電気代一時不払いタイムス The TEPCO Unpaid Times
2013年8月21日号 転送/転載/拡散歓迎
最近、東電と話をした。わたしは毎月ランダムな金額を電気代として
振り込むことにしているので、月によって、足りないこともあれば、余ることも
ある。「そういう支払いの仕方は、事務処理上困るので、一度お客さんに直接返
金した上で、その場でもう一度正しい金額を領収したい」というのだ。
東電の都合に時間を割くのもばかばかしいが、こういうかたちで抗議をしよう
と考えた自分というのもいるわけで、腹をくくって、社員氏にひとつのたとえ話
をしてみることにした。
私:「たとえばの話ですよ。あなたの自宅にタンクローリー車が突っ込んでき
て、爆発を起こして、生活をめちゃくちゃにされたとするじゃないですか。お住
まい一戸建てですか?」
東電社員:「そうです」
私:「タンクローリーと家の残骸は、まだそのままなんですが、あと30年か50年
くらいで片付けると、運送会社は言うんです」
東電:「それは、原発事故のことですか」
私:「そう解釈されてもかまいません」
東電:(苦笑)
私:「この会社は、ドライバーは解雇されず、社長も辞任しません。法律で罰さ
れることもない。その上で、ガソリンを運ばないと会社の経営が成り立たないの
で、事故の片付けもできていないが、今までと同じように、社員さんの住む街な
かで、タンクローリーを走らせたいって言うんですよ。許せますか?」
東電:「難しい問題ですね」
私:「小学生でもわかると思いますよ」
東電:「現状を回復する、安全運転をするという約束があれば、許してもいいか
と…」
私:「約束だけでいいですか。運送会社は、社員さんご家族に、〈近所の
公園に仮設住宅を作るので、何十年か…片付くまで、そちらで暮らしてくださ
い〉と言うんですよ」
東電:「うーん」
東電:「他の会社も街のなかでタンクローリーを運転するのなら、危険は変わり
ないと思いますが」
私:「それは話のすりかえです。私は事故を起こした企業の責任を考えるため
に、この話をしているんですよ」
東電:「…。」
私:「東京電力における〈誠意〉とは、一体どんなものでしょうか。前からそれ
を聞きたかったんです。今お話しした運送会社には、誠意のかけらもないと思い
ます。私なら許しません。告訴しますし、操業停止を求める裁判のひとつも起こ
します」
そんな話をした。柏崎狩羽原発の再稼働というのは、これだけ不誠実な
行為だということが、話している自分にもだんだん分かってきた。 同時に、こ
ういうことも考えた。社員氏とも付き合いは長いので、彼自身は個人生活の中で
誠実な人物なのだろうと、想像している。
一方で、東電という会社がしていることは、どこまでも不誠実だ。その東電に
よる事故、そして原発再稼働による将来の危機を考えると、彼の個人生活
上での誠意というものが未来に占める役割はあまり大きくはないし、私にはたぶ
ん直接関係ないことだろうと。
社会というのは、主観的には善意の誠実な人間から成り立っていると、私は昔
から受け止めている。私がそうだし、東電社員氏もそうだ。ただ、つい遅刻して
しまったり、怠惰ゆえ努力の程度が足りなかったりするだけだ。
そして、この多くの善意の人間が、自分が働いている会社なり、機関なりの課
す労働に対して誠実であることが、社会を今の状態に形作っている。原発事故を
起こして、なお再稼働しようとする会社があり、個人のメールを傍受して政府に
差し出す会社があり、傭兵を政府に提供してイラク人を殺す会社がある。
話を東電に戻すと、情理のどちらにしても、たとえ話でしたようなのような無
責任を受け入れることのできる社員は多くないはずだが、その人々が、会社の方
針には異を立てずに、客からの苦情はせいぜいメモして帰るだけで終わってい
る。
私は東電という会社の外でわーわー騒ぐくらいしかできないが、彼らは会社の
中でできることがある、はずだ。
ときどき「地獄への道は善意で敷きつめられている」というけれど、その地獄
にしないためには、人々が誠実さや善意と呼んでいる主観的な何かを、よく見直
してみる必要がある。少なくとも東電社員と経営者は、「東電における誠実さと
は何か」を、タンクローリー車事故のたとえを踏まえて考えてほしいものだ。
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発行:電気代一時不払いプロジェクト
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