ドうシコ・タディチ著 岩田昌征訳『ハーグ国際法廷のミステリー』(社会評論社2013)2000円+税
戦争は犯罪を引き起こす。戦争そのものが、国家による犯罪の転嫁であることは、今日、しだいに明らかになりつつある、とわたしは考えます。
岩田さんが紹介。翻訳・解題をされた表題の書は、戦争の犯罪性を裏面から抉り出して、現代を根底から震撼させる恐るべき告発の書です。現代というものを擁護するなら、禁断の書という他はない。正義は、何処にあるのか?と問うて、誰も答えることができない民族と人間の奥底をさらけ出します。
この本のまえがきの次のページに「旧ユーゴ領内の勢力図」とBiH(ボスニア・ヘルッェゴビナ)の地方区分――あ然とするモザイク状の民族図――は、いったん争いが始まれば、地獄が待ち受けていることを予感させます。現実に、悪夢が「民族浄化」というおぞましい観念によって踊り始めたのでした。
日記を書いたタディチさんは、ムスリム系が九割以上を占めるプリェドル県コザラツという人口一万人ほどの町の中心部でカフェNIPONの経営していた空手の指導者、警察官で、事件の時、そこには居なかったにもかかわらず、逮捕され、国際法廷戦犯第一号にされて、懲役二十五年の判決を受け、十四年囚役した、どうみても無実の人です。
民族に本質はなく、民族観念は虚であることを『民族の虚構』(2008年勁草書房刊)という本で、著者小坂井昌昭さんが丁寧に解明しました。じっさい第二次世界大戦で終わっていたはずの民族戦争が、ヨーロッパのバルカンで、またもや引き起こされたことを噛み締めると、これから、克服できる方法があるのか、暗澹たる想いに沈はミステリーとありますが、判りにくさを読み解くには、人間という謎を推理すべきなのでしょう。
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