で活動できるようになったのだから、実態に合わせて憲法を変
えようという「なし崩し」的改憲論が浮上する可能性がある。元来、安倍自民党
は憲法改正を重要課題として強く掲げてきた。政権が明文改憲への歩みを加速さ
せることは十分に予想される。

いずれの課題に関しても、議論と意思決定の主体は、政権や国会の枠内でおさ
まるものではない。主権は国民にある。国会前そして全国に広がったデモの波は、
日本の民主主義の積極的な可能性を示している。その動きは、世界的にも注目さ
れている。21世紀の日本の行方を左右するこれら重要課題に関して、国民的な
議論と参加型民主主義の発展が求められている。

(以上)

———————————–

http://www.sjmk.org/?page_id=429

-参院委員会強行採決-
民主主義を破壊し、日本の平和を脅かす暴挙

2015年9月17日
川崎哲(集団的自衛権問題研究会代表)

———————————–

◆国会審議ダイジェストのバックナンバーはこちらから
http://www.sjmk.org/?page_id=11

————————————

発行:集団的自衛権問題研究会
代表・発行人:川崎哲
News&Review特別版 編集長:杉原浩司
http://www.sjmk.org/
ツイッター https://twitter.com/shumonken/

◇『世界』8月号に当研究会の論考が掲載されています。
http://www.sjmk.org/?p=300

◇『世界』7月号、6月号にも論考が掲載されました。
http://www.sjmk.org/?p=194
http://www.sjmk.org/?p=118

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion5685:150921〕