(2021年6月15日)
先週の金曜日(6月11日)、「改憲手続き法」(メディアは「国民投票法」とも)の改正法が成立した。これまで3年にわたって、8国会で棚ざらしになってきた法案の成立。典型的な不要不急の法案が、コロナ禍のドサクサに紛れての成立である。残念でならない。
これまで野党は連携して、この法案の成立を阻止し続けてきた。が、そのスクラムが崩れた。最大野党の立民が自民党に妥協したのだから、如何ともすべからざるところ。立民にも言い分はあるだろう。「情勢を読んでの最善策だった」「附則4条が、与党に新たな宿題を与えた」「事実上3年は改憲発議はできないはず…」。だが、果たしてそう言えるだろうか。なによりも、国民世論を背景とした改憲阻止の野党共闘を傷付けたことには、率直な批判が必要であろう。
「付則4条」とは、「施行後3年を目途に、有料広告制限、資金規制、インターネット規制などの検討と必要な法制上の措置その他の措置を講するものとする」というもの。改憲派は付則4条の措置がとられなくても、改憲発議は可能と広言している。この条項が、立民の思惑のとおりに生きるか、死文となるかは、今後の国民世論次第というしかない。
本日、改憲問題対策法律家6団体連絡会(社会文化法律センター・自由法曹団・青年法律家協会弁護士学者合同部会・日本国際法律家協会・日本反核法律家協会・日本民主法律家協会)は、連名で「『日本国憲法の改正手続に関する法律の一部を改正する法律』の可決成立に強く抗議する法律家団体の声明」を発表した。
この声明は、法案の成立に強く抗議しながら、立民の姿勢を批判していない。その点で、個人的にはいささかの異論の残るところではあるが、全構成員からの賛意を得るにはやむを得ない。その上で、法案の成立に強く抗議し、再結束して4項目の「安倍・菅改憲」を阻止しようという訴えに異論はない。
声明の全文はやや長いが、次の4節からなっている。
1 拙速な可決成立に対して、強く抗議する
2 改正法は、憲法改正国民投票の公平公正を確保しない欠陥法である
(1) 投票できない国民がいることを放置したままである
(2) 憲法改正国民投票の公平公正が担保されていない
3 改正改憲手続法のもとで、改憲発議を行うことは憲法上許されない
4 市民と野党の共闘で、自民党改憲4項目(安倍・菅改憲)発議を阻止しよう。
この、各節のタイトルをつなぐことで、次のように大意を把握することができる。
「議論未成熟のままの拙速な法案成立に強く抗議する。この成立した改正法は、(1)投票できない国民の存在を放置し、(2)憲法改正国民投票の公平公正を担保することのない欠陥法である。従って、この改正改憲手続法のもとで、改憲発議を行うことは憲法上許されない。このことを国民に明らかにしつつ、市民と野党の共闘を強化して、自民党改憲4項目(安倍・菅改憲)発議を阻止しよう。」
改憲発議を本丸攻撃に喩え、今回の改憲手続き法改正成立を、濠が埋められたに等しいという議論がある。今回の法改正で濠は埋められ城は裸になった。切迫した落城を危惧せざるをえない、というものである。私は、今回の改正法の成立をまことに残念には思うが、濠がなくなったとも、落城寸前とも思わない。
改憲手続き法は2007年5月の成立である。当時も濠を埋められた感はあったが、改憲派からの改憲発議はできなかった。その改正法が成立したから、また突然に危機が深まったとも考えにくい。手続き法は飽くまで手続き法。その整備は、改憲発議の気運成熟とは別次元のもの。
もっとも、改憲手続きが正確な主権者国民の意思を正確に反映するものでなければ、改憲発議の条件も整っていないことになる。だから、本日の6団体声明は、「改正改憲手続法も欠陥法で、この手続法のもとでの改憲発議を行うことは憲法上許されない」としていることが重要だと思う。その部分を抜粋して紹介したい。
「改憲手続法については、2007年5月の成立時において参議院で18項目にわたる附帯決議がなされ、2014年6月の一部改正の際にも衆議院憲法審査会で7項目、参議院憲法審査会で20項目もの附帯決議がなされる等、多くの問題点が指摘されているにもかかわらず、こられの本質的な問題点が、改正法ではまたもや放置され先送りとされた。
とりわけ、①ラジオ・テレビ、インターネットの有料広告規制の問題やインターネット、ビッグデータ利用の適正化を図る問題、②公務員・教育者に対する不当な運動規制がある一方で、外国企業を含む企業や団体、外国政府などは、費用の規制もなく完全に自由に国民投票運動に参加できるとされている問題、③最低投票率が設けられていない問題の見直しは、国民投票の公平公正を確保し、憲法改正の正当性を担保するうえで不可欠の根本問題である。
今回成立した改正法は、以上のような国民投票の公平公正を担保し、投票結果に正しく国民の意思が反映されるための措置について全く考慮されていない欠陥法であり、このままでは違憲の疑いが極めて強いといえる。」
相変わらず、改憲気運の醸成は希薄である。コロナ禍への対応に改憲が不可欠という改憲派の宣伝はまったく功を奏していない。そのことに自信を持ちつつ、じっくりと改憲阻止の世論高揚りために地道な努力を積み上げていくしか方法はない。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.6.15より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17045
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11019:210616〕