(2021年6月28日)
奸悪な指導者の政権は腐敗する。奸悪ならざる指導者の長期政権も腐敗する。ならば、安倍政権の腐敗は余りに当然のこと。そして今、後継の菅内閣が、安倍内閣の腐臭を承継している。
安倍政権腐敗の根源は、権力の過度の集中にあった。各省幹部官僚の人事権を掌握しただけでなく、警察、検察、司法、メディア、学術の支配をもたくらんだ。それぞれの対象領域のめぼしい人物に目を付けて、これを手なずけ子飼いにして、官邸の意思を貫徹しようとした。
どこの世界にも、権力に尻尾を振ることを潔しとしない気骨の人物はいるものである。しかしまた、どこの世界にも、自尊心に欠け、時の政権におもねることを躊躇しない人物もいる。官邸が「番犬」ないしは「守護神」を探すのに、手間はかからなかった。
このような人物としてよく知られているのが、杉田和博(警察)、北村滋(警察)、黒川弘務(検察)など。佐川宣壽(財務省)もその一人といってよいだろう。そして、メディアの部門では「ジャーナリストとしての良心を悪魔に売り渡した」とされる少なからぬ人物を数えることができるが、別格の存在なのがNHKの板野裕爾(専務理事)である。はやくから、安倍政権寄りのNHK幹部と目されてきたが、ここに至って菅政権が積極的にこれを使おうとして動いたとの報道である。
本日の毎日新聞朝刊2面に、「NHK異様な人事」「専務理事退任案 会長が土壇場撤回」「『政権寄り』 内部から疑問の声」という目立つ記事。さらに、社会面には、「板野氏再任『理由分からぬ』」「自民議員『官邸意向の可能性』」「『自主自律』に疑念」の大見出し。
渦中の人が、NHKの板野裕爾専務理事。安倍政権寄りとして知られ批判されてきた人物。本日の記事でも、「15年には…安全保障関連法案に関する複数の放送を見送るよう指示し、16年3月には政権の方針に疑問を投げかける『クローズアップ現代』の国谷裕子キャスターの降板も主導したとされる。NHK内では、いずれも当時の安倍政権の意向が背景にあったとみられている。」と紹介されている。
この禍々しい人物が、今年の4月に3期目の任期切れとともに当然退任のはずだったのが、直前に方針転換となって再任された。その不自然さは4月当時も報道されたが、今回はこの異様な人事の裏に、『官邸意向の可能性』というのが目玉の記事。それ故に、NHKに求められている「自主自律」に疑念が呈されている、という調査報道である。
長文の記事だが、ハイライトは以下のとおり。
NHKの前田晃伸会長(76)が4月、板野裕爾専務理事(67)を退任させる役員人事案を経営委員へいったん郵送させながら、同意を得る経営委員会の直前に撤回し、再任する案に差し替えていたことが毎日新聞の取材で判明した。経営委は賛成多数で再任案に同意したが、委員2人が反対した。送付された人事案の撤回は極めて異例で、人事案に反対が出るのも異例だ。NHK内部から、政権寄りとされる板野氏の再任の過程に疑問の声が上がっている。
複数のNHK関係者によると、当初は4月6日の経営委会合で板野氏の退任を含む理事らの役員人事が決められることになっており、前田会長は事務方を通じて4月2日に最初の人事案を各経営委員へ郵送させていた。しかし、6日の直前になって各委員に「なかったことにしてほしい」と事務方から連絡があり、6日の会合では理由の説明なしに人事案の文書は回収された。
放送行政に詳しい複数の自民党国会議員は「板野氏退任の人事案を知った首相官邸の幹部が、再任させるよう前田会長に強く迫ったと聞いている」と証言する。また、複数のNHK関係者は「前田会長は抵抗したが、断り切れずに翻意したと聞く」と話す。それは板野氏退任の人事案が経営委員に郵送された4月2日以降で、6日の経営委で回収されるまでの数日の間だったという。
放送行政に詳しい政府関係者は「安倍、菅の両政権が板野氏にこだわってきたのは、国民への影響力の大きいNHKの動向を監視し、政権批判をけん制したいからではないか」と指摘。ある自民党国会議員は「安倍政権の頃から、官邸は会長だけでなく専務理事などの役員人事にも目を光らせていた」と話す。
いうまでもなく、NHKは国営放送ではない。政権の広報担当ではないのだ。大本営発表を垂れ流した反省から公権力からの独立を謳って再出発した公共放送である。「自主自律」を標榜するNHKの人事に、官邸が干渉していたとなれば、大問題である。安倍政権の体質とその腐敗は、しっかりと菅政権に受け継がれている。
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2021.6.28より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=17115
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion11062:210629〕